11話 怪盗の依頼
「ラートステ」
「!」
あらやだタイミング最悪とか言って、ちっとも最悪な顔をしてない。私が来たところ見計らってわざと言ったな。
悪趣味だ。いつだったかイケメンとやらをからかって振り回したいとか宣わっていたけど、そういうこと。まあニウは顔面いいからな。
ソファに座るニウの耳が赤かった。応えることはしなくて済んだけど、そんな話振られたくもないよね。
「てか私の家知ってたわけ」
「……」
反応がない。知っていたなら、あの日逃げようが逃げまいが変わらなかったということ。無駄に走った意味がない。
「ふうん」
「ど、どちらにしろ、これからの事を話すのに、互いの所在は知っていないといけないだろう」
「誤魔化した」
「事実だ」
ラートステに怪盗としての取引をしてることは朝帰りして騒がせた時に話してはいた。たぶんその手の話は私が着替えてる間に終えているだろう。
ラートステとしても、簪の行方を確実に把握できる伝手を欲しがっていた所もある。
ニウの言う通りに取引するのは些か癪だが仕方ない。いつまでも怪盗をし続けていれば、その内足がつく。早く簪見つけて、のんびり研究生活送りたいし。
「何しにきたの」
「取引の事だ」
ホイスがタイミングよく紙を出した。ラートステと一緒に見やる。
「オークション……伯爵……」
「ヘダハトゥ・ドリンヘントゥ伯爵だ。一ヶ月後、伯爵主催でオークションが開かれる。表向きは海外美術品のオークション、払われた金銭は国に寄附される」
「ん?」
表向き。
これはとラートステが一人盛り上がり始めた。怪盗ものでありがち~とも言っている。新聞連載のネタが入ったとばかりに、個人的にメモを取り始めた。誰か、止めてよ。
「この日、裏でもオークションが開かれる。そこに潜入してほしい。こちらがほしいのは書面だ。裏とはいえ伯爵は取引について書面のやり取りをしたがる。それをとってきてほしい」
「簪は?」
「あるなら裏オークションだが、今の所その情報はない」
「そっか」
今回、伯爵が侍女の雇用を行っているらしく、それに乗っかって侍女として潜入しろとも指示が出た。
「なんで」
「伯爵は侍女の一部にオークション品の運び出しを命じている。侍女である方が近づきやすい」
「ふうん」
「その為には伯爵の好みに合わせる必要があるな。ヴィールはお茶を淹れられるか?」
「……」
できるわけがない。自分自身が飲むというだけの簡単にいれる方法しかしらないし、貴族の小難しいお茶の淹れ方は称に合わなかった。両親はたまにいい茶葉が入れば、きちんと淹れていたけど、教えてもらうことも教えを乞うこともなかった。
「……では、茶の種類は分かるか。飲む時間は」
「……」
え、なに、種類はまだしも時間帯って決まってるの。好きな時に飲めばいいじゃない。
なんだそれって思いが顔に出てたらしい。ニウが苦い顔をした。
「そもそも礼の角度から分かっているか」
「は、話には聞いたことある、よ?」
視線が泳ぐ。無茶だ。そんなもの習ってない。
「やはり淑女としての振舞いと言葉を覚える所からか」
「じ、侍女なのに? そんな必要?」
「当たり前だろう。自分の家で雇ってなかったのか」
「いなかったし! 年に何回か単発で掃除お願いするくらいだったから……」
「だからって礼も出来ないのか?」
「できるし! ただ沢山種類あるの知らないだけ!」
「それは出来ないと同義だ!」
盛大に溜息を吐かれた。ひどいと叫ぶと、なぜかラートステがニウの助け舟を出してくる。
「ヴィールちゃん、侍女って伯爵令嬢や男爵令嬢もなったりするのよ」
「え、そうなの?!」
「平民からの子もいるだろうけど、その伯爵、オークション品任せるってことは、そこそこの令嬢侍女じゃないとダメなんじゃない?」
「その通りだ」
ということは、その伯爵侍女になるには、ニウの言う淑女の振舞いだの嗜みを学ばないとだめってこと? 必要になるってこういうこと?
「うふふ、いいわねえ。修業回、そして磨かれるヴィールちゃんいいわあ。待ってたわあ」
「ラートステ……」
「日がないが仕方ない。今日から公爵家に来い」
「げえ」
その声もやめるよう言われる。しかも泊まりみたいなこと言うから、なんとかそれを阻止させる。なんでこと泊まりに関して、そんなにごり押しなのか。
いくら決まった相手がいないからって、ほいほい女性を泊まらせるのはよくないでしょ。
まあ、今そこはいい。ひとまず泊まりを阻止だ。
「面倒見なきゃいけない子がたくさんいるからだめ」
「子? お子さんいましたっけ?」
ホイスの言葉にニウの眉間に皺が寄った。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。