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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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98話・本当の試練

 

 巨大な扉を通り、儀式が執り行われる予定だった部屋に戻ってケルベロスとベリィーゼに再会する。

 二人は早すぎる俺の帰還に驚いた。


「え、幾ら何でも早すぎない?」

「どーなってんだ、オイ」


 まあ、当然の反応だろう。

 さて……何と答えたらいいのやら。

 真実を伝えるのは簡単だ、しかし……その場合、彼らが要らぬ責任感を背負うかもしれない。


 だから––––


「悪い、ミスった」

「なっ……嘘でしょ!?」

「カ、カカッ! 面白え冗談だろ、なあ!?」


 つまらない、カッコつけの嘘で塗り固める。

 俺の生き方はいつも自己満足でしかないな。

 けど、それが最良だと信じている。


「本当だ、聖剣はもう手に入らない」

『おめでとう、君は本当の試練に挑む資格を得た』


 俺の言葉と重なるように。

 案内人の声が脳内に届いた。

 は……? 本当の試練……資格……?


 情報の洪水に脳がパンクしそうになる。

 俺はさっき、聖剣を捨てたも同然の選択をした。

 そこで試練は終了、攻略は失敗に終わった筈。


 しかし、今案内人はこう言った。

 本当の試練に挑む資格を得た、と。

 つまり、試練はまだ続いている……?


『さあ、すぐに戦う準備をするんだ、ここから先はちょっと荒っぽいからね。でも大丈夫、仲間を選ぶ事が出来た君なら、どんな困難も乗り越えられる』


 ゾクリと、背筋に悪寒が走る。

 巨大扉の奥から殺気が漏れていた。

 その気配はドンドン強く、濃くなる。


 ケルベロスは右腕を獣化させた。

 ベリィーゼも武術の型を作る。

 二人とも、目前の脅威を察知していた。


「あーもう、次から次へと何なのよ!」

「チッ……おいユウト! さっきの話の続きはあとで聞かせてもらうぞ! 今はアレだ!」


 ケルベロスが指差す先に居た。

 強烈な殺気の持ち主が。

 ソイツはあの巨大扉を蹴破りながら現れた。


「……生き物、なのか?」


 例えるなら、人型の闇。


 頭も手足もあるが、全身真っ黒。

 塗り潰されたような漆黒だが、唯一右手に持つ武器……聖剣ユニヴァスラシスだけは輝いていた。


 柄の部分は地面に刺さった時も見えていたが、刀身は今ここで初めて見る。

 一目で通常の刀剣とは造りが違うと分かった。


 まるで宝石のような剣。

 青色の結晶体で形作られた刀身は透き通るように美しく、同時に総てを斬り裂く冷たさも感じた。


『本当の試練……それは先代勇者が生み出した自らの分身〈ドッペルゲンガー〉を倒し聖剣を手に入れる事。それこそ迷宮が作られた真の意味! さあ今代の勇者よ、仲間と共に影を討ち滅ぼせ!』

