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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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94話・男の影響と攻略開始

 

 勇者の里に来て一週間。

 遂に聖剣ユニヴァスラシスを手に入れる為、試練の大迷宮に挑戦しようとしていた。


 で、肝心の迷宮がある場所は……なんと、以前俺とベリィーゼが試合をした神社の地下。

 本殿内部に入り口があるそうだ。


 現在、神社には大勢の人々が集まっている。

 普段は限られた者しか立ち入る事を許されてないが、今日だけは特別な解放されていた。


 迷宮へ挑む挑戦者を見送る為に。


「ベリィーゼ、キチンと勇者様をお守りするのよ? そして……貴女自身も、気をつけてね?」

「もー、ママもしつこいなあ。大丈夫だって」


 俺達は本殿前に集まっていた。

 久保安親子がいつものように言い合っている。


 彼女達は暇さえあれば口論していた。

 主にストロさんがいい加減なベリィーゼを叱り、それに反発するという構図だが。


「何かあったら遅いの。貴女も分かるでしょう?」

「……」


 ベリィーゼは何か言おうとして、やめた。

 自らの父を思い出しているのだろう。

 誰にも告げず、一人で戦った果てに命を散らした。


 試練の迷宮は危険だと言い伝えられている。


 もし、ベリィーゼの身に何か起きたら……夫に続き娘まで失ったら、いよいよストロさんの心は壊れてしまうかもしれない。


「大丈夫ですよ、ストロさん」

「勇者様……」

「彼女は強いです。それに俺、結構臆病なんで……何かあったら直ぐに戻って来ます、はは」


 おどけながら言う。

 少しでも、彼女の不安を取り除けたらと思って。

 コミュ症なりに頑張ってみた。


 しかし、ストロさんは至って真面目な顔で。


「是非、そうしてください。勇者様も、勇者である前に一人の人間なんですから。使命よりも、ご自分の命を大事にしてもいいんです」

「ストロさん……」


 逆に俺が励まされてしまつた。

 全く何やってんだか……自分に呆れる。

 でも、その方が俺らしいなとは思う。


「ユウト」

「ドール?」

「……頑張って」


 俺の愛する婚約者は、多くを語らない。

 全てを受け止める青空のような瞳には様々な感情が渦巻き、少し覗くだけでも複雑な想いが伝わる。


「ああ、待っててくれ」

「うん」


 彼女はこの一週間余り、修行を手伝ってくれた。

 合成魔法も、ドールの指導のおかげでより強力な魔法を行使出来るようになっている。


 俺は確実にパワーアップしていた。

 沢山の人に支えられ、万全の状態で挑む迷宮攻略。

 失敗の二文字は完全に消失していた。


「ところでエストリアを知らないか? 朝から姿を見かけないんだ」

「私も知らない」

「そうか……」


 エストリアはエストリアで、何か準備していた。

 昨夜、迷宮攻略に役立つプレゼントをするから直前まで待っていてくれと頼まれている。


 だからこうして彼女が来るのを待っていた。

 と、噂をすれば何とやら。

 人混みの中から、麗しの魔女が現れた。


「ごめんなさい、遅くなったわ」

「エストリア、何してたんだ?」

「ちょっと準備が滞っていたかしら。でも大丈夫」

「準備?」


 俺とドールは揃って疑問に思う。

 すると彼女は突然召喚魔法を唱え始めた。

 魔法陣が構築され、何者かを呼び出そうとする。


「お、おい」

「なにをするの?」

「ただの助っ人よ––––サモン」


 助っ人と、エストリアは言った。

 直後、召喚魔法が成立する。

 魔法陣に呼び出されたのは––––


「よお、久し振り……でもねえか」

「ケルベロス!?」

「おう、オレ様だ」


 仁王立ち姿のケルベロスが立っていた。

 まるで召喚されるのが分かっていたかのように。

 逆立った紫髪に、筋骨隆々の肉体。


 一ヶ月前より、纏っていた雰囲気が若干違う。

 獣のようなオーラではなく、冷たく研ぎ澄まされ、鞘に収まった刀のような雰囲気だ。


「お前……イメチェンでもした?」

「知るか、それより……ここが勇者の里か。カカッ、強え奴らの匂いがプンプンするぜ」


