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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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90話・偉大な影

 

「先程はお見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ありません……」


 綺麗に頭を下げるストロさん。

 あの後泣き止んだ彼女に客間へ案内された。

 玄関で靴を脱いだ事に続き、畳の部屋も初めての経験だったドールとエストリアは最初こそ驚いていたが、直ぐに慣れて今は普通に座っている。


「気にしないでください、ストロさん。我が子を心配に思うのは当然ですよ」

「そう言って頂けると、私としても助かります」


 俺が言うと、彼女は優しく微笑んだ。

 謝罪はこの辺で済まし、本題に入ろう。

 現在客間に座しているのは俺ら勇者一行の三人と、久保安家の三人と計六人。


 長方形の机の中央に俺が座り、対面には里長。

 俺の左右にはドールとエストリア。

 里長の左右にはストロさんとベリィーゼが。


 これから話すのはそれなりに重要かつ機密性が高いので、話し合いの人数は少ない方がいい。

 里を代表する一族が三人も居れば、問題は無い。


 一つ気になったのは「レイト」なる人物も参加すると思っていたが、不在のようだ。

 まあ日中の、しかも突然の訪問だしな。


 仕事か何かで居なくても、おかしくはなかった。


「まず、改めて自己紹介を。俺は矢野優斗、フェイルート王国で召喚された、今代の勇者です。今日はワケあって勇者の里を訪れました」

「そういえば、アンタ達って何しに来たの?」


 純粋な疑問だったのか、ベリィーゼは言う。

 俺が言葉使いを許している以上強くは言えないのか、それでも里長は憤怒の形相で彼女を見ていた。


「聖剣ユニヴァスラシスを探しに来たんだ。この里の地下の迷宮にあるんだろ?」

「あー、成る程ね」


 合点がいったのか、彼女はウンウンと頷く。

 里長も予想通りだったのか、特に反応は無い。

 この様子だとユニヴァスラシスの伝説は、里内で広く伝わっているようだ。


「やはり、そうでしたか」

「俺達が挑んでも問題ないよな?」

「はい、ですが迷宮攻略にはいくつかのルールがありまして」

「ルール?」


 里長にオウム返しする。

 迷宮へ挑むのに資格でも必要なのか? と考えていると、彼はルールについて細かく説明してくれた。


「まず、迷宮に挑めるのは勇者様本人と、サポーターとしてワシら里出身の人間一人だけですじゃ」

「どうして?」


 人数制限に意を唱えたのはドール。

 エストリアも懐疑的な表情を浮かべていた。

 そのルールだと二人は迷宮に挑めないからだろう。


「聖剣獲得までの道筋はそのまま当代の勇者様の試練になります、故に人数は限りなく少数です。そして迷宮が無闇に荒らされないよう、先代の勇者様が挑戦者を絞るようお造りになられたのです」


