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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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89話・久保安

 

「もう仲良くなったの?」

「流石ユウト君、手が早いわ」

「微妙に悪意を感じるんだが……」


 軽口(と、思いたい)を言いながらドールとエストリアが俺とベリィーゼ、里長の元へ来る。

 彼女達も改めて自己紹介と挨拶をした。


「あー、その……ごめん」


 すると、ベリィーゼが二人に対して謝罪した。

 ドールはいつもの無表情だったが、エストリアは目を細めながら彼女の言葉に耳を傾ける。


「詳しい関係は知らないけど……もし、恋人とかだったら、ごめん。途中変な技かけちゃったけど、優斗は悪くないから……」


 なんと、俺のフォローをしてくれた。

 彼女はマイペースで自分本意な性格だと思っていたから、意外な展開に驚く。


 それは二人も同じだったようだ。

 ドールは表情を柔らかくしながら微笑み、エストリアはくすりと笑いながら言う。


「貴女が本気だったのは見てて分かっていたわ。だから気にする必要なんて無いかしら」

「……妬みはするけど」


 ドールはジト目で自分の胸とベリィーゼの胸を見比べながら、ぼそっと呟いた。

 その反応を見て、エストリアが言う。


「大丈夫よ、ドール。ユウト君が好きなのは、私達の足の裏だから」

「うわ……」

「突然俺の性癖暴露するのやめて!?」


 なんの当てつけか、突如俺の性癖が暴露された。

 ベリィーゼは露骨に引いている。

 ドールは恥じらっているが、俺は泣きそうだった。


「……ていうかさー、どっちが彼女なの?」

「私達、二人ともユウト君の婚約者よ?」

「先に告白されたのは、私」


 呆れたベリィーゼはどちらが彼女なのか聞く。

 が、返答は彼女の想像を超えていたようだ。

 最早嫌悪感を隠そうともせず、俺を睨む。


 もしかして、この街は一夫一妻なのか?

