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平民のち怪盗  作者: 参
18/63

18話 受渡しのち川ポチャ

「ヴィールさん」


 平民街の一角、川沿いに降りたつ。視界はひらけているけど人気はない。まだ未開拓で建物の少ない場所だから、明かりもなく丁度いい。

 そこに待ってましたとばかりにホイスがいた。


「ニウは?」

「直にいらっしゃいますよ」

「本当ひどかったんだけど」

「あはは」


 これはホイスも知っていたな。ひどい話、私完全にダシにされてるだけ。囮だ。

 陰になってるところを案内され、ちゃちゃっと着替える。怪盗衣装は目立って仕方ない。


「陳情は主人に直接お願いします」

「そうする。あ、これ」


 着替えて終わって、渡さなきゃいけない例の書類とよくわからないお金の中の書類を渡す。ホイスも二つ目の物で小首を傾けた。

 渡した紙を広げてじっくり見ていた。暗がりでも見えるなんて目いいな。


「どうしたんですか? え……」

「大事に保管してたよ。王室のやつ盗んだのかもしれないから、ニウからうまいこと返してもらえればいいんじゃないかな」

「分かりました」

「ヴィール」


 聞き慣れた声に振り返る。来たぞ、本日の困った奴が。


「では私は先に戻ってますね」


 自身の主人に二三伝えて、ささっといなくなるホイス。ニウはゆったり歩いて私の前に立った。

 全然申し訳なさそうな感じもない。


「聞いてないんだけど」

「ああ、悪かった。あれが一番効果的だったんだ」

「なにあのカード」

「作ってもらった。後はケイに仕込んでもらって」


 確かにケイさんならできそう。ローミィが来るまでの間もしかり、ローミィの作業中目盗んでやってもできる。


「ついでに言うなら、他の品に正しい場所へ戻すようにというカードも仕込んだ」


 本物で盗品に限る。

 なんだか今回、怪盗すっごく表舞台にぐいぐい出てきてない? 普段はこっそり盗んで、それをラートステが記事にして平民の間で喜ばれる話なのに、貴族の問題にぐぐっと入ってきている。

 まあそうして怪盗に視線を集めて、ニウは自分から貴族たちの視線を逸らすのが目的だったのだろうけど。やっぱりひどい。

 きっと睨みあげても、ニウはどこ吹く風でしれっとしている。


「家まで送る」

「結構です」


 一人ずんずん先に歩いてもついて来るニウに小さく溜息を吐きながら文句の嵐といこうか。


「てか自分でやればいいじゃない。ケイさんで充分だし」

「俺だと目立つし、すぐばれる。それに言っただろう、侍女しか出来ないと」

「ケイさん普通に裏側出入りできてたけど」

「あの日急遽補充として入っただけだ、運が良かった」

「にしてはカード用意してたり周到だったじゃない」


 その補充も本当に急遽だったの。決まってたんじゃないのと思われても仕方のないシナリオだ。


「カードは出来ればやるという保険にすぎない。一番はヴィールが書類を差し替えて、本物を持ち帰る事だ」

「その保険のプランをきちんと教えてよ」

「結果的に無事だからいいだろう」

「結果を求めてるんじゃないの!」


 過程大事! ラートステの言うほうれんそうも大事だから!


「こちらは巻き込まれないよう細心の注意を払っていたのに」

「はい?」


 月明かりに照らされたニウの表情は相変わらずだった。眉間の皺がひどくて不機嫌。

 でも今回は私、怒っていいと思うのだけど。何も聞いてないわけだし。


「何も知らないまま必死に逃げなきゃいけない身にもなって」

「逃げられるよう誘導した」

「なら、それも話してよ」


 心持ちが変わるんだから。そうするつもりの計画は全部公開でお願いしたい。


「てか、やっぱりひどくない?」

「ひどくはない」

「それ言う?」

「……表向き、俺が会場に堂々といないと怪しまれるから、側にはいられないだろう」

「ニウそんな有名人なわけ?」

「ああ、知らないヴィールが珍しい」

「ふーん」


 川沿いを進む。月明かりのおかげで歩きやすかった。


「……興味ないか」

「そこじゃないの。取引だから怪盗やるけど。あーもう何回言わせるの」


 と、何かが、落ちてかしゃんと音がなった。なんだろうと見ると、宝石のアクセサリーだろうか。いつくっついたんだろ……んー、お金いっぱいの部屋が怪しいかな。髪とかにひっかかりそうなデザインだし。


「ん? 何か持ち帰って来たのか?」


 ニウが手早く私の手から奪った。


「あ、だめ返して!」


 いくら不可抗力で持ち帰ったとしても持ち主は私になるでしょ。目利きの末、貧民街の子たちのご飯になるかもしれないのに。


「待て。持ち帰っていいものか確かめてからだ」

「ラートステに目利きしてもらうからいいよ。返して! うっかり引っ付いて来たなら、きちんと有効活用するんだから!」

「こら、暴れるな」

「なんでニウに権限あんの。返してってば!」

「待て。ん、これは、」


 背の高いニウの手に届こうとジャンプを繰り返していた私の足がずるっと滑った。


「あ」


 すぐにニウが気づいて私の腕を掴んだ。


「この馬鹿!」


 私側に傾いたせいでニウの重心が揺らぐ。

 体勢を整えようとニウのシャツを掴んだら、ニウも足をとられたのか、そのままこちらに傾いた。

 あ、これはだめなやつ。


「くそっ」


 小気味いい音立てて仲良く川へダイブだ。あー、怒られるな。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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