 理には敵っている事情だった。

 しかし里の人と一緒に攻略するのには、コミュニケーションが下手な俺としては些か不安がある。


「それなら仕方ないのかしら……」

「でも、心配」

「俺なら大丈夫だよ、二人とも」


 心配無いと言ったつもりだったが、ドールとエストリアにジト目で反論されてしまう。


「ユウト、すぐ無茶する」

「そうね。そこが一番心配だわ」

「は、はは……ところで、一体誰がサポーターとして同行してくれるんだ?」


 話題を逸らす為里長に問う。

 途端、彼は難しい顔をした。

 困っているようにも見られる。

 そしてベリィーゼとストロさんも同様に、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。


「それが……当初勇者様に同行させる予定だった者が、トラブルで不可能になりまして」

「トラブル? 何かあったのか?」

「実は––––」

「大丈夫よ、優斗」


 里長の言葉に重ねて、ベリィーゼは言った。


「迷宮には私が一緒に行く、サポートなら任せて」

「ベリィーゼ! 貴様いい加減にせい!」

「っ! パパの代わりは、娘の私がやる! 何もおかしい話じゃないでしょ!?」


 なんと、彼女がサポートに回ると名乗りを上げた。

 が、里長は反対のようで声を荒げる。

 呼応するかのようにベリィーゼも乱暴に言い返すが……パパの代わり、ね。


「二人とも、静かに。勇者様の前ですよ? 私が言えた事でもありませんが」


 口論を続ける二人を、ストロさんが諭す。

 先程泣いていた人とは思えないくらい冷静だ。

 そんな彼女を見て、二人も我にかえる。


「う……も、申し訳ありませぬ、勇者様……しかし、そう簡単に同行者を決める事は出来ないのです」

「それに関しては、同意見」


 と、それまで口論を静観していたドールが、刺すような視線をベリィーゼに向けながら言う。


「今日知り合ったばかりの人間に、ユウトは任せられない。それでもし、彼に万が一のことがあったら……私は平静を保っていられる自信が、無い」

「それは……」

「ドールの言う通りかしら。迷宮は危険なんでしょう? 同行者は慎重に選ぶべきだわ」

「……っ」


 援護射撃とばかりにエストリアも言葉を紡ぐ。

 二つの視線に晒されたベリィーゼは、反論しようにも正論だと自覚はしているのか、何も言い返せない。


 悪い雰囲気が場に漂う。

 これはマズイ……空気を変えないと。


「皆んな、一旦落ち着こう。俺達は今日知り合ったばかりなんだから、互いの事は知らなくて当然だ」

「勇者様の言う通りです、少しお休みになりましょう? お茶を淹れ直してきます」


 ストロさんはそう言ってから立ち上がり、皆の湯呑みを回収して退室した。

 残された俺達は再び会話を始める。


「ごめん、少し言いすぎた」

「私も、謝るわ。貴女がそこまで執着する理由もよく知らないのに……」

「そんな……私の方こそ、ごめんなさい。感情的になって……ほんと、馬鹿みたい」


 ドールとエストリアが謝る。

 するとベリィーゼは自らを叱咤した。

 その姿はどこか哀愁漂う。


「ちょっと、頭冷やしてくる」


 言って、彼女も客間から退室した。

 彼女の後ろ姿を、里長は悩ましげに見つめる。

 やはり、何かあるようだ。


「里長、ベリィーゼと俺の迷宮攻略の同行者だった人物の間に、何かあったんだろう? いや、恐らくは––––」

「父親です」


 ポツリと、里長は力無く言葉を吐いた。

 やっぱりなと心の中で相槌を打つ。

 察するに、その父親の名がレイトか。


「久保安レイト……ストロの妻であり、ベリィーゼの父親じゃった男です」


 里長はレイトについて軽く話した。

 曰く『最も勇者に近い男』と讃えられ、実力も性格もまるで伝説の先代勇者の生き写しだったとか。


 剣を振れば山を裂き、拳を繰り出せば大地を割る。

 誰が相手でも態度を変えず、尊重し、困っている人を見つければ率先して助けた。


 一部では先祖返り、なんて言われていたらしい。

 それほど偉大な父を持ったベリィーゼは彼を目指し、自らも強く在ろうと努力していた。


 彼女の強さへの執着心は、父親が理由だったか。

 奇しくもそこまでケルベロスと似ていた。

 アイツも育ての親が原因で、強くなろうとエストリアの元を訪れたと記憶している。


 閑話休題。


 誰からも愛され、尊敬されていた久保安レイト。

 このまま勇者が現れないなら、彼が勇者を名乗っても問題無い……勇者信仰が強いこの里でそんな事を言われるくらい、立派な男だった。


 しかし––––


「丁度一年前、悲劇が……災厄が起こったのです」

「一体何が?」


 悲劇、災厄。

 マイナスイメージの言葉を重ねる里長。

 彼は重々しく、口を開いた。


「終焉の赤龍……彼の者に最も近いとされる、四人の側近『死竜』が、赤龍よりも先に復活したのです。そしてレイトは四人の死竜を相手にたった一人で戦い……命を落としました。この里を、守る為に」

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