表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

OL桑原さんの言い返し

OLの桑原さんの言い返しーカスタマーハラスメントー



「お電話ありがとうございます。修理受付センター担当、桑原(くわばら)でございます」


 どうも。私、普通のOLの桑原と申します。

 私は今、業務用機械会社の修理受付窓口のコールセンターで働いています。


 お豆腐メンタルですから、クレームが怖くて受話器を持つ手がフルフルと震えます。

 それを友人に話したら、「あなたは豆腐というより、乾燥したガチゴチの最強高野豆腐だから」と言われました。

 解せません。最強高野豆腐とは何なのでしょう?


 さて、今日も張り切って電話をとっていたのですが……。


「異常が出ているのは一台ですね。画面にエラーコードが表示されていると思いますので、教えて頂けますか?」


「面倒臭い。いいから、早く直しに来い」

 お客様の発言に、私は早々に『これは危険だな』と察知しました。


「作業員が訪問した際に店舗側に原因があった場合は、出張費や作業費が発生致します。エラーの内容によっては、店舗で解消することもできますので、まずはエラーコードについて教えて頂けますか?」


「はあ? お前の会社の機械がダメだから悪いんだろうが!」


「ご不便をお掛けしてしまい、誠に申し訳ありません。原因を特定するためにも、エラーコードを教えて頂けますか?」

「お前が直接、店まで見に来ればいいだろうが」

「それは出来かねます」

「チッ。もっと親身に対応出来ねぇのか!? お前、名前は!?」


「桑原と申します」


「名前、覚えたからな。随分と生意気だよな。こっちはお前の会社の製品を使ってやってんのに、アフターケアも出来ねえのかよ!?」


 こちらを見下す横柄な態度と言葉に、私は声のトーンだけは申し訳なさそうな雰囲気を出して、冷めた無表情で対応を続けます。


「ご不快な思いをさせてしまったのなら申し訳ございません。お客様の望む、アフターケアのためにもエラーコードを」

「お前、それしか言えないのかよ!? 」


 私は辟易としました。話の通じない相手との会話は疲れるものです。


「エラーコードが確認できず、訪問修理を希望されるのでしたら、費用が発生する可能性がございます。ご了承頂けるという事で、よろしいでしょうか?」


「よろしくねえよ! 了承するわけないだろ! 無償でしろ! おまえ、本当に馬鹿だな! ちゃんと知識あんのか!? いや、知能があんのか!? お前のせいで時間を無駄にしてるじゃねえか!! 話になんねぇな!」


 お客様は怒鳴り散らして、精神的に追い詰めようとしてきます。怒れば、自分の望み通りに事が運ぶと思っているのでしょう。私はフウと小さく息を吐き出して口を開きます。


「話にならないのは、どちらでしょうか?」

「はあ?」


「何故、たった三桁のエラーコードを答えるだけという子供でも出来ることをウダウダ拒否されているのでしょうか? そもそも、この通話が長引いているのは、お客様がたった数秒を惜しんだせいですよね?」


 お客様が一瞬、気圧(けお)されたように言葉を失いましたが、すぐに怒りを思い出したのでしょう。受話器越しに相手の怒気が伝わってきます。


「お前、新人か!? 勤続年数を言え!!」

「働き始めて半年ですね」


「やっぱり、まだ新人じゃねえか! 俺はな、お前のとこの製品を二年以上使ってんだよ! それに、こっちはお前の会社と同じように機械を扱っている会社なんだ! お前より、知識が豊富なんだよ! 自分の知識不足を棚に上げて喚くんじゃねえよ!」


「喚いているのは、お客様かと。それに、機械を扱っている会社にお勤めなら尚更、エラーコードの重要性と状態の確認が必要なことがわかりますよね? 長年使って頂いて知識が豊富と言うのなら、エラーコードの内容だって理解していますよね?」


「エラーコードなんて知るか!」

「私より知識が豊富だと、ご自分で仰ったではありませんか。それに、弊社の製品を設置した際に取扱説明書をお渡ししていますよね?」


「う、うるせえよ! そこまで言うなら教えてやる!」


 お客様が、ようやくエラーコードを言いました。

 私はパソコン画面に映していたマニュアルでエラーの内容を確認した後、内心溜め息を吐きました。


「推奨使用時間を大幅に超える使用のために、一時的にリミッターが作動した状態ですね。暫く使用を止めて頂いて、機械の熱を冷ました後、電源ボタンの入れ直しで解消する可能性がございます」


