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アンパンマンが、お得意のアンパンチでバイキンマンをやっつけた。「バイバイキーン」と負け台詞を吐きながら、バイキンマンが遠くに飛ばされていく。
テレビの前で自分もいっしょになって「アンパーンチ」と声を出して右手を突き出した優太は、気合を入れるように鼻から息を吐き出し、洗濯物を畳んでいた私を振り向いて、言った。
「ママをいじめる人がいたら、僕が守ってあげるからね」
私は、優太の後ろで洗濯物を畳みながら、ふふっと笑って、「ありがとうね、ゆうくん」と微笑みを深くする。
先月六歳になったばかりの優太は、誕生日を迎えてから、よくこの言葉を口にするようになった。昔は――半年前なら、絶対に口にしなかった言葉で、アンパンマンなどのヒーローもののテレビを好んで見るようになったのも、ここ三ヶ月くらいで急に、だった。
「さあ、見終わっちゃったなら、ご飯にするよ。手を洗ってきて」
私は優太の頭に軽く手をのせ、微笑んだ。
「うん」
優太はにこりと頷いて、リビングのドアを開けてぱたぱたと洗面所に向かう。優太の小さな後ろ姿を目で追っていると、LDKの十二畳の部屋にがらんとした広さを感じて、無性に寂しくなる。私は優太に聞こえないように、悲しみを溶かしたため息を大きく吐き出し、畳んで段になった二人分の洗濯物をぽんぽんと優しくなでた。半年経った今も、悲しみは色褪せてはくれない。
二人で暮らすには、十二畳は広すぎる。それでも、私は優太と二人で、寂しさを感じるこの部屋に住んでいたかった。
洗濯物を手にとり、立ち上がる。窓から見える街並みは、びゅうっと吹く冬の風で寒そうに震えているように見える。だから、なのかは分からないけど、洗面所から戻ってきた優太が、「ママ、ご飯運ぶの手伝う」と笑う声に、どうしようもないくらい寂しさが溶けているように聞こえてきて、だから、「ありがとうね」と応える私の声にも、寂しさが溶け込んでしまう。私の声に滲んだ寂しさを、優太は感じ取ってしまうのだろうか、分からない。
あれから、二つ目の季節が流れている。窓から見える一月の空には、今日も綺麗な星が浮かんでいた。