昔、悪役令嬢として婚約破棄をされた女と、真実の相手を見つけたと、令嬢を裏切り婚約破棄を宣言した王太子が10年後、職場で上司と部下として偶然再会してみたら? どうなる?
「あなたが私の上司?」
「あなたが部下ですかよろしく」
私はどうしてこの人が? と頭を抱えました。
10年前に心変わりをして婚約破棄をした私の元婚約者だったからでした。
「あなた、魔法の素養なんてあったのですか」
「はい、氷魔法の素養がありまして、こちらに就職したのですよ。ユリアナ」
「今はノーマ・ジーンですわ。……レイモンド様」
「今は私はノーマンというよ。名前よく似てるね」
砕けた口調は昔に戻ったようですが、水色の瞳、銀の長い髪、氷の王太子と言われた彼は相変わらず優しい笑みでこちらを見るばかり。
「……炎の魔法属性があった私と違ってあなたが!」
「だから素養があったのです。よろしくノーマ。私はこれから上司です」
私は魔法協会所属の魔女、炎が私の素養、炎の魔女ともいわれていました。私は10年前に彼が別の人に恋をしたから婚約破棄すると宣言されてぽいされた女でしたわ。
そこからもう男なんて信じない! と私は魔法学園の教師に職を紹介してもらって魔女になりました。
「あなたの真実の恋のお相手は?」
「別の男と通じましてあげく妊娠、あはは騙されました。そこで私はその責をとって廃嫡ですはい、氷の魔法にそこから目覚めて、魔法使いになりました」
私実は知ってましたわ。ことの顛末を聞いていい気味だなんて思ってましたの。
嫌味すら通じませんのねこいつ。
椅子に座った上司はにこっと笑って、魔法協会の私は支部長、君は私の補佐といいます。
「あなたって知っていたら受けませんでしたわ!」
「……受けたものは仕方ない、昔のことは昔と割り切るしかありません、よろしくノーマ」
クスクスと笑うその笑い方! 昔それをやさしい人だからなんて思っていた私がバカでした。
「……ええよろしくノーマン支部長」
私はどうして名前が似ているのかと頭を抱えながらも彼に着任の挨拶をしたのでした。
「……氷の魔法って突然素養が現れるって」
「ええ。私の場合は元婚約者の裏切りをきっかけとしてらしいですが」
ノーマンがくすくすと相変わらず嫌味な笑いをしながら語ります。いえ、なんというか同じ部屋に三人しかいないのですわ。小さい支部ですし……ああ地獄ですわ。
「なので、かなり貴重らしいですね」
「……」
「支部長、書類整理終わりました~」
「ああありがとう、そこにおいておいてください、ミーシャ」
「はーい」
私が頼んだ仕事なのに、支部長に報告か! 私はにこにこ笑う娘を見ました。
年齢は17歳、雑用係としている魔女ですけど……。見た限り違和感が少し。
甘えた声を出して、次なんでもやりますうと、なんとなくいけ好かないと思ったら元婚約者の浮気相手とよく似てるのですか。
「ユリイカの地方で山火事だそうです。私とあなたに要請がきました、すぐ行かないと」
通信が入ったと水晶玉に手をかざすノーマン、いや……山火事って魔法使いがいなくても……。
かなり大規模らしいというので私は仕方なく用意をして、転移陣をとミーシャに指示します。
「はーい、支部長!」
相変わらず嫌味ですわ。ここに入って二か月ですが、ずっとこれですわよ。
私はミーシャのことは気にしないようにと言い聞かせ、陣に向かいました。
ノーマンがこちらを見てにっこりと笑います。
顔は相変わらずキレイですけど……微笑みがやはり嫌味ですわ。
「……火の精霊の暴走とは」
「私の精霊より上位ですわ……」
森が火に包まれています。火の精霊の力の暴走とわかりましたが、火の精霊は気が荒い、なら上位の精霊さえいればなんとかなるのですが、私の精霊は下位でした。
氷の精霊なんぞけしかけたらもっと怒りますわ……。
「出直すしかないですわノーマン!」
