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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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87話・技の極致

 

 さて、どう反撃に出ようか。

 いや、消える技の正体が俺の予想通りなら、反撃に出ようと思った瞬間、既に敗北している。


 困ったな……技の仕組みが分かっても、対処法が考えつかないのなら意味がない。

 俺の体力も徐々に削られている。


 ベリィーゼは強い。

 下手をしたら、俺以上に。

 だが、戦闘は必ずしも強い方が勝つワケでは無いと、俺は経験則から知っていた。


「……ふぅー」

「ふん、そろそろ諦めたら?」

「まさか、ようやく体が温まってきたんだ」


 神纏は使わない。


 使えば一瞬で終わるが、分不相応の力に頼るのは違う気がする……何より一々自らの命を削る技を、そう簡単には使いたくなかった。


 こんな場面でも使用してたら、あっという間にあの世行きなのは確実。

 故に、純粋な自らの技と力で勝つ。


「強がりだけは一級品みたいね。けど、そろそろ終わらせるわ!」

「っ!」


 今まで最も速い初動。

 目を凝らし、どうにか彼女の姿を追う。

 この時点なら、まだ対応できる。


 問題なのは、その後。


「これで決める––––!」


 フッと、煙のように消えるベリィーゼ。

 間に合わなかった……だが落胆する暇も無い。

 急所だけを守るように身を屈める。


 が、彼女の攻撃は今までと一味違った。

 消えたと思ったら、また真正面に現れる。

 直後に両肩を掴まれ、同時に足も引っ掛けらながら仰向けに投げられた。


 結果、彼女にマウントを許す事に。

 意識外の攻撃に判断が遅れた。

 投げ技まで使える事に驚く。


 青空とベリィーゼの顔を見上げながらも、寝技に移行されないよう脱出を試みる。

 だが、彼女は俺の四肢を自らの四肢で抑えつける。


 体勢の優位もあるが、それを加味しても力強い。


「女に組み伏せられた気分はどう?」

「存外、悪くないな……!」

「あっそ。その減らず口、塞いでやる!」


 寝技か? と身構える。

 しかし繰り出されたのは意外な技だった。

 彼女の四肢の動きに集中していた俺は、完全に虚を突かれて見事に嵌ってしまう。


「ぐふぅ!?」

「……ちょっと恥ずかしいけど、勝つ為なら手段は問わないわ。卑怯にならない程度に、ね」


 突然視界が闇に覆われる。

 加えて息苦しく、呼吸を阻害されていた。

 けれど何故か柔らかく、良い匂いもする。


 ま、まさか……


「ふ、ふぐー!」

「ほら、早く脱出しないと窒息死するわよ? ま、このまま味わいたいならそのままでもいいけど!」


 胸だ。

 俺の顔面は、ベリィーゼの胸に押し潰されていた。

 二つの果実に挟まれ、呼吸困難に陥っている。


 そんな馬鹿な……こんな戦法、ありなのか!?


「フツーなら直ぐに突破される、でも……息切れする程疲れている今のアンタには、効果てきめんじゃない? 実際、苦しいでしょ?」

「ふ、ぐ」


 やられた。

 一見ふざけた戦法だが、確かに理には適っている。

 疲労している今の俺では、拘束を解くのは難しい。


 そんな状態で口と鼻を圧迫されたら振り解く手段は乏しく、元々息切れを起こしていた俺が酸素欠乏症に陥るのは必至だった。


「降参するなら今のうちよ。アンタの彼女達に、情けない敗北を見られたくないならね」

「ふー! う、ぐ!」


 口元を塞がれているから、上手く詠唱も出来ない。

 故に魔法も封じられている。

 限定的だが、よく出来た戦法だった。


「ふ、ふぐぐぐ!」

「喋るな! さっさとオチちゃえ!」


 ぐりぐりと胸を押し付けられる。

 段々と視界はボヤけ、意識は朦朧としてた。

 ああ……やばい……もう、意識が……


 最後はこんなにも、呆気なく終わるのか……?

 非常に屈辱的な負け方だ。

 悔しい、だけどもう力が入らない。


 諦めかけたその時。

 ベリィーゼが俺の心を折ろうと、再び煽った。


「見えないだろうから、代わりに教えてあげる。アンタの彼女達、物凄く失望してるわ。あーあ、可哀想……きっと勝負が終わったら、捨てられちゃうかもね? フフ、その時は私が飼ってあげようか?」


 ドールとエストリアが……?

