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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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97話・選択の試練

 

 俺達は意気揚々と、新たな扉を潜った。


「ん?」


 すぐに違和感を覚える。

 今までの二つの部屋は、何もない石室だった。

 全体的に殺風景な光景だと記憶している。


 対して、今目の前に広がっている空間はどうだ?

 部屋の四隅に柱が並び、中央には巨大な魔法陣が描かれた台座のような物が置かれている。


 まるでなにかの儀式を執り行うような場所だ。

 加えて最初から扉がある。

 台座を超えた反対方向にある、巨大な扉。


 今までと違う雰囲気に若干戸惑う。

 けど、弱気な自分は技の試練の間で捨ててきた。

 どんな試練でも、この三人ならきっと大丈夫。


「なーんか、嫌な雰囲気の部屋ね……」


 顔をしかめながら、ベリィーゼは呟く。


「空気が淀んでいやがるな……見ろ! あそこに埃が……チッ、掃除くらいしやがれってんだ!」

「アンタ、意外に綺麗好きなんだ……」


 気の抜ける会話を聞きながら、何か起きる事を期待しながら部屋の中央にある魔法陣の上へ。

 丁度そのタイミングで案内人の声が届いた。


『二つ目の試練を攻略したんだね、おめでとう。この音声が無駄にならなくて、僕も嬉しいな』


 三度目ともなると、案内人の声にも慣れる。

 またヒントが隠されているかもしれないので、ケルベロスとベリィーゼも大人しく声を聞いていた。


『さて、三つ目の試練だけど……今回は少しだけ特別だ。君はサポート役を連れているだろうけど、三つ目の試練は勇者一人だけで受けてもらう』

「何だと……」

『準備が出来たら、大きな扉の先に勇者一人で進んでくれ。三つ目の試練は、そこで行うから』


 ここで勇者単独での試練か。

 勇者の力量を測るのが目的なら、そろそろ試練の終わりが近づいているのかも。


 どちらにせよ、受ける側は素直に従う他無い。


「ここまで来て留守番かー……優斗、大丈夫?」


 ベリィーゼが心配そうに言う。

 三人一緒なら大丈夫、と思った直後にコレだ。

 けど文句を言っても仕方ない。


「大丈夫だ、一人でも攻略してみせる」

「さっさと戻って来いよ、オレは待つのが嫌いだ」

「勿論。軽い休憩だと思ってていいぜ」


 不安はあるが、それ以上の自信の方が強く大きい。

 迷宮の外でドールやエストリア達も待たせている。

 気負わずに、ちゃちゃっと済ませてしまおう。


「じゃ、行ってくる」

「優斗! 頑張りなさいよ!」

「骨は拾ってやるから、安心していってこい!」


 最後にそう言い残し、大きな扉へ向けて歩いた。

 最後の「いってこい」が「行ってこい」では無く「逝ってこい」と聴こえたのは幻聴と信じたい。






「……」


 馬鹿でかい扉に触れる。

 すると扉は勝手に開いた。

 これだけ大きいと、動くだけで圧倒されるな。


「ふぅー……よし」


 深呼吸をしてから前進する。

 瞬間、また扉がひとりでに動いた。

 今度は開くのでは無く、閉じる方で。


 構わずに先へ進む。

 視界の先にあるのは……地面に突き刺さった、剣。

 持ち手の部分だけが顔を見せていた。


 まさか……あれがユニヴァスラシス?

 いや、まだ三つ目の試練の途中だ。

 そうなると、あれは何らかの罠?


 なんて風に考えていたら。


『よく来たね、今代の勇者』


 またしても届く、案内人の声。

 歩みを止め、視界に謎の剣を入れたまま話を聞く。


『実は三つ目の試練が、最後の試練なんだ。一つ目は力を、二つ目は技術を披露してもらったけど……今回は、君の〈覚悟〉を確かめさせてもらうよ』

「覚悟……」


 これまた仰々しい。

 覚悟なんて大層なもの、俺は持ち合わせてない。

 いつも必死なのは違いないが。


『そこに刺さっているのは先代勇者が残した聖剣、ユニヴァスラシスだよ』


 あれ、本物なのか。

 アッサリと現物が出て少々驚く。

 ドラマチック性なんて、別に求めて無いが。


『ユニヴァスラシスを引き抜くのが、最後の試練だ。けどユニヴァスラシスは、あのままだと絶対に抜けない、試してみるといい』


 言われた通りに近づき、柄の部分を持つ。

 そして持ち上げようとしたが……ビクともしない。

 魔力で肉体を強化しても、結果は変わらず。


 案内人の言葉は事実のようだ。

 聖剣そのものを手にするのが、最後の試練。

 力技ではどうしようも無さそうだが……


『もう理解したと思うけど、ユニヴァスラシスは普通の方法じゃ例え勇者でも抜けない。その力を手にするには––––命を捧げるしかない』


 ……は?

