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平民のち怪盗  作者: 参
14/63

14話 私の一人勝ち byラートステ

「いいじゃない、ヴィールちゃん」

「え?!」


 気づいたら家に着いてしまっていたらしい。事務所からラートステが顔出して、にんまり笑ってこちらを見ていた。


「イケメンが必死すぎて凄くいいわあ」

「そう……」

「皆でいきましょ、ね?」

「楽しんでるでしょ……」

「そりゃそーよ! 人生楽しんだもん勝ちよ!」


 いつもの荷物を渡してくれて、その上で高笑いしながらラートステも付いてきてくれる。気遣いというよりは面白いから来る感じだけど。


「ヴィール、何故ここに?」


 着いた時に不可解だという顔をしたニウを無視した。結局説明もしてないしな。

 場所は貧民街。平民街の人間もあまり近寄らない場所だ。


「みんなー、きたよー!」

「ヴィール!」


 手前の家の子たちが気づいて出てきた。相変わらず痩せたままの子供達。でも声に張りがあるから大丈夫。


「はい、これ皆に」


 渡した袋ごと持っていく。配ってくれるのをいつも助けてくれる。ありがたい。


「ヴィール」

「そのへんで待ってて」


 言い捨て、一つの家に入る。扉は壊れていてそのまま。直すにしても、素材がないから。


「ヴィールちゃん?」

「はい、今日はどうですか?」


 少し汚れた寝具の中から身体を起こしたのは子供。その隣には母親が付き添っている。


「もうすっかり良くなったわね。動けるのよ」

「良かったです」

「ヴィール、もう外でてもいい?」

「そうだね、少しずつね」


 本当は医者に見せたいところだけど、私には伝手がない。だから分かる範囲での対処療法しか出来なかった。


「毒よ」

「毒?」


 ニウたちがこちらを覗いていたところをラートステが声をかけて離れていく。扉がないから結局全部聞こえてしまうのだけど。いや、その前に人様の扉の前で覗いてるってどうなの。まあラートステが全部説明してくれるなら手早いからいっか。


「道にある草をとって食べたのが毒草だったってわけ」

「え?」

「頻繁に摂取してたから、慢性中毒になっていたのよ。吐血してるところをヴィールちゃんが見つけて助けてあげたってわけ」

「この辺りに毒のあるものはなかったはずだが」


 確かになさそうだし、見られるようになったのは、ここ三年ぐらいだ。気候と土壌を考えれば、あっておかしくはないし、動物たちが運んでくることや輸出入がある限り可能性は否めない。

 ぱっと見たら、ただの草。素人が判別できるものではないから、こうしたことは起きかねない。特にまともに食事ができない貧民街の人達はやりやすい。平民の生活ボーダーは上がったけど、貧民はまだまだだ。


「これ、今回の分です」

「ありがとう、ヴィールちゃん」


 薬草を煎じたものを渡して家を出れば、ニウたち三人が話をしていて、その遠目から街の大人達が様子を伺っていた。


「たまに廃棄の食料が持ってかれていたのはここの為か」

「そうね。廃棄されるならいいでしょって」

「そちらは知られていない。連中は気にもしてないのだろうな」


 貴族たちは食事におけるもったいないを鑑みることはないのだろう。

 廃棄の食料が減ろうが構いはしないと。


「ヴィールちゃんの薬草って結構高値で売れるのよ。だからそれを自分の稼ぎにして、こうして貧民街に寄付したりしてるの」


 近づく私に気付いたニウが意外そうな顔をして私を見下ろす。


「そうなのか」

「まあそうだね」


 慈善活動という程ではないけど、これも縁だ。せめて自活できるぐらいまで、この街が平民街の一角になるぐらいまでは何かしらしようと思っている。


「しかし、随分大人しいな」


 周囲を窺うニウに対し、周囲は訝しんだ様子。きっと皆はニウが爵位のある人間だと分かっている。貴族あたりはその外見から気づかないかもしれないが、貧民や平民には違和感しかないだろう。ニウの言う淑女として云々は、こうした染み付いた所作や雰囲気を持てということなのかな。


「あ、このへんのヤンキーは皆更正したわよ。今では私が雇用してたりするけど」

「やんきー?」

「ならず者とか言われるよね」

「……まさかヴィール怪我は」

「ないよ。あの家の子助けた時にいれてくれたし、ラートステも間に入ってくれたし」


 今日はニウがいる手前、これ以上の周囲の接触はないだろうな。貧民街の人間は貴族たちを毛嫌いしてる嫌いがある。だからそれっぽいニウには警戒を怠らないだろう。


「若い男もいるのか」

「うん? 子供から大人まで幅広くいるけど」

「いるのか」

「うん、皆いい人だよ」

「……」


 何とも言えない顔をしている。ラートステが嬉しそうに笑っているから、まあ問題ないだろうけど。


「貧民だからって全員悪者とか言わないよね?」

「そうではなくて、警戒心なく接近するのはどうかと」

「大丈夫だって。てかニウ、それって悪者って思ってるってことじゃん」

「違う。俺は唯、身の危険について注意しろと」

「はい? ここの皆とは初めましてでもないんだからいいでしょ」


 初対面は多少注意するだろうけど、ずっと相手に警戒心剥き出しとか逆に失礼なんじゃないの。

 違う、そうではないとニウが苦々しくしてるけど、さっきからなに。なにが言いたいわけ。


「これからはかならず俺を連れていけ」

「え、やだ。なんでよ」


 むしろ一人で行きたい。


「自分の身を自分で守れるのか」

「私は敵地へ突撃する軍隊じゃないし。それに生憎、逃げ足だけは速いし」


 なにかあっても大丈夫、と念を押してもニウは納得しなかった。しつこいな。


「いや駄目だ。一緒に行く」

「いいってば」

「駄目だ」

「はあ? もういいや。知らない」

「ヴィール!」


 ラートステが私の一人勝ちと高らかに笑っていた。人の気も知らないでひどい。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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