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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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99話・聖剣に選ばれし者

 

「あの真っ黒野郎の動きは、パターン化されてやがる。例えば攻撃の最中に魔法で横槍を入れられたら、一度下がって様子を見るって風にな」


 ケルベロスは言う。

 確かに、最初ウィンドで攻撃した時は、聖剣で無効化するのではなくわざわざ後方に下がっていた。


 聖剣で返り討ちにした方が戦略的には良い。

 なのに何故か、一度距離をとった。

 その理由がパターン化なのだろう。


「理屈は分からねえが、真っ黒野郎は予め設定された事しか動けねえ木偶の坊だ。カカッ」

「フーン、そうと分かれば大した事無いわね。だってあらゆる行動を想定するなんて、無理だもの」


 ベリィーゼの言う通りだ。

 どんなに想定と予想を重ね、イメージトレーニングを反復しても、実戦でしか味わえないものはある。


 何故なら意思を持った人間の動きは、直接心でも覗かない限り100パーセントの予知など不可能だ。

 武の達人なら可能かもしれないが、それだって両者の実力が拮抗していれば完璧な先読みは難しい。


「サンキューな、ケルベロス。こっから先は、三人で暴れようぜ?」

「クカカッ、当然!」

「暴れる、良いフレーズね!」


 闘志を燃やすケルベロスとベリィーゼ。

 散々舐めさせられた苦渋が二人に力を与えていた。

 そして、それは俺も同じ。


 見たところ、力を使うのに命を捧げるというのは嘘のようだし……ならば遠慮なくドッペルゲンガーを倒し、聖剣を手に入れて力を使わせてもらおう。


 ……こう言うと、なんか盗賊みたいだな。


「いくぞ! 三人バラけて波状攻撃だ!」


 俺の合図でそれぞれ別方向に散らばる。

 ドッペルゲンガーが目をつけたのは……俺。

 奴は相変わらずの猛スピードで迫り、斜め上から躊躇無く聖剣を振り下ろす。


 試練なのに、死んだらどうするつもりなんだ?

 まあ、殺される気はさらさら無いけど。

 自らを鼓舞しながら迎え撃つ。


「っ、お、らあ!」


 ギリギリまで引き寄せてから躱す。

 危険だが、注意を俺だけに向けさせる事が出来た。

 ドッペルゲンガーの背後に現る、ケルベロス。


 彼は器用にも指先だけを獣化させ、ナイフのように鋭い爪を高速で振り抜く。

 だがドッペルゲンガーは腰を180度回転させ、ロボットのように体を捻って爪撃を受け止めた。


 分かっていたが、明らかに人体を超越した動きに驚きつつもすぐさま第三の攻撃がドッペルゲンガーに迫り……見事に直撃した。


 当てたのは、ベリィーゼ。


 彼女はケルベロスの後ろに隠れながら様子を伺い、爪撃が防がれたとほぼ同時に動きだし、高く跳躍しながら片足を振り上げ、踵落としを浴びせた。


「いよっし!」

「まだだ! 攻撃の手を緩めるな!」


 初めてダメージらしいダメージを負ったドッペルゲンガーに対し、追い討ちとばかりに魔法を唱える。

 もし奴に学習機能や自己改造能力が備わっていた場合、連続攻撃による先読み封じは通用しなくなる。


 考えすぎかもしれないが、戦いをこれ以上長引かせる理由も必要も無い。

 ここで確実に、トドメを刺す。


「凍りつけ『フリーズ』! 雷よ迸れ『スパーク』!」


 ドッペルゲンガーの足元を凍らせ、更に先程は無効化されたスパークで痺れさせる。

 奴の動きが、ハッキリと鈍くなった。


 こちらの動きに対応出来てないのは明らか。

 続けてケルベロスとベリィーゼが攻撃を繰り出す。


「カカッ! 吹っ飛べ!」

「はあああっ!」


 ケルベロスがドッペルゲンガーの上半身を殴り、ベリィーゼは両足を狙って回し蹴りを放つ。

 堪らず両膝を地面につけたドッペルゲンガー。


「トドメだ! 『フリーズ』!」


 俺はフリーズで氷の剣を生み出す。

 そして聖剣を持つドッペルゲンガーの手首に狙いを定め、素早く振り下ろした。


 ズバン!