 案内人の言葉を聞いて、ぽかんとする。

 呆然としている間も、彼は続けた。


『万物を斬り裂く聖剣。絶大な力には当然、代価となるエネルギーを必要とする……それが命、言うなれば生命エネルギー、かな』


 待て、まてまてまて!

 コイツは何を言っている?

 聖剣を手に入れるのに必要なのが……命?


『でも安心して、勇者の君が命を注いだらそれこそ本末転倒だからね。捧げるのは、君が連れて来たサポーターでいい』

「ふざけるな!」


 思わず声を荒げてしまう。

 ただの録音だと分かっていても。

 怒りの感情を抑える事が出来なかった。


『聖剣復活の儀式は、既に完成されている。あとは勇者の君がユニヴァスラシスに触れて魔力を流せば儀式は発動し……別の部屋に置いて来たサポーターは死に、聖剣の力は蘇る』


 俺はその場で崩れ落ち、床を殴った。

 サポート役を連れて行ける。

 単純に攻略の補佐だと考えていたが……本当は、聖剣の力を復活させる為の、生け贄?


 嘘だ……そんなの嘘に決まっている!


「ふ、ぐぐ……!」


 限界ギリギリまで魔力操作法を使う。

 極限まで強化された腕力で聖剣を引き抜こうとするが、相変わらずピクリとも動かない。


 ……いや、万物を斬り裂く機能を取り戻す為に生け贄が必要なら、仮に抜けたとしても意味が無かった。

 聖剣は是が非でも欲しい。


 リクがこの先必要になるからと言っていたからだ。

 それに文明を丸ごと破壊する理不尽の権化のような奴と戦うには、力はいくらあっても足りない。


 だからと言って、人の命を使うだなんて……そんな事、許されていいのか?

 とてもじゃないが、思えない。


 でも……先代勇者は、聖剣を使っていたんだよな。

 つまり、誰かの命を聖剣に捧げた事になる。

 大勢の命を救う為、少数を切り捨てた。


「……」


 ゆっくりと立ち上がる。

 聖剣はうんともすんとも言わない。

 その柄を眺めながら、考える。


 俺は何の為に、ここへ来た。

 当然、聖剣ユニヴァスラシスを手に入れる為。

 違う……もっと、深い理由。


 そもそもどうして俺は力を求める。

 沢山の傷を負い、無茶を通して尚、分不相応の力を求め、戦おうとする?


 ……痛いのは嫌いだ。

 疲れるのも嫌だし、本当は努力するのも嫌いだ。

 なのに今日まで傷付きながら、慣れない努力を重ねてここまで辿り着いた……何故?


 ––––知ってしまったからだ。


 人と人の繋がりを。

 繋がりを知り、持ち、愛おしいと思った。

 何に変えても守りたいとも。


 なら、答えは一つ。

 守ると誓ったのだろう?

 だったら目前の剣を取ればいい。


 俺の一番大切な二人……ドールとエストリアの命が無くなるワケじゃない。

 聖剣の力があれば、二人を守れる。


 俺は聖剣に手を伸ばし––––


「……なんて、そう楽に割り切れたら、な」


 途中で、手を下ろした。

 仲間を……ケルベロスとベリィーゼを犠牲にするなんて、とてもじゃないが出来ない。


 彼らだって、俺の大切な人だ。

 失いたくないと思える、繋がり。

 第一、二人を犠牲にして聖剣を手に入れたところで、ドールとエストリアが喜ぶ筈も無い。


 ストロさんや里長だって悲しむだろう。

 だったら、要らない。

 涙を流させない為に戦っているのに、武器を手に入れるのに誰かの涙が流れたら、それこそ本末転倒だ。


 俺はくるりと反転し、聖剣に背を向ける。

 そしてポツリと呟いた。

 自らにも言い聞かせるように。


「悪い、先代さん。そんな代物に頼らなくても赤龍に勝てる方法を、俺は探すよ」

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