「……!」


 案内人が高らかに叫ぶ。


 直後、ドッペルゲンガーは凄まじい速度で駆ける。

 あまりの速さに反応できなかった。

 結果、奴の接近を許す事に。


「ウオラアアアアッ!」


 野生の勘か、唯一反応出来ていたケルベロスがブォン! と豪腕を振るう。

 が、ドッペルゲンガーはするりと避けた。


 そのまま聖剣でケルベロスを斬り伏せようとする。


「させるかよ!」


 片手剣を構えながら、両者に割って入る。


 迫る聖剣を俺は片手剣で受け止めた。

 鍔迫り合いになる……前に、なんと片手剣はバターのように斬られてしまう。


「っ! 『ウィンド』!」


 慌てて魔法を唱えドッペルゲンガーを吹き飛ばす。


 今のがユニヴァスラシスの能力。

 万物を斬り裂く、最強の聖剣。

 想像以上にとんでもなかった。


 あれじゃあ防御する事が出来ない。

 実質的に、全ての攻撃がガード不可なようなもの。

 ゲームだったらナーフ確実のチートアイテムだ。


「ていうか、ドッペルゲンガーって何なんだ?」


 使い物にならなくなった片手剣を捨てながら呟く。

 地球では確か、自分自身の姿を自分で見る、幻覚の一種だと聞いた事がある。


 あとは世の中には自分と同じ顔が三人いて、そいつと遭遇するとどちらか一方が命を落とす……なんて伝説もあったような。


 いや、どれも今考える事では無い。

 目前の敵に集中しないと。

 俺は深呼吸してから右手で拳を作った。


「いくわよ優斗!」

「おう! ケルベロスは一度下がって、あいつを観察しててくれ!」

「ハッ、しょーがねえなあ! たっぷり時間稼げよお前ら!」


 様子を伺っていたベリィーゼと共に、徒手空拳で聖剣を振り回すドッペルゲンガーに立ち向かう。

 一見無謀にも思える行動。


 しかし、相手が握っているのは万物を斬る聖剣。

 こちらがどんな武器や防具を持っていようと、斬られてしまえば無に等しい。


 回避が戦闘の絶対条件なら、身軽さを優先して素手で戦うのは適している。

 そういう意味なら、素手による戦闘が可能な俺達はあのドッペルゲンガーと相性が良いと言えた。


 最も、マイナスをゼロに戻しただけで、プラスになる程有利な状況にはなってないが。

 数で勝っているのが、唯一のアドバンテージだ。


 だが……


「っ、コイツ……!」


 ベリィーゼは素早い動きで翻弄しながら、隙を見て鋭い一撃を加えようとする。

 けれどドッペルゲンガーは直前で回避し、流れるような動作で反撃に出た。


 俺はドッペルゲンガーの手元を狙って蹴りを放つ。

 しかしそれすらも身を捻られて避けられる。

 今のは完全に意識の外からの攻撃だった筈。


 まるで全身に目があるかのような動きだった。


 それ故に、ベリィーゼの幽幻歩も通用しない。

 あれは視覚や意識の外を突いた技だ。

 一切の隙が見当たらないドッペルゲンガーに対しては、少し素早いだけの攻撃にしかならない。


「生き物と戦ってる気がしないんだけど!」

「同感だ……!」


 ドッペルゲンガーの戦法は人を超えていた。


 突き、からの薙ぎ払い。

 そのまま空中回転し、遠心力を高めた振り下ろし。

 振り下ろした直後にVの字を描くような斬り上げ……と、曲芸のような連続攻撃。


 回避に専念してようやくついていける。

 カウンターを叩き込もうにもドッペルゲンガーには技と技の繋ぎ目が殆ど存在しないので、直ぐに対応されて防御の時間を与えてしまう。


 無敵。


 そんなワードが浮かんでは消える。

 無論、攻撃が当たりさえすれば相応にダメージを与えられるのだろうが……そもそも攻撃すらさせてもらえてない状況では、机上の空論だった。


「ベリィーゼ、一旦距離を取るぞ!」

「オッケー!」


 一度ベリィーゼを後ろに下がらせる。

 そうはさせまいと言わんばかりに、ドッペルゲンガーもその身を前進させた。


「雷よ迸れ『スパーク』!」


 足止めの為に魔法を放つ。

 しかし……ドッペルゲンガーが聖剣を振るうと、雷は瞬く間に霧散した。


「な、嘘だろ!?」

「優斗、危ない!」

「っ!」


 魔法の無効化。


 聖剣には、そんな副次的な効果も宿っていた。

 いや……万物を斬り裂くのが能力なら、魔法さえも斬り捨てて無効化してしまったと考えるべきか。


 という考察を一瞬でもしてしまう。

 結果、致命的な隙が生まれた。

 蒼く輝く聖剣が、俺を一刀両断しようと迫る。


 聖剣の力を見誤っていた、俺のミス。

 脱出するには……これしかない。

 間に合ってくれと祈りながら、神纏を使った。


「ぉ、おおおおおおおおっ!」

「優斗!?」


 驚愕するベリィーゼ。

 それもそのはず。

 彼女は無様に斬られる俺を幻視しただろう。


 だが神纏を使った事で、究極の後出しジャンケンが発生……人間を超越した身体能力で聖剣を躱し、それどころかドッペルゲンガーの懐に潜り込み、今までのお返しとばかりに正拳突きを打ち放ったのだから。


 一気に壁際まで吹き飛ぶドッペルゲンガー。

 それでも体の原型をとどめているあたり、強敵なのだと改めて実感させられる。


 普通の相手なら今ので木っ端微塵だ。


「フゥゥゥ……!」

「ア、アンタ優斗なの……?」


 困惑しながらベリィーゼが言う。

 ああそうか、彼女はまだ見た事無かったな。

 俺は直ぐに神纏を解除した。


「あ、戻った」

「今のは諸刃の剣なんだ。長時間使えば、冗談抜きに死ぬ。出来ればこの先は使いたくないな……ぐ」

「ちょ、ちょっと、それ大丈夫なの……?」


 今の一瞬の使用でも、確実にダメージが蓄積した。


 けれど動けなくなる程では無い。

 もう少し出力を調整出来れば使い勝手も良くなるのだが、そこまで都合の良い技術でもなかった。


「ああ、まだ動ける。それに……そろそろ何か分かったか? ケルベロス」

「……カカッ」


 いつのまにか俺らの背後に潜んでいたケルベロス。

 俺の指示で、先程からずっと観察に集中していた。

 彼はニヤリと笑いながら言う。


「見つけたぜぇ、あの真っ黒野郎の弱点をな……! クカカッ! 反撃開始だぁ!」


 頼もしい言葉に、こちらも思わず笑みが零れた。

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