第弐話 思い出した
気がつくと上戸は知らない和室で寝かされていた。
どうなってるんだ。
上戸は寝起きの頭をフル回転させていると襖が開いた。
「慶太くーん、お粥もってきたよ。」
エプロン姿のさっきの少女が上戸のまえに現れた。
あ。
上戸は少女を見てすべてを思い出した。
「あのー、あなたはいったい誰なんです。」
「もー、ひどいな慶太君忘れたの。」
少女はほほをふくらませた。
「黒田咲だよ、黒田咲。昔よく一緒に遊んだでしょ。。。。」
「さ、咲ネエ?」
上戸の中で幼き日の記憶がよみがえる。
十年前
慶太の近所には泣く子もだまる黒田組があった。
当時六歳だった慶太はそんなことは知らず、そこの一人娘で二つ年上だった咲とよく遊んでもらっていた。
「ねー、慶太君。」
「どーしたの咲ネエ?」
咲の膝の上に乗っていた慶太は咲を見上げていった。
「私、しばらく慶太君に会えないかもしれないの。」
「え?」
上戸は泣きそうな顔になった。
「どうして。」
「私、お引っ越しするの。」
「えー、そんなのいやだよ。咲ネエ」
慶太は咲にすがりついた。
「私もいや。だからお父さんにどうすればいいか聞いたの。」
「おじちゃんなんて言ったの?」
慶太は不安そうに聞いた。
「うん、十年待ってもらって慶太君と結婚して黒田組の跡取りになってもらえだってさ。」
「うん、ぼく咲ネエのためならなんでもするよ。」
「うれしい。じゃ、約束ね。」
そういうと咲は慶太を強く抱きしめた。
あのときのことか
上戸は今考えると結構恥ずかしい約束を思い出した。「ごめん、今まで思い出せずに逃げちゃって。」
上戸は頭を下げて謝罪した。
「......。」
上戸が頭をあげると咲は泣いていた。
「ど、どうしたの咲ネエ。」「慶太君が私のことおぼえててくれたーー。」
そう言うと咲はおもいっきり上戸に抱きつき、やわらかな唇で慶太の唇をふさいだ。
「!!」
上戸はいきなりの出来事にあたふたしていると。
咲は唇を離した。
「私を慶太君のお嫁にして下さい。」
咲は顔を赤らめて言った。
「こんなぼくでよければ、喜んでだよ、咲ネエ」
そういうと慶太は咲を抱きしめた。
「咲〜〜。」
突然襖が開かれ、着物を着た白髪のかっこいいおっさんが泣きながら入ってきた。
「組長!!お嬢!!おめでとうございやした。」
おっさんに続いてぞろぞろとヤクザな方々が入ってきた。
「え?」
上戸は咲が極道の女であることをすっかり忘れていた。