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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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91話・俺の生き方

 

「死竜……強いのか、そいつらは?」

「それはもう、他の魔獣とは格が違います。人間と同じ知性を持ち、魔獣以上の膂力と魔力を持った四人の竜人––––それが死竜です」

「竜人––––」


 竜人と聞いて思い出す。

 ユナオンで会ったレックスは、元気にしているだろうか……確か彼も竜人の姿をしていた。


 種族的には獣人らしいが。

 気が合ったものの別れ方はサッパリとしていたので、出来ればもう一度会って話したい。


「どうなされましたか?」

「いや、何でもない。それで、レイトと戦った死竜達はどうなったんだ?」

「全員が深い傷を負いましたが、流石のレイトとは言え数の差はそう簡単に覆せず……結局、一人も滅する事は出来なかったようです」


 当時の里長率いる戦士団が駆け付けた頃には既に戦闘は終わり、致命傷を受けたレイトだけを残し、死竜達は姿を消していたと言う。


「そもそも何故、レイトさん一人が戦う事態になったのかしら?」


 エストリアが質問する。

 それは俺も疑問に思っていた。

 レイトが強いのは分かったが、尚更仲間がいればそこで死竜を倒すことも出来たのではないか?


「……レイトは強い、ですが優しすぎたのです」

「優しすぎた?」

「はい。死竜と戦えば、世界の危機に備えて鍛えられた戦士団の戦士でも、死者が出るのは必至。皆、それを覚悟して戦うつもりでしたが……レイトは一人の死者が出る事すら、許容出来なかったのです」

「……」


 言葉に詰まる。

 傲慢ではないか? と口にしかけたが、身内の里長に言うべき言葉では無かった。


 それに、気持ちも分かる。

 俺だって、出来る事なら誰も死なせたくない。

 ドールとエストリアが冥府の森で浜崎と戦った時も、ひたすらに無事を祈っていた。


 けど、俺に全てを守って救う力は無い。

 結局信じる事しか出来ない。

 だが……レイトには、その力があった。


 全てを守り、救うだけの力が。


「死竜が勇者の里を狙っている事実を事前に知ったレイトは、誰にも告げず一人で戦いに赴きおったのです。結果は先程言った通りですが……残されたストロとベリィーゼが、あまりにも不憫でして……」