 日本人らしい先代勇者が街の制度に関わっているのなら、現代日本の価値観と同じでもおかしくない。


「い、一発多妻? 噂には聞いていたけど、まさか勇者が……そ、そんなの許されるのお爺ちゃん!?」

「まあ良いでは無いか、英雄色を好むと言うじゃろ。ワシも若い頃は––––」

「あーはいはい、昔話はまた今度聞くから……で、これから私達どーすんの?」


 老人の昔話が長くなるのは世界共通なのか、早々に打ち切ったベリィーゼは里長に問う。

 彼は数秒間だけ思案してから答えた。


「いつまでもここで立ち話に興じるワケにもいかん、とりあえずワシらの家に優斗様達を招待する」

「ん、分かった。でも突然勇者が家にやって来るなんて、ママが腰抜かしちゃうよ」

「ストロはそこまでヤワじゃなかろう。それから勇者様には様をつけろ様を」


 続けて里長は俺に向けて言う。

 隣にはドールとエストリアもいた。

 三人で彼の言葉を聞く。


「優斗様、今貴方が街へ出ますと大変なパニックになります故……里の者達には事前告知した上で、お姿を見せて頂きたい」

「それくらいなら、どうって事ない」

「感謝します。それからこの里の滞在中は、ワシの家をお好きに使いください」


 纏めるとこうだ。

 俺が勇者だと里の住民にバレるとパニックが起こり、面倒な事態になってしまう。


 だから迂闊には動けず、正式な発表があるまでは里長の家で世話になる……こんなところか。

 ちゃんと俺達の事を考えての提案。


 断る理由も無いので、その申し出を受け入れた。


「ワシはこれより、勇者様一行を送り届ける。よいか? 勇者様の正体は絶対に口にするな、破った者は永久追放の刑に処す! それでは解散じゃ!」


 神主や護衛達は神妙な顔つきで頷く。

 うっかり俺のことを口にしたら里から永久追放……まあこれくらい厳しくしないと、人の口に戸は立てられないか。






 それから数十分後。

 里長の家は神社のすぐ近くにあった。

 昔ながらの日本家屋で、趣がある。


 なんか良いよな、こういうの。

 現代日本で所謂『和』を感じる機会は滅多に無かったので、妙にテンションが上がってしまう。

 比較的日本要素が強かったユナオンも、住み分けされた和と洋の融合が殆どだったからな。


「立派な建物ね」


 エストリアが感心しながら日本家屋を見ている。

 彼女は自分の知らないモノを見たり聞いたりするのが好きなので、好奇心が刺激されたのだろう。


「さあ優斗様、入ってくだされ」

「ありがとう–––––何やってんだベリィーゼ?」

「……」


 里長の家に入ろうとすると、何故かベリィーゼが俺の背中に隠れるよう位置取る。

 目前の日本家屋は彼女の家でもある、コソコソする理由は無い筈だが––––


「いやー、私ほんとなら学校行ってる時間だからさ、あはは…………うう、ママに怒られる……」

「お前なあ」


 非常に学生らしい理由だった。

 ていうか学校あるんだな、この里。

 フェイルートと違って、色々と近代的だ。


「だから言っただろう馬鹿者め。少しは反省せんと、レイトの奴も心配するぞ」

「……うっさい」


 プイッとそっぽを向くベリィーゼ。

 レイト、という人物に反応してるように見えた。

 彼女とは浅からぬ関係なのだろう。


「お邪魔します」

「皆の者、客人じゃ!」


 俺達が入ると、里長は声高に叫ぶ。

 すると何処からともなく使用人らしき人々が集結し、列を成して頭を下げた。


「あらお父さん、もう帰って来たの?」


 そして玄関から続く廊下の奥から、長い銀髪と赤目が特徴的な三十代後半くらいの女性が現れる。

 彼女の顔つきはベリィーゼとよく似ていた。


 里長を見ながら「お父さん」と言った事を察するに、この人がベリィーゼの母親だろうと推測する。

 証拠に彼女本人がコソコソとしていた。


「突然家を飛び出したから、心配したのよ?」

「ストロ、それどころでは無いぞ。こちらの方は今代の勇者様じゃ、先程里に来られた」

「え……? それ、本当です?」


 ストロさんは目を丸くして驚く。

 流れるように俺に視線が向いたので、軽く会釈しながら「勇者です」と伝えた。


 するとストロさんは姿勢を正し、それまでの穏和な雰囲気を消してキリッとした顔になる。


「これは大変失礼しました……私は久保安ストロ、里長ライルの娘です。里までご足労頂き、誠にありがとうございます」

「こちらこそ、急な訪問ですみません」


 そんな感じで一言二言言葉を交わした後、ストロさんがようやく自分の娘の存在に気づいた。


「……ベリィーゼ? 貴女学校はどうしたの?」

「きょ、今日は休校だったのよ……!」

「嘘を言うな、馬鹿者。学校をサボって神社で暇を潰していたら、偶々ワシらを見つけたんじゃろうて」


 ダラダラと冷や汗を流すベリィーゼ。

 なんか懐かしいな、こういうやり取り。

 母さんに仮病がバレた時を思い出す。


「ベリィーゼ、貴女……う、うう……!」

「ちょ、ママ!?」


 叱られる––––誰もがそう思っていたが、ストロさんはなんとその場で泣き崩れた。


「私はそんな風に育てたつもりは無かったのに……ごめんなさい、レイトさん……! ベリィーゼは不良になってしまったわ……!」

「別に不良じゃないから!」


 ぽかんとしながら母と娘のやり取りを眺める。

 里長は「勇者様の前じゃぞ!?」と取り乱していたが、俺は特に気にしてなかった。


「ユウト君、あれが普通の母と娘なのかしら?」

「どうだろう、家庭によって色々違うからなあ」

「ユウトはどうだったの?」

「俺? 仮病がバレた時の母さんは怖かったよ。父さんは放任主義だから、何も言われなかったけど」


 エストリアとドールは一般家庭と違う育ち方をしたからか、目前の光景が普通かと聞いてくる。

 誤解を与えてもこの先困るので、家庭毎に違うと一般論を述べてお茶を濁した。


 まあでも、仲は良さそうだよな、ベリィーゼとストロさん、ついでに里長も。

 家族仲は良好に越した事は無いだろう。

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