「いや、氷の精霊をぶつければ相殺できるねこれ」
にっこりと笑い彼は手をかざし、呪文を唱えます。強い力、これって……。
「万年雪の氷の精霊って上位中の上位、しかしその属性って!」
「……愛する我が君、この炎を消してほしい。そうだね、対価は僕の心だ、いつも通り」
にこりと笑うノーマン、現れたのは白い透き通った女性、かなり高位とわかります。
雪とともに現れた彼女はこくりと頷き、ノーマンに口づけました。
「あなた……何を対価に」
「さあ、消し去ってくれ!」
氷と吹雪……あたり一面を白く白く、白く……一面の赤を消し去っていきます。
でも。これは、これは……この力は危険すぎますわ。
ノーマンはいつものように笑っています。私はどうしてこんなことにと頭を抱えて炎が消えるのを茫然と見ているしかありませんでした。
「あなた万年雪の精霊の対価は人の心ですわ。心を削り取られたら最悪」
「心がなくなれば考えることすらできなくなる感情が消え去り、生命が停止しますよねえ」
私は炎が完全に消え去ったのを報告し、支部に帰ってから、どうしてあなたはそれを隠してと怒りましたわ。
だって契約しているのはただの氷の精霊だと聞いてましたのよ。
高位精霊との契約の対価は絶対に犠牲を伴いますもの……私の対価は私の髪、しかも数本程度ですが。
「私、生まれてからずっと彼女と一緒でして、心が消えていくのですよねえ。しかも彼女、私が人を愛するのを嫌いまして、私が愛する人を消してやるっていうもので」
優しいといわれながらも、感情がないといわれて……ああだから氷というあだ名がついたのでしたわ。
私は見ないようにした事実を思い出しました。
「契約を解除しないといけませんわ!」
「……もう遅いのです。私、もう心の大半を削られました。申し訳ありません、私あなたにあんなことをしたのは……」
私の耳元で小さく囁くノーマン、いえレイモンド様、私は今からだってできますわよと彼を抱きしめます。
いえだいぶ持っていかれましたね、と彼は虚ろな瞳で私を見ました。
「もう生きるのに疲れましたね……」
「駄目ですわよ、私まだあなたのことが!」
私は彼を抱きしめて、ダメと何度も首を振りました。でも彼はあなたをここに呼び寄せたのはとまた耳元で小さく囁きます。
「炎の精霊、わが願いを聞け……」
私の目から涙が零れ落ちます。ずっと彼を見ていた、心がないといいますがいつも寂しそうでした。
私は炎の精霊にある命令を下します。
「万年雪の精霊よ、願い通り、僕の体はあげる。でも心はあげない」
彼の体が炎に包まれる……白い氷と吹雪が辺りに舞う。
私はどうして? と彼の体をぎゅうっと抱きしめて尋ねます。
「君の呼ぶ声に耳を傾けてしまう、愛してしまった。だからあんな茶番で君を遠ざけた。でも愛している。彼女が君を殺すとでも会いたくて、会いたくて、会いたくて、会いたくて……」
「わが契約精霊、フレイオール! 彼の心を守れ!」
私のすべてを対価として私は万年雪の精霊の力を遮断しました。ええ。愛しています。その心を。すべてを。
「生まれ変わったら……普通の人になりたいな」
「私も」
「愛しているよ」
「愛していますわ」
赤に包まれる私たちの体、あの火事を消し去ったのは彼のやさしさ、たくさんの人があの山火事で困るからとでもあれで制限が来てしまったと囁かれ、僕を殺せなんて。
「一緒に行きますわ」
「すまない」
「今度、今度生まれ変わったら……」
「うん」
私たちの体を結界に閉じ込め、私は精霊に最後の命令を下しました。私たちの体が炎に包まれ……。
生まれ変わったら、多分……でも最後まで付き合って差し上げますわ。私のレイモンド様。
愛していますわ……私のあなた。
ずっとずっと一緒ですわよ。レイモンド様。
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