「今すぐ直せって言ってんだよ!」


「お客様側の過度な使用が原因のエラーですので、作業員を訪問させるとなると、間違いなく費用が掛かりますが、よろしいですか? こちらは説明書にも本体にも、連続稼働時間の制限を記載しています。正しく使って頂けないと、製品にも不具合が生じるのは当たり前ですから」


 正しく使わなかった方が悪いと言う私の発言に、電話の向こうから何かを殴りつけるような殴打音が聞こえました。


「本当に生意気な奴だな! お前、今どこにいる!? 今から、お前を殴りに行ってやるからな!! お前の接客態度が悪いことを会社に言いつけて、クビに追い込んでやる!!」


「言いつけて頂いて構いません。この通話は録音されております。お客様が私に対して行った誹謗中傷や脅迫の証拠として、この通話記録を警察に提出させて頂きますので」


「は!? け、警察!? 脅迫ってそんな……」


「”殴りに行く”と言う暴力的な発言は、脅迫に当たります。私は身体的な恐怖を感じましたので、警察へ被害届を提出させて頂きたいと思います。後日、警察の方からお客様へ連絡があるかもしれませんが、ご対応よろしくお願いします」


 コールセンター勤務が決まった時に、理不尽なクレームが来た際に備えてネットで少々調べていました。自分の身を守るためにも、知識を身につけるのは大事です。だって、私は豆腐メンタルのか弱い普通のO Lですから。


「私が被害届を提出したら、お客様には前科がつきますね」


「ふ、ふざけんなよ! お前、名前は……」

 

「桑原です。これで、名乗るのは三度目です。二度目に名乗った際、私の名前を覚えたと言いましたよね? それすら記憶にないとは、知能が無いのですか?」


「は!? お前、客に向かって、なんて口を聞くんだ!!」


「”なんて口を聞くんだ”は、こちらの台詞ですよ。面識もない人間に知能ないだの、お前呼ばわりだの、殴りに行くだの。一体、どういう神経と思考回路をしていらっしゃるのでしょう? 社会人として、いえ、人間としてどうかと思いますが?」


 残念ながら電話の仕事では、相手や周囲からは見えないということもあり、理不尽なことを言われることは多くあります。お客様という立場を間違った方向で優位に使いたがる人が多いのも困りものです。


「見えない相手だからと、好き勝手に暴言を吐く人間を誰が敬うと? 思いやりの欠片も無い方を、私は大切にしようとは思えませんから。それでは、今回の対応についてお話を」


 ガチャンと乱暴に受話器を置かれた耳障りな音を最後に、通話が終了しました。

 私は溜め息を吐いてパソコンを操作し、席を立って上司の元へ向かいます。


「すみません。ご報告したいことがあるのですが」

「どうしたの? 桑原さ……なんか、すごく怖いんだけど」


 私の顔を見て、上司が引き攣った表情を浮かべました。


「すごく素敵なお客様がいたので、二度と再起出来ないように………いえ、丁寧に対応させて頂きたいと思いまして」


 やられたらやり返す。たとえ、電話越しの相手でも、お客様であっても。

 働いているとは言えど、私は一人の人間ですから。『お客様』という立場を使って、感情がある一人の人間を暴力や暴言で傷つけていいわけがないのです。


 今までは周りにいる方が大人の対応をされていたから、あのお客様も好き勝手に振る舞えていたのでしょう。周りの優しさに気付きもしないで、自分は偉いのだと調子に乗る。真面目に仕事をしている人間が酷い目に遭い続けるなんて、私は嫌ですから。


(今度は、こちらが追い詰める番ですね)


 これからのことを考えて、私はニッコリと笑います。上司に「ヒッ!」と悲鳴を上げられてしまいましたが、何故でしょう?


 その後、横暴なお客様がどんな目に遭ったかについて詳細を語ることはできませんが、一言で表すなら、「スッキリしました」と言っておきます。

  

 

読んで頂き、ありがとうございます。

よかったら、『OL桑原さんの言い返し』シリーズで投稿している他2作品も読んで頂けると嬉しいです。


『OL桑原さんの言い返し』→ https://ncode.syosetu.com/n2146gp/

『OL桑原さんの言い返しー恋愛マウントー』→https://ncode.syosetu.com/n2545gp/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