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平民のち怪盗  作者: 参
19/63

19話 連行のち湯浴み

 綺麗に二人して川に落ちた。

 飛沫があがる。幸いだったのは落ちた先が深くなかったことだろうか。お互い尻もちをついてても、腰に到達すらしない浅瀬。

 まあ全身濡れたけど。


「……」

「……」


 しばし無言。

 川のせせらぎの中にポタポタ落ちる音がする。


「ヴィール……」

「あ、浅くてよかったねー」

「……」


 苦々しく声を絞り出したニウが相当お冠なのは分かる。私の棒読みな台詞の後の無言も合わせて怒っているのは嫌という程伝わった。


「まったく」

「なによ、そっちがさっさと返してくれれば私だって」

「初めてだな。川に落とされたのは」

「うっ…………ご、ごめん」


 咄嗟に掴んで巻き込んだのはこっちだし、そこだけは申し訳ないから謝った。


「俺をこんな目に遭わせるなんて」

「だ、だから、謝ったじゃん」

「ああ、そうだな」


 見上げたら、ニウの目元が緩んでいて息が止まった。

 大人びた上に大体眉間に皺寄せた不機嫌顔してて、今だって似たようなものなのに、緩んだ目元だけが幼さ残る少年のような雰囲気を見せた。なんで、よりにもよってこんな時に。


「え、と」

「帰るぞ」


 ざっぱと川から上がるニウと一緒に私の身体も浮いた。

 ん? 浮く?


「え?!」


 またしても荷物の如く小脇に抱えられた。


「いくら暖かい時分でも身体に障る。急ぐぞ」

「はい?! いや分かった。分かったから離して」

「断る。俺の家に行くぞ」

「やっぱり! いいよ、自分の家に帰る!」


 訴える私を無視して、ニウが貴族街の方へ歩みを進める。このまま屋敷入ったら泊まりなんじゃ? いやいや、やめてよ、もう泊まりとか嫌なんだけど。


「降ろして!」

「逃げるだろうから却下だな」

「くそおおお」

「その言葉は使うな」


 パタパタ水の落ちる音が響く。

 抵抗虚しく、私は再びニウの屋敷に連れて行かれた。


「遅かったですね、え、ええ?」


 迎えたホイスが首を傾げた。

 そうだろうね、困るよね。私も困ってるよ、この状況。


「あー、お湯用意します」

「ああ」


 豪華な絨毯が水を含んで色が変わる。これ、掃除大変なんじゃない? 侍女さんたちのオーバーワークフラグ立っちゃう。


「ほら」


 部屋は前と同じ客間らしきとこで、前と変わらず左手に湯浴みできる部屋があった。やっぱりもうお湯の用意はできていて、そこにゆっくり降ろされ立たされた。


「やはり一人がいいか?」

「う、うん?」


 それはもうあっさりニウは引いて、濡れた私をそのままに、分かったと言って部屋から出て行った。

 ここまできたら入るしかないかと思い、私は張り付く服を脱いで温まることにした。

 この家本当すごい。

 お湯が一瞬で用意できるなんて。広すぎて綺麗すぎて落ち着かないのは変わらないけど。

 というか、こうも頻繁に気軽に女性がお泊りするのはどうかと思う。人にルールやらマナーやら教えるとか言いつつ自分はどうなのか問いたい。


「……今日はこれか」


 お風呂場の中にバスローブがあったから、それを羽織る。髪から水が滴るけど気にしないまま扉を開けて息が止まった。


「ひゅっ」


 喉が鳴る。

 誰もいないと思ったら、侍女が一人待機していた。心臓飛び出すかと思ったわ。


「さっきぶりね、ヴィー」

「あ、ローミィ」


 顔見知りだった。よかった。あのドタバタからうまいこと解放されてたんだ~って、なんでここにいるの。


「さ、髪の毛拭こうね?」

「……」


 その両手には大きなタオル。まさかこんなところで、侍女に慣れる特訓? いやいややめようよ。

 それを貰おうと手を出しても避けられた。何回の攻防の末、ローミィは笑みを深くして、私が拭くとはっきり告げてきた。


「自分で」

「拭こうね」

「だいじょ」

「ね?」

「うぐぐ」


 目だけで近場のソファに座れと指示がきた。ローミィには譲る気なんて毛頭なくて、私はふらつきながらソファに座るしかなかった。


「なんで……」

「観念して。嫌なのは旦那様から聞いてるわ」


 タオルが私の髪の毛の房をとって包まれる。水分を吸い取るとこからか。

 いや、まて。聞き捨てならないぞ。


「旦那様?」

「ブライハイドゥ公爵は私の雇い主よ」

「え、じゃあ」

「伯爵のとこには、私もケイさんと同じで潜入してたわけ」

「……早く言ってよ」


 頭にタオルがかかる。ふっかふかだな。


「ごめんね、旦那様からの指示で」

「やはり諸悪の根源は奴か」

「ヴィール、旦那様のこと悪く言わないで」


 他人に髪の毛いじられるのって、やっぱりこそばゆい。自分でやりたい。でもまだローミィだからどうにか耐えられてる気がする。

 あれ、でもまって? 私ローミィに名前言ったっけ? んん?

 きいてみようかと口を開きかけたら、扉を叩く音がした。しかも私が返事をする前に開いた。性急すぎる。


「げえ」

「そういう顔は止めろ」

「ちょっと待った!」


 ローミィが終えたのか、タオルを外していく。遠慮なく入ってくるニウに対してきちんと礼をとった。えらいな、ローミィ。侍女の鏡。て、そうじゃない。


「なんだ」

「ちょ、なんで入ってくるの?」

「ここは俺の家だ。好きに出入りして何が悪い」


 すごい理論きた。


「そうだったとしても! 女性の前でその格好なに?!」

「……夜用のガウンなら、きちんと着ているが?」


 そうじゃないって。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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