どうすればWeb小説文化を後世に残せるのか?
前章ではWeb小説文化が「本当に自分が好きと思える作品を書き続ける」という多様性に関する条件を満たせていないことをお伝えしました。
であれば、条件を満たすために「創作者は流行りに流されずに自分の好きな作品を書けばいい」と思うかもしれません。しかし、今のWeb小説文化でそれをすることは前章でお話しした通り合理的ではないため、この選択をした創作者は創作を続けること自体が困難になってしまうでしょう。
それに、この文化の構造に関する問題は創作者に依存しているのではなく、プラットフォーマーやメディアと呼ばれる創作者よりも外側で文化を支えている存在に大きく依存しているため、創作者の心掛けでどうこうなる問題ではありません。
では、どのようにすればこの条件を満たすことができるのでしょうか?
この問いに対する私の答えは文化の構造に個人向けの作品の流通経路を追加することです。
パーソナル向けの作品の流通経路とは、人と人とを直接繋げた経路のことで、この経路を使うことで読者へ作品をピンポイントで届けることができるようになります。
しかし、誰でも繋がれば作品を読まれるようになるわけではなく、もちろん読者が求めていない作品は読まれないでしょう。何万人と数が多くとも浅く繋がってしまえばそれはマス向けの流通経路と同義になるからです。
パーソナル向けの流通経路の繋がりでは数ではなく深さに価値を置きます。
ここでの深さとは繋がった人と人とがどれだけ嗜好が似ているかを表し、繋がりの深さが深いほどその経路で流通させた作品が読まれる可能性が高くなります。
また、創作者が自分と似ている嗜好を持った読者と繋がりたいと思った時に自分の嗜好に嘘をつくことは逆効果になります。誤った嗜好をもとに繋がったとしてもそれは本当の意味での深い繋がりとは言えないからです。
つまり、創作者と読者が素直な嗜好で繋がることができる経路を文化の構造に追加できれば、求める読者へ作品をピンポイントに流通できるようになり「本当に自分が好きと思える作品を書き続ける」という行動が合理的になる文化を実現できるかもしれないのです。
この文化を実現できれば、多様性に関する条件は結果的に満たされることになるでしょう。