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平民のち怪盗  作者: 参
12/63

12話 研究部屋公開

「面倒見なきゃいけない子がたくさんいるからだめ」

「子? お子さんいましたっけ?」


 ホイスの言葉にニウの眉間に皺が寄る。まあ年齢的にいてもおかしくはないけど、そうじゃない。


「いないよ……見た方が早いから来て」

「分かった」

 

 仕方ないので、彼らを自分の部屋に案内することにした。ラートステも一緒に来てもらえば、年頃の男女が同室という醜聞は避けられるだろう。あ、でもラートステ外見男の人だ、事務所にいた時点でアウトじゃん。


「いいや、ツッコまない」

「どうした」


 なんでもないと軽く返して部屋の扉を開いた。


「はい、私が面倒見てる子たち」

「……なんだここは」

「うわあ、森の中みたいですね」


 埋め尽くされる植物は全部サンプルだ。そして部屋の中を羽ばたく小鳥たち。ちょっとした森の中的な。


「この鳥は」

「放し飼いにしてるだけ」

「……」


 私がとってきたのもあるけど、父の研究で扱ってる子たちもいる。まあ少し増えすぎたかなとは思っていたけど。

 本当は鳥以外の動物も迎えたいのだけど、なかなか難しい。なにせ植物たちの維持費だけでも賄うのに苦労してるし。さすがに自分の貯金と薬草代だけだと、今からある程度節約していかないと厳しい部分がある。

 前までは父の功績で王から研究費が出ていた。それが全くないのやっぱり痛い。けど、父のように功績をあげないことには研究費は公的機関からは出ない。


「ここで暮らしているのか?」


 さておき、今は当初の目的を果たそうか。


「うん。あっちの奥にベッドがある」

「うわあ、生い茂ってて見えませんよ」


 ヴィールさん本当に? とホイスも驚いている。ラートステはあらあら言いながら笑っているだけだ。知ってるしね。というか、むしろ一般の居住部屋を研究室にしてることを許してくれてるあたり、かなり優しいと思う。


「……事情は分かった」

「通いでいい? 父の研究を続ける為にも、ここの子たちを枯らせたくない」

「こちらが迎えに行く」

「よし」


 なんとか交渉に成功だ。まあ水やりだけなら、水が循環する装置をラートステに作ってもらってたから放っておいても問題ないんだけどね。

 まだ伯爵位を持ってた時に辺境地に一週間行くというんで作ってもらった。さすがラートステ、伝手が無限。


「あ、そうだ」

「どうした」

「ニウ、魔法使えるよね?」

「ああそれがどうした」


 中にいれるのはさすがにだめかと思い、扉の前で待たせたまま、あるものを持ってきた。

 母が金庫と呼んだ小さな箱だ。


「魔法がかかってて開かないやつ」

「……確かに魔法がかかっているな」


 渡した箱をじっくり眺めてニウが真面目な顔をする。やっぱり魔法をかけているか。


「たぶんママが魔法かけてて」

「母が、だな」

「今は言い方許してよ」


 父は魔法が使えたか微妙なところだ。母は確実に使えていた。けど、時間軸を考えるとこの箱は父が何かいれて父が魔法をかけたようなのだけど、そこは説明しなかった。

 もしかしたら仕掛けだけは母がつくり、父が利用してるだけかもしれない。そうなると魔法をかけたのは母で間違いないし。


「預かってもいいだろうか」

「あ、それは無理」

「何故」

「この部屋から出せないの」


 ニウに箱を持つ手を引いてもらい外に出してもらうと箱が消える。部屋の奥へ行けば箱は元あった場所に戻っていた。


「持ち出せないようにされてる」

「……高度な魔法だな」


 解くには時間がかかりそうだとニウは言う。


「そっか」

「時間をくれ。どうにかする」

「いいの?」

「構わない」


 俺も気になるとニウは言った。

 なので、遠慮なくお願いすることにした。もしかしたら父か母かの何かがあるかもしれない。それが望めるなら見てみたかった。

 形見と呼べるものはこれだけみたいなものだ。研究も形見だし、奪われたかんざしもそうだろう。けど、この箱に特別なものが入っていたら、やっぱり嬉しいし、それが形見になるならいいなと思う。


「では明日からだ、逃げるなよ」

「む、わかってるよ」

「時間がないから、かなり詰める」

「えー」

「伯爵の侍女募集まで二週間しかない。潜入してからも二週間あるからな」


 一ヶ月って言ってたしね。

 でも、ん? 当日に潜入じゃないの? 長期潜入? 侍女募集? え?


「ちょっと待って。募集までの二週間でどこまでやれるようにするの?」

「立ち方、礼、歩き方、お茶淹れから始まる給仕全般、それから」

「待った! 多すぎ! 少なくしてよ!」

「これでも最低限だぞ」

「うそ!」


 伯爵に気に入られる為に、今話していた倍の身に着ける項目があるとか。やめてよ、怪盗なんて裏から入ってぱぱっと盗めばいいじゃない。


「正直、伯爵に気に入られる為に磨くというのが気に食わない」

「どういうこと?」


 僅かに目を震わせた。


「いや、なんでもない。それよりもいいか。こちらは教師を連れてくる。食って掛かるようなことはするな」

「はいはい」

「はい、は一回だ」

「もう帰って」


 なんだかイライラしかしなさそうだけど、やるしかない。これは取引、簪のためにも土地のためにもやらなきゃ。

 ラートステは最後までテンション高く嬉しそうだったけど無視しといた。怪盗といえば、変装だ王道だと喜んで……こっちは全く楽しくない。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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