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平民のち怪盗  作者: 参
13/63

13話 修行のち寄り道

「……」

「ここまでひどいのか」

「む、悪かったわね」

「ふふふ。面白い子を手に入れたわね、へルック」


 侍女特訓のスタート、ニウが迎えに来た。公爵なのに暇なのと思ったけど言わないでおいた。毎回それに付き合うホイスも大変だなあとか色々考えたけど気にしない。今日からの私は地獄だからだ。

 そして公爵邸の一室、おそらく客間なのだろうが、そこで私のレベルを見るとかでお茶をいれたり、礼をしたり、立ち姿をじっくり見られたりされた。

 そして溜息をつかれるという始末。


「ピュールウィッツ伯爵令嬢。ではこちらを」

「はい」


 身分とか名前とか伏せているはずが、夫人と対面した瞬間に即バレした。

 私、社交界に一度も出ていないに。

 ニウも私のこと知っているぽいし、なんで知っているか夫人にきいてみても応えてはくれなかった。父の講義を聞きに来たこともなかったみたいだし、それとは別で夫人は私のことを知っているらしい。謎だ。


「へルックが珍しく私を頼ってくれたから不思議だったのだけど、成程納得しましたわ」

「うぐぐ……色々すみません」

「貴方のせいではないわ。そういう時は謝らないの」

「はあ」


 ソファに優雅に座る妙齢の女性が引くこともなく微笑みながら私を見ている。

 彼女はウェッハ・トゥコムス・フリフツン侯爵夫人。

 私の指南役、これから先生と呼ばなきゃいけない相手。 


「夫人、間に合いますか」

「訛りはそう簡単にはいかないけれど、立ち姿とお茶淹れぐらいなら及第点までいけるでしょう」

「お願いします」


 まあそこからはスパルタだ。

 にこにこ上品な笑顔でえげつないぐらい厳しい指導。幸い体幹はよかったのか、立ち姿はすぐに身についた。歩き方はしんどかったけど、その姿で歩くと身体の歪みもとれるらしく、逆に学べてよかった。健康が身に着くなら大歓迎。

 お茶淹れは感覚的なものもあったけど、薬の調合の応用と思えばとっつきやすくなったし、種類は父の所有していた辺境地の動植物たちと比べれば段違いで少なく楽だった。薬草として認識している植物を嗜みで飲んでいる貴族の習慣には驚いたけど。部屋に植えてあるから、とれたて淹れてみようっと。

 まあ文面にしたら、さほど厳しくもなさそうな修行はあっという間に過ぎ去った。こんなしんどさ、後二週間もあるの辛い。


「二週間でどうにかなったか」

「ピュールウィッツ伯爵令嬢は素晴らしいわ。飲み込みも早く、短期間でここまで出来るなんて」

「えへへ」

「調子に乗るな」

「なんでよ」


 夫人は厳しいけど出来たら褒めてくれる。なのに、ニウときたらお茶淹れてみせても及第点ギリギリとか言ってきた。素直に美味しいと言えないの。


「努力してるんだから、少しは褒めたら」

「淑女になれたらだな」

「私、平民」

「ピュールウィッツ伯爵令嬢」

「はい、申し訳ございません」


 柔らかい声なのに人を引締める効果があるからすごい。私の言葉遣いだって少しは改善してる、はず。


「先生」

「どうかして?」

「私、伯爵位を剥奪されてるんです」

「ええ、存じています」

「呼び方なんですが」


 夫人は今の呼び方はレッスンの一部だという。淑女たるもの、下の名前で呼ばれることはない。夫や婚約者だけだと。

 私、潜入のために礼儀とか習ってるんだよな……どこに到達する気なんだろう。呼び方の到達地点がよくわからない。


「貴方が勉強熱心な方で私も安心したわ。数日お休みがあってからの再開だけれど、復習を怠ったら駄目ですよ」

「はい」

「ふふ、貴方が気に入るわけね」


 視線をニウに向けて笑う夫人に対し、ニウは無表情。

 可愛らしい人だと言われて嬉しくしてたら、またニウにだらしないと窘められた。

 なんでよ、素直に喜んだらいけないわけ。

 婦人の目の前だから悪態もつけない。別れ際に夫人に感謝の言葉をかけ、見送りを二人でするまでニウは無表情のままだ。なんだろ、この顔。


「帰るぞ」

「うん」


 相変わらずホイスと共に三人で帰路に入る。なんだかんだで慣れつつあるから怖い。


「そうだ」

「どうした」

「あ、いや、なんでもない」


 寄りたいところがあるなんて話したらついてきそう。なのに、なんだと詰め寄ってくる。どっちにしても一旦家に帰るし、いつも一人で行ってるしな。


「また採取か」

「違う」

「ではどこに。もう直に日が暮れる。夜は一人で出歩くなと何度も言っているのを分かっているのか?」

「分かってる……その、寄りたいところがあって」


 考える素振りを見せてニウは俺も行くと言ってきた。やっぱり。


「いい」

「一人で行く気か」

「ラートステと行くよ。それでいいでしょ?」


 眉間の皺がすごい。不服ですって言ってるようなものだわ。


「行ってはいけない理由は」

「いけないわけじゃないけど」

「なら何故そこにラートステがでてくる」


 本当は一人が一番なんだけど、そこは怒られるから伏せとこ。


「事情をよく知ってるし」

「なら俺に今話せばいいだろう」

「説明面倒」

「なんだと」

「ともかく、大丈夫だから帰っ」

「いいじゃない、ヴィールちゃん」

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