 斬り落とされる、真っ黒な手首。

 真っ黒な手首は体から離れると同時に塵と化し、聖剣だけがカランと音を立てて地面に落ちた。


「いよっし––––」


 聖剣は奪取した。

 案内人の言う通りなら、これで試練は終わり。

 俺達の勝ち……と、確信した刹那。


 ドッペルゲンガーの左手が、ぬるりと動く。

 最初から狙い定めていたかのように。

 勝利の余韻に浸ろうとしていた俺の腹部を貫こうと、漆黒の拳が放たれる。


 何故かドッペルゲンガーが笑ったような気がした。

 目も鼻も口も無い、ただの黒色の面なのに。

 まるで『甘い』と言われたようだった。


 だが俺は……そんな笑みに、同じく笑みで返す。


「今のはちょっと、ヒヤッとしたな」


 自らの腹部を見下ろす。

 そこには漆黒の拳が痛々しくめり込んでいた。

 しかし、当の本人はまるで意に介してない。


「優斗! それってもしかして」

「ああ、お前に教えてもらった『柔の魔力操作法』だ。ギリギリだけど、間に合ったよ」


 肉体を極限まで弛緩させ、衝撃を散らす。

 それが柔の魔力操作法。

 ベリィーゼから教わった、魔力操作法の応用だ。


「往生際のワリー奴だ、寝とけ!」


 バキ! とケルベロスがドッペルゲンガーの頭部を掴み、そのまま地面へ叩きつけた。

 するとドッペルゲンガーは役目は終わったとばかりに体が溶け、消えてしまう。


 残ったのは奴が持っていた聖剣のみ。


「ねえ、これってさ……」

「言いたい事は分かる。なんか呆気ないけど、恐らくは––––」

「攻略完了! ってえ事だろ、クカカッ!」


 ケルベロスに台詞を取られる。

 だがまあ、そういう事だ。

 ドッペルゲンガーは消え、聖剣はすぐそこに。


 案内人も文句無しだろう。


「あ、そうだ。あのでっかい扉の奥で、何があったの? ミスったとか言ってたけど」

「そうだ、まだその話を聞いてねえ」


 ギクリとする。

 そうだった、終わったら説明する約束だったな。

 仕方ない、全て話そう。


 俺は扉の奥で起きた事を包み隠さずに話した。


「何それ。優斗、アンタカッコつけすぎ」

「ハッ! オレはンな事一々気にしねえよ」

「いやあ、はは」


 折角カッコつけたのに、早々にバラされたからな。

 やばい、かなり恥ずかしいぞこれ。

 なんて思っていると、ベリィーゼが口を開いた。


「でも、アタシが優斗と同じ立場だったとしても、優斗と同じ選択をするよ……ありがとう、アタシ達を大切にしてくれて」

「ベリィーゼ……」


 彼女は言い終わると、花のような笑顔を浮かべた。

 自分の選択は間違ってないと肯定されたような気分になり、背負っていた勇者の重圧が僅かに軽くなる。


「カカッ、第一このオレがそんな儀式で死ぬワケねーな。オレを殺したきゃ、直接殺しやがれってんだ」


 ケルベロスはそう言いながら俺の胸をトンと叩く。

 彼なりに励ましてくれているようだ。

 やっぱり嘘だとしても、二人を……仲間を犠牲にするような選択はしなくてよかったと思う。


「それよかサッサとソレ持って帰るぞ、この迷宮、辛気臭くて仕方ねー」

「そうだな、もう聖剣は手に入ったんだし……」


 最早長居する理由は無い。

 俺は落ちている聖剣を拾おうと、手を伸ばす。

 色々あったけど、無事に手に入ってよかったな。


「そうだ! 帰ったらおじいちゃんに頼んで、ユニヴァスラシスに似合う鞘を見繕ってあげる。刀身が剥き出しのままじゃ扱いづらいでしょ?」

「ほんとか? なら是非お願いするよ」

「任せなさい!」


 ベリィーゼが豊満な胸を張りながら言う。

 万物を斬り裂く聖剣だけど、鞘くらいは斬らずにきちんと収まってほしいが……

 なんて考えながら聖剣に触れると、一瞬だけ静電気のようにバチッと刺激が走る。


 その、直後。


「……え?」


 俺の視界は、真っ白に染まっていた。

 何もない空間。

 そこにポツンと、いつのまにか佇んでいる。


 何が起きた……と思案する前に。

 さっきまでよく聞いていた『声』が、聴こえた。

 反射的に振り向くと、そこには––––


「迷宮攻略、おめでとう。そしてようこそ、勇者の世界へ––––僕は先代勇者の剣山光助(けんざんこうすけ)……案内人って言った方が、君にとっては分かりやすいかな?」


 自らを先代勇者と名乗る、茶髪の少年がいた。

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[一言] ケルちゃんやっぱり頭いい!?
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