「……悪い事を聞いたな」


 壮絶な男の生き様を聞かされ、身震いする。

 勇者に最も近いと言われた男は、本物の勇者のように仲間を、家族を守って命を落とした。


 ベリィーゼが感情的になるのも分かる。

 死んだ父の意思を、自分が継ぎたい。

 彼女は必死だっただけなのだ。


「亡くなった父親の意思を継ぎたい……全く、私は本当に何も知らないのに、よくあんな事を言えたわ」

「お主の所為では無いぞ、魔女よ。知らない事実を察しろと言うのは、無理難題じゃ」

「けど……大体の事情は分かった」


 他界した英雄、久保安レイト。

 彼の意思を継ぎたいベリィーゼ。

 そして迷宮に挑もうとしている俺。


「ユウト、どうするの?」

「決まってる……ドールなら、分かるだろ?」

「––––うん」


 ドールは微笑みながら、頷いた。

 全部分かっている、だから安心して。

 そんな風に言われている気がする。


「里長、実は提案があるんだが––––」

「何と!? しかしそれは他の者に示しが––––」


 その後、俺は自らの提案を里長へ話す。

 全てを話し終えたあと、エストリアから「ユウト君は相変わらずね」と言われた。


 まあ、彼女を森から連れ出した時と同じだろう。

 ただのお節介、自己満足。

 でも、俺がやりたいから、やる。


 結局俺の生き方は、そこに収束していた。




 ◆




「ただいまー」

「遅かったな、何処行ってたんだ?」


 時は過ぎ、夕方。

 その頃になってようやくベリィーゼは戻って来る。

 俺はある事を彼女に伝える為、玄関の前でずっと彼女を待っていた。


「……アンタ、ずっと待ってたの?」

「まあな」

「変な奴……で、何?」


 投げやり気味に彼女は言う。

 自分が迷宮攻略の同行者に選ばれる事は無い。

 それを自覚し、落ち込んでいるようだ。


「いや、今日から一週間、泊まり込みでお前と修行するのが決まったからさ」

「あーそう、がんばっ––––は?」


 ぽかんと口を開けるベリィーゼ。


「い、今なんて?」

「今日から一週間、泊まり込みでお前と修行するのが決まった。だから待ってた、オーケー?」

「はあああ!? 何で!?」


 彼女は慌てふためく。

 まあ、そういう反応になるよな。

 予想していたので、予め用意していた台詞を言う。


「いやさ、考えてみたんだよ。迷宮攻略の同行者に必要なのは実力と信頼、それは分かるよな?」

「そ、それくらい分かる。てか、アタシはその信頼が無いから––––」

「無いなら、作ればいい」

「え……」


 考えた計画を、余す事無く伝える。


「俺はこの里に今日来たばかり。同行を許せる相手なんて、信頼度で言うなら誰も居ない……だから、今の内から一緒に修行して、息の合うコンビだって周りにアピールしとけばいい」


 要するに、必要なのは分かりやすい『理由』だ。

 レイトの娘、これだけが理由で同行者に選ばれると、如何にも忖度されたようで印象が悪い。


 だから、そこにスパイスを加える。


 勇者が迷宮攻略に備え、修行していた時の相手。

 これなら前日あたりに『同行者は今まで共に修行していて息の合う者』と言えば、納得もしやすい。


「どうだ? 理に適ってるだろ?」

「いやでも、アンタの仲間が納得しないでしょ」

「それなら解決済みだ。二人は了承してる」

「え、な、何で……?」

「俺の事を、信じてるからな」


 付け加えるなら、久保安レイトの事を聞いて考えが変わったからだけど……それを彼女に直接伝えるのは、何だか憚られた。

 人の過去を掘り返しているようで、申し訳ない。


「……どうしてよ」

「?」


 ベリィーゼは俯きながら言う。

 渇望、歓喜、困惑……自らの様々な感情を、絞り出すように吐露した。


「どうして、そこまでしてくれるの……? そりゃ、私としては願ったり叶ったりだけど––––こんなの、都合が良すぎる……」

「別にいいだろ、都合良くて」


 そう言うと、彼女は顔を上げた。

 キョトンとした表情は、少し面白い。

 彼女に構わず、俺は続けた。


「俺の知り合いからの受け売りだけど……人生ってさ、大きな流れに身を任せるようなものなんだよ。流れには逆らえないけど、辿り着いた先でどう生きるかはその人次第……だから、自分にとって都合の良い事が起きたら遠慮なく利用すればいい」

「……」


 リクの言葉には共感できる。

 俺自身、召喚された当初は自分の力だけではどうにも出来ずに振り回されていた。


 けど、そんな時の中で色んな人と会って、時には敵対する奴と戦って……今こうしてここに居る。

 そこに後悔は、一つも無かった。


「長々と語ったけど、要するにチャンスがあったら掴めって事だ。普通の事だろ?」

「……そうね、何悩んでたんだろ、私」


 口角を持ち上げるベリィーゼ。

 その笑みからは、迷いが消えていた。

 雰囲気が刺々しいものに変わる。


「いいわ。アンタが何考えてるのかは正直分かんないけど……泥舟だろうが何だろうが、チャンスが転がってるなら乗ってやるわ!」

「じゃ、今日からよろしく」


 フフンと笑いながら、彼女は言う。


「試合では負けたけど、純粋な格闘能力なら私の方が上よね? ならビシバシ鍛えてあげるわ、覚悟する事ね、優斗!」

「え……」


 今度は俺がポカンとする。

 彼女から格闘術を教わるだって?

 そこまでは考えていなかった。


「なーに呆けてんのよ! ほら行くわよ!」

「ちょ、行くって何処に」

「道場よ。敷地の奥にあるの」


 ベリィーゼは俺の腕を引っ掴むと、ぐいぐい引っ張りながら道場へ連れて行こうとする。

 なんか当初の予定と違うような……まあ、いいか。


 彼女がやる気になってくれたようだし。


「––––それから、一つだけ」

「ん?」


 俺の手を引きながら、ベリィーゼは言った。

 消え入りそうな声音。

 だけど確かに、聴こえた。


「……ありがと」

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