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平民のち怪盗  作者: 参
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1話 婚約破棄のち平民落ち

「婚約破棄だ」

「そう」


 頷く私に多少戸惑いを見せた目の前の婚約者、いや元婚約者。ステルク・リヒトゥ・ヴェルランゲン公爵とは正直片手におさまる程しか会ったことがない。

 そのほぼ他人、顔見知り程度の男の家に呼ばれ、客間で婚約破棄を言い渡された。


「お前の犯した父殺しの罪は本来、死罪に相当するものだ。それを僕の力をもって免れたんだ、感謝しろ」

「はあ」

「しかし罪は罪だ。この度王はお前を平民に処するとした。寛大な措置だろう」

「はあ」


 本来、破棄を言い渡されたら、公爵側から違約金でも貰えそうだが、ない罪を被っている私に原因があるので、そういったものも発生しない。まあ少なくとも彼の手に持つ書類が公的なもので、婚約破棄が確実なのは嫌でも分かる。


「じゃ、帰る」

「は?」


 さよなら、と軽く挨拶して帰ることにした。まだ話がと言う男を無視して、片手をあげて部屋を出る。控えていた公爵の侍従も僅かに動揺していた。ポカンとしたままの公爵を一瞥。人に冤罪吹っかけておいてどういう顔してるんだろ。


「よーし、さっさと帰ってお茶しよ」


 二回目ともなると、気持ち含めた諸々の準備ができていたのでどうにかなった。


「最初はびびったもんなあ」


 あの家で言い渡され着のみ着のみのまま放浪するなんて中々笑える。でもその時私は衣食住に加え資金まで奪われ、どうしたものかと途方にくれていたわけで。

 いや、野宿はかまわないし、着るものも今着てるものだけでもよかった。問題は家に置いていた研究物や資料が取り返せなかったことだ。


「今回はばっちりだもんね」


 貴族達の住む場所から離れ、平民街の一角に入る。貴族街のものと比べると劣るが、綺麗でしっかりした集合住宅に着いた。ここが今の私の拠点だ。


「あら、お帰り~ヴィールちゃん」

「ただいま」


 この建物の管理をしつつ、一階に事務所をかまえる見た目は男性、中身は女性の商人・ラートステに私は世話になっている。


「随分すっきりした顔してるわね?」

「うん。ほら、一応書類上婚約してた付き合ってもいない男に、今日別れを切り出されて」

「前話してたやつ?」


 頷く。

 名ばかりの婚約者がいることや、私が伯爵位を持っていたこともラートステは知っていた。父との縁があったから私を知っていたのだけど、その把握している情報が異常。でもそこに助かっている。


「今日から自由!」

「それ詳しく」

「明日で」


 ええいけず~と宣う恩人を無視して部屋に戻った。

 元々いた屋敷と比べれば狭いこの部屋には、私と父の研究サンプルやら資料やら全部揃っている。

 三年かけて少しずつここに移動した。後は平民生活を満喫しながら、研究を続けるだけ。


「ヴィールちゃん」

「はいはい」


 部屋の扉を開けるとラートステが忘れていたと、あるものを持ってきた。


「今日のことは明日聞くわ。先にこれ渡しとくわね」

「ありがとう」


 渡された紙には欲しい情報が載っている。


「ふむ、明日でるか」

「じゃ、次はこれ!」

「げえ」


 ラートステが取り出したのは、普段見ないような服だ。その手に疎い私でも、それが市場にないとわかる。


「何度も服変えることないかと」

「いやよ、それじゃ楽しくないわ」

「ええ……」

「約束でしょ。私の情報と協力の引き換え」

「ぐぐぐ」

「じゃ、よろしくねえ」



* * *



「ていうか」


 肩を落とす。

 貴族の所有する大きな屋敷のてっぺんで風にあたりながら独り言だ。


「なんで怪盗やってんだろ」


 というか、屋根の上って警備弱いよね。なんて。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


明日より毎日夜更新、50話程で完結予定です。

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