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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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96話・技の試練

 

 扉を抜けた先は、さっきと似たような石室だった。

 ただし、先程よりもかなり面積がある。

 野球場くらいの広さだった。


 三人全員が広大な石室に立つと案の定、扉は光の粒子と化して消えた。

 そして案内人の声が脳内に直接届く。


『次の試練は、君達の技術を確かめさせてもらう。膂力を振り回すだけじゃ、魔獣と同じだからね』


 注文の多い料理店、では無いだろうけど、こうして一々資質を確かめるのは聖剣を持つに相応しい勇者かどうかを見極めているのか?


 先代はかなりの慎重派らしい。

 で、次は技術……技の試練と言ったところか。

 再び天井から光が注がれ、新たな魔獣が現れる。


 ケルベロスとベリィーゼが強すぎて見劣りしたが、ホーネットビーストは本来なら強敵。

 今度はゴールドランク冒険者が相手にするような魔獣でも来るのかと身構える。


 ……と、思いきや。


「なんだありゃァ?」

「アイボール、よね?」


 二人が困惑気味に呟く。

 彼らの言う通り、召喚されたのはアイボール。

 眼球がそのまま浮いているかのような姿形の魔獣。


 ホーネットビーストとは比べ物にならない、ザコ。

 冒険者どころか、武器を持てばその辺にいる普通の大人でも頑張れば倒せる弱い魔獣。


 およそこの場には似つかわしくない。

 何故、そんな魔獣を用意した?