 ケルベロスがぐるりと辺りを見回す。

 周囲の人々は彼の登場に目を丸くしていた。

 そりゃそうだろう、ていうか俺も驚いている。


「ゆ、優斗様、これは一体……? ま、魔女よ、お主が何かしたのか?」

「ご名答。ちょっと家から使い魔を呼んだわ」

「馬鹿な……空間転移は出来ないよう、結界で封じていたはずじゃ……」


 騒ぎを聞きつけこちらにやってきた里長が、驚愕に顔を歪めながら腰を抜かした。

 いやほんと、ウチの魔女がすみません。


「私だけが無効化できるように弄ったわ。安全性に問題は無いから、安心して頂戴」

「あ、あり得ん……」

「それにしても、強固な結界だったわ。余程優秀な術師が構築したのね……おかげで時間ギリギリよ」


 彼女が遅れたのはそういう理由があったからか。


 だがここで一つの疑問が生まれる。

 何故ケルベロスを……? と言うか、助っ人という話だが彼を迷宮内に連れて行けるのか?


 迷宮に挑めるのは勇者とサポーターの二人だけだ。

 もちろんエストリアもそのルールは聞いていたので、当然知っている筈。


「ケルベロス、しっかりユウト君を手伝うのよ?」

「ハッ! まあ気が向いたらな」

「ま、待てい魔女よ!」


 里長が叫ぶ。


「迷宮に挑むのは優斗様とベリィーゼじゃ、これ以上は迷宮の規則に接触し、誰も入れん。強引に入ろうとしたら結界で弾かれる。先代勇者様自らが作った結界じゃ、里のモノとは訳が違うぞ?」

「あら、それなら大丈夫かしら」


 にっこりとエストリアは微笑む。

 彼女はケルベロスの肩に触れながら言った。


「この子は幻獣種よ、今は人の姿をしているけど、本当は獣なの。だから人間じゃないわ」


 ケルベロスは人間じゃない。

 だから迷宮のルールには反さないと彼女は言う。

 いや、そんな道理通るのか?


「それにケルベロスは私の使い魔でもある、使い魔はある意味術者の道具かしら……道具を持ち込む事に関して、特に制約は無かったと記憶しているわ」

「誰が道具だコラ」

「あくまで建前よ」


 エストリアの言い分に、その場に居た者全員が息を飲んでポカーンとしていた。

 子供でも言わないような屁理屈に困惑する。


 しかし筋は通っていた。


「エストリア、いつからそんな事考えてたんだ?」

「里長さんの説明を聞いた時からよ。ふふ、誰かさんの影響を受けた所為かしら」

「……」


 彼女が一瞬、小悪魔のように見えた。

 全く、一体誰の影響を受けたのやら。

 はあ……どう考えても俺だよなあ……


 エストリアは元々腹黒い面があったし、そこに俺の狡賢さが悪魔合体して凄いのが誕生してしまった。

 チラリと横目でドールを見る。


「ドールはいつも可愛いなあ」

「……?」


 彼女は突然可愛いと言われて戸惑う。

 どうか、そのまま無垢であってほしい。

 ……いや、もう既にエストリアに引っ張られて色々な知識を吸収してたな、主に18禁方面で。


 閑話休題。


 エストリアの理屈は分かったが、伝統を重んじる里長は彼女のやり方に反対していた。

 そこにベリィーゼが加わる。


「いいじゃない、別に。本当にダメなら結界が弾くし、それってつまり先代勇者様の意思でしょ? なら逆に何も無ければ、それでいいじゃん」

「うーむ……」

「ま、アタシ達の足引っ張らなきゃ何でもいいよ」

「ああン?」


 ベリィーゼにガンを飛ばすケルベロス。

 彼女の言葉にカチンときたらしい。

 対するベリィーゼもかかってこいとばかりに煽る。


 こいつらぜってえ相性悪い。


「おい女、誰が誰の足を引っ張るだって?」

「アンタがアタシの足を、よ」

「カカッ! イキのいいザコが居たもんだぜ!」

「は?」


 バチバチとガンを飛ばし合う二人。

 両者共に相手が初見であろうがマイペースで物事を進めるので、当然のようにぶつかり合う。


 もう面倒だ、さっさと迷宮に行っちまうか。


「んじゃ、行って来る」

「気をつけてね、ユウト君」

「ユウト、がんばれ」


 婚約者達から声援を貰いつつ、本殿の中へ入る。


「あー! 置いてくなんてヒドイ!」

「待てやコラ!」


 お供の二人も続けてやって来る。

 サポーターと助っ人が居る筈なのに、何故かもう不安な気持ちで胸がいっぱいだった。

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