 俺に失望してる? 捨てられる?

 なんだよ、それ……そんなの。




 ––––嘘に決まってんだろ!




「ふ、ぐおおおおおおおお!」

「きゃっ!? ちょっと、なに!」


 魔力は十分にある。

 あとは詠唱だけ。

 いや……本当は詠唱も必要無い。


 魔法の詠唱は、極論イメージの補強にすぎない。

 だったら、詠唱など必要無いくらい強い想像力を生み出す事が出来れば……理論上は、可能!


 イメージするのは風。

 この高飛車淫乱女が吹き飛ぶ姿を夢想した。

 大丈夫、俺なら出来る。


 くだらない妄想を、飽きる程していた俺なら!

 叫べ! そして見せつけろ!

 想像力が生み出す、無限の可能性を!


 ––––ウィンドオオオオオオオ!


「き、きゃあああああああっ!?」


 吹き荒れる突風。

 突風はベリィーゼの体に直撃し彼女を吹き飛ばす。

 視界が元に戻り、青空だけが見えた。


 拘束から解放された俺は、素早く立ち上がる。

 新鮮な空気を吸い、荒れた呼吸を整えた。

 ……若干ベリィーゼの匂いが顔に残っている。


「はぁーっ……! はあーっ……! あ、危なかった……!」


 あんな負け方、末代までの恥だ。


 二度と表を出歩けなくなる。

 ドールとエストリアにも、捨てられる事は無いにしても、軽蔑や侮蔑はあったかもしれない。


 だが、そんな悲しい未来は回避できた。


 横目でチラリとギャラリーを見る。

 ドールとエストリアは二人とも、手を合わせるようにして俺の勝利を祈ってくれていた。


 ほらな、彼女達は俺を信じている。


 だから負けられない。

 しかし、あの戦法は恐ろしすぎるな……二人を思い出す事が出来なければ、あのまま気を失っていた。


 けど、悪い事ばかりではない。

 極限状態に陥った事で、俺の魔法は新たなステージを迎える事が出来た。


 魔法の無詠唱行使。

 正直言って、俺も驚いている。

 ていうか、あんなカタチで目覚めていいのか?


「い、今なにが起きたんだ……?」

「あんな不自然な突風は吹かない……この人数だ、誰かが妨害したなら直ぐに分かる。だけど、そんな奴はいなかった」

「じゃ、じゃあまさか、あの男が詠唱せずに魔法を使ったってのか!?」


 どよめくギャラリー。

 無詠唱のインパクトで、さっきまでの俺の無様な姿は忘れてくれるといいのだが……


「まだよ! 私はまだ、負けたワケじゃない!」


 言いながら、ベリィーゼは立ち上がる。

 あの程度の魔法では仕留め切れないだろうと思っていたが、立て直しが想像以上に早い。


 けど––––俺は、自らの勝利を確信した。


「悪いが、消える技の正体はもう見切った」

「っ……! 今更そんなブラフに引っかかると思った!? はああああっ!」


 接近してくるベリィーゼ。

 俺は無詠唱で『ウォーター』を行使した。

 生み出す水が少量になるよう、調整しながら。


「今度こそ、これでトドメ……!」


 彼女は右肘打ちを繰り出そうとする。

 俺はギリギリまで引きつけ……決して『目蓋』を閉じないよう、注意しながら攻撃を避けた。


「なっ……!?」

「隙だらけだ!」

「っがは……!」


 あっさりと避けられたのがショックだったのか、体が硬直していた彼女に前蹴りを放つ。

 モロに受けたベリィーゼは、その場で崩れ落ちた。


「ど、どうして……!」

「気付いたんだよ。お前の技の正体、それは––––意識の隙間を狙った、錯覚だ」

「っ!」

「な、なんじゃと!?」


 ベリィーゼも驚いていたが、彼女以上に驚愕していたのは彼女の祖父である里長だった。

 恐らく、この技を教えたのは彼なのだろう。


 俺は技の仕組みを細かく説明してやった。

 屈辱的な技を受けた事の仕返しに。


「お前は俺が目蓋を閉じる瞬間を見極め、その時だけ超スピードを出して視界から消える。しかもそれを行うタイミングは、俺が攻撃に転じようとした一瞬の間だ。攻撃に移行する僅かな隙を狙い、二重の仕込みで消えたと錯覚させる……ほんと、スゲー技術だよ。カラクリが分かっても、俺には出来ないな」

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