 なにかあるに違いない。


『今回は、ちょっとしたルールを設けさせてもらうよ。それに則ってもらいたい』

「ルール?」


 その直後。

 最初は一匹だけだったアイボールが、二匹三匹、四匹と次第に増殖していく。


 気づけば数えるのも嫌になるくらい増えていた。


『この中に、通常の個体と違って金色の眼をしたアイボールが紛れ込んでいる。君には、そのアイボールだけを討伐してもらう、ただし!』


 案内人は、最後の説明を強調して言う。


『アイボールを傷付ける行為が許されるのは、一度だけ。つまり一発の攻撃で仕留められなければ試練攻略は失敗、速やかに迷宮から退去してもらうよ』

「ちょっ、何それ!? 急に難易度上がりすぎ!」


 文句を言うベリィーゼだが、当然声は届かない。

 ケルベロスは鼻を動かし、嗅覚で金眼のアイボールを探しているようだが……


「チッ、これだけ多いと匂いも分からねえな。金眼のアイボールを探すだけでも、手間かかりそうだぜ」


 と、彼の人間離れした嗅覚でもお手上げだった。


『それじゃあ頑張って。あっ、ヒントをあげるけど……禁止したのは傷付ける行為だけだよ』


 それを最後に、案内人の声は途切れる。

 残ったのはうじゃうじゃと湧いているアイボールの群れ……やべえ、普通に気持ち悪いな。


「優斗、どーすんのコレ?」


 アイボール達を指差しながらベリィーゼは言う。


「まずは金眼を探す、話はそれからだ」

「……いーや、オレに任せとけ」


 ニヤリと、ケルベロスが不敵に笑う。

 とても嫌な予感がした。

 行動に移させる前に、説明を求める。


「待て、ケルベロス。お前何をするつもりだ?」

「攻撃が許されているのは、一撃だけ……なら、最初の一発で全滅させてやんだよ。あのフワフワ浮いてるザコ供をな」


 自信満々に彼は言う。

 確かに、理屈としては通っていた。

 一撃でアイボールの群れを全滅する事が出来たら、金眼のアイボールを探す必要も無い。


 だが、俺は賛成できなかった。


「いーじゃんそれ! やろうよ!」

「カカッ、今日のオレは冴えてるぜえ」

「いや、俺は反対だ。上を見てくれ」

「あ? 何でだ––––っ!?」

「嘘……」


 ケルベロスとベリィーゼも、理解したようだ。

 解き放たれたアイボールの群れ。

 その数が、現在進行形で増えている事に。


「今もアイボールは数を増やしている。上限が設定されているかどうかは分からないけど、これが試練である以上、無限に増え続けてもおかしくない」


 確実に全滅できる自信があるのなら、構わない。

 しかしアイボールの数は今この瞬間にも増え続け、恐らくケルベロスが攻撃してる間も増殖する。


 物事に絶対は無い。

 一撃で纏めて仕留めようとするのは賭けになる。

 ケルベロスは馬鹿かもしれないが、愚かでは無い。


 彼は自ら考案した作戦のリスクを考え……放出しようとしていた魔力を収めてくれた。

 力尽くで止めるような事態にならず安心する。


 だが焦燥感までは拭えず、苛立ち混じりに言う。


「チッ……! ならどーすんだよ、ユウト。エストリアとも何故か繋がらねえし……」

「多分、この迷宮そのものが外界とシャットアウトされている。念話は出来ないと考えた方がいい」


 恐らく、エストリアは迷宮内でも俺達と連絡を取り合う為にもケルベロスを送り込んだのだろう。

 その目論見は残念ながら潰えてしまった。


「……うー、なんか頭の中ぐちゃぐちゃになってきた。アタシ頭使うの苦手……」


 ベリィーゼは完全にお手上げのようだ。

 ケルベロスも頭を抱えて困惑している。

 そんな二人に対し、俺は伝えた。


「大丈夫だ、俺に考えがある」

「優斗、それほんと?」

「ああ。さっきは二人に活躍の場を取られたが、今度は俺のターンだ。任せてくれ」


 無限増殖し続けるアイボールの群れを見上げる。

 最後に残した案内人のヒント。

 あれで仮説が確信に変わった。


「『ウィンド』!」

「ちょっと!?」

「テメー何しやがる!? やめろバカ!」


 俺が魔法を唱えると、二人は止めようとする。

 だが間に合わず、風はアイボールに向かって吹く。

 そう、これでいい。


「安心しろ、二人とも。案内人が禁止したのは、あくまでアイボールを傷付ける行為。攻撃をするなとは、一度も言ってない」

「いやでも、魔法を使ったら結果的に……あ」


 ベリィーゼは答えに辿り着いたようだ。


「ああ? だから何だよ!」

「落ち着けケルベロス。いいか? 魔法を使おうが拳で殴ろうが、要はアイボールにダメージを与えなければいいんだ」


 案内人は傷付ける行為を禁止すると、わざわざ強調しながら最後に言った。

 そこから導き出される答えは、一つ。


「なら、手加減して魔法を使えばいいって事だ。幸い俺の得意技兼唯一の技は、低級魔法。殺傷能力の低さに関しては群を抜いている」

「……カカッ! そーいう事か!」


 満面の笑みを浮かべるケルベロス。

 難しいクイズを解いた子供のような笑顔に、思わずこちらも幸福な気持ちになる。


「まずは金眼のアイボールを探す、邪魔な個体には隅に寄ってもらうぞ!」


 威力を調節したウィンドで、邪魔なアイボール達をどんどん吹き飛ばして視界を確保する。

 やがて金色に輝くアイボールを見つけた。


「見つけたぞ、あいつだ!」

「わ、ほんとに金ピカだ」


 実は少し疑っていた、金眼のアイボール。

 通常のアイボールの背後に隠れていたようだ。

 しかし金眼を守る個体はもう存在しない。


 素早く確実に……射抜く。


「雷よ、迸れ『スパーク』!」


 指先から放たれる閃光。

 速度重視の雷光は見事に金眼のアイボールを貫く。

 堕落する金眼は、完全に生命活動を停止していた。


「これで技の試練、クリアだ」

「イェーイ!」

「カカッ!」


 金眼討伐後、他のアイボール達は徐々に退去する。

 数分経つと何も無い元の石室に。

 代わりに件の扉がまた現れる。


 ここまでの道のりは順調だ。

 物事が理想的に進んでいる。

 だからこそ、不安を覚えた。


「……」

「優斗? 浮かない顔してどうしたの?」

「いや、なんか拍子抜けっていうか、上手くいきすぎてる気がしてな……」

「ああ? んな事気にしてんのか?」


 ズイっと、ケルベロスが顔を近づけながら言う。


「そいつはな、オレ達が強いって証拠だ。そんでオレ達は結果を得る為に努力してきた、上手くいくのは当然なんだよ!」


 堂々とするケルベロス。

 さっきの新技から察するに、冥府の森にいる間も、彼は修行していたのだろう。


「そうね、別に不正をしているワケでも無いんだし、ちょっと考えすぎじゃない? こういうのは気楽なくらいが丁度良いのよ」


 快活に笑うベリィーゼ。

 二人とも俺を励ましてくれている。

 そうだよな……少しネガティブになりすぎていた。


 傲慢なのは愚かだけど、卑屈すぎるのもよくない。


「悪い、ネガティブなのはここまでだ。残りの試練もサクッと攻略して、里の皆んなに聖剣を見せびらかしてやろうぜ!」

「カカッ、そりゃあ良いなあ。あの魔女のビックリ顔は是非拝みたいもんだぜ」

「私も、今度こそお爺ちゃんやママに……パパにも認めてもらうんだから!」


 三人で拳を突き合わせる。


 願いも、想いも、ここでは同じ。

 今の俺達なら、どんな問題が起ころうと対処できる……根拠は無いが、そんな風に思えた。

本日新作短編として【勇者パーティーを追放された道具職人〜実は魔王すらワンパンで倒せる武器の造り手でした〜】を投稿しました。↓にリンクありますので、そちらの作品もよろしくお願いします。

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