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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
84/118

84話・エセ現代日本

 

 先代の勇者も日本人だった。

 これなら辻褄が合う。

 しかし、そんな偶然起こるのか?


 地球の人口は既に七十億人を遥かに超えている。

 今代は日本の学生達が召喚されたが、その前の勇者も日本人……ジャパン、呼ばれすぎだろ。


 なんて考えながら待っていると、門の向こう側から髭を生やした老人と、彼の護衛らしき迷彩服の一団が続々とやって来た。


 その中には先程の門番も居る。

 成る程、あの老人が『里長』か。

 里長だけは迷彩柄の衣服では無く、ユナオンでも見られた和服を着ていた。


 髭を生やす高齢者だったが背筋はピンと伸び、杖を必要としない強い足腰でしっかりと歩いている。

 歴戦の猛者……そんな印象を受けた。


 ドールやエストリアも同じような気持ちなのか、僅かな緊張を抱きつつ、彼と相対する。

 最初に口を開いたのは、里長からだった。


「見張りの者から、事情は聞いておる。ワシは久保安ライル……この里の責任者じゃ」

「く、くぼやす……?」


 彼の自己紹介に驚く。

 くぼやすって、完全に日本の苗字だよな。

 けど名前はこの世界由来のようだし……


 すると里長は目を細める。

 俺の反応を見て、何か探っているようだった。

 動揺を悟られないよう、こっちも自己紹介をする


「あ、失礼しました。俺は矢野優斗こっちは仲間のドールとエストリア・ガーデンウッドです」

「ガーデンウッド……? もしや魔女の血族か?」


 おいおい、どうして名前だけで分かったんだよ。

 歴代の魔女達がずっと冥府の森で暮らしていたのなら、名前すらも知りようが無い筈。


 唯一の例外はリクのような人外の命を持つ存在だと思っていたが……さて、どうしたものか。

 横目だけでエストリアを見ると、彼女はポーカーフェイスを崩さずに自ら切り出した。


「如何にも、私は魔女の血族……と言うより、今代の魔女本人かしら」

「……お主、掟を破ったのか?」

「掟の事まで知っているなんて、歴代の中にはお喋りな魔女も居たのね」


 彼女は涼しい顔で里長とのやり取りを続ける。

 ドールは相変わらずの無表情だったが、小心者な俺はハラハラしながら見守っていた。


「まあ、今は関係無き事か……では、矢野優斗よ」

「はい」

「付いてくるといい。お主が本当の勇者かどうかは今はまだ判断できないが、少なくとも勇者の血を継ぐワシらの同志とは認めよう」


 里長はそう言い、背を向けて歩き出す。

 どうやら里に入る許可を貰えたようだ。

 良かった、まずは第一関門突破ってところか。


 門番や里長の護衛は複雑な表情をしていたが、上司の決定には逆らえないのか、とりあえず敵対意識を引っ込めて俺達を迎え入れる。


 折角なので魔導馬車には戻らずそのままオートで動かし、自分達の足で歩きながら門を超えた。




 ◆




「……なんだ、これ……」


 それから約十分後。

 門を超えた先には森の中に作られた道が続いていたが、徐々に民家などが目につくようになり、気づけば本格的な『街』へと辿り着いていた。


 だが、その街並みは俺の目には奇妙に映る。

 とてつもなく見覚えがあったからだ。

 ユナオンの街並みを初めて見た時とは比べ物にならない程の、強烈な既視感。


 車道と歩道に別れた道。

 等間隔でそびえ立つ電柱。

 横断歩道に信号機。


 道行く人々の服装もTシャツやスニーカー等、日本どころか世界中で見かけるファッションばかり。

 俺は一瞬、本気で日本に戻って来たのかと思った。


 だが……


「あ、あの、アレって電柱ですよね? この街、電気が通っているんですか?」

「電気? 何だそれは?」

「え? だってアレは電柱––––」


 側を歩いていた護衛の人に聞いて、気づく。

 見た目は完全に電柱だ。

 けれど、電線が付いて無い。


 あれではただの棒状の物体だ。


「……あの、アレは何の為にあるんです?」

「デンチューか? あれはただの飾りだよ。何でも、勇者様の世界にはああいうのが沢山あったらしいぜ……お前、勇者なのに知らないのか?」

「いえ、俺の知る電柱と使い方が違うって言うか、なんか……はは」


 絶句した。

 電柱がただの飾り? そんな馬鹿な!

 俺はまさかと思い横断歩道や信号機についても聞いたが––––やはり街の装飾だと返ってくる。


 一瞬日本の街と見間違えたが、前言撤回しよう。

 ここは『エセ現代日本』の街だ!

 見様見真似で作られた、ハリボテに過ぎない。


 それが悪い事だとは思わないけどさ。


「随分と個性的な街かしら」

「こんなの、見たことない」


 ドールとエストリアは好奇心を刺激されたのか、興味津々で景観を楽しんでいる。

 俺は複雑な気持ちが入り混じり、どんな顔をしていいのか分からなくなってしまった。


「ユウト、どうしたの?」

「いや……ちょっと、疲れた」

「もしかして、そろそろ魔力の限界かしら? 無理はしないでほしいのだけど……」

「そっちは大丈夫、精神的な問題だから……」


 こんな一幕がありながらも、俺達は里長の後をついて行き……神社のような所へ着く。

 鳥居を通過する前に一礼し、参道を進む。


 境内は殺風景で、日本の神社と違い本殿と思われる建物がポツンと建っているだけだった。

 だが、確かに神秘的な雰囲気はある。


「ここは一体……?」

「先代の勇者様が自ら作り上げた、神聖な場じゃ」


 里長が言う。

 やっぱり先代勇者は日本人なのだろう。


 とは言え現代の知識には中途半端だったのか、電柱や信号機など、形だけでその役割を果たす為のシステムは構築出来なかったみたいだけど。


 いやまあ、俺だってその辺の知識には明るくない。

 電柱や信号機の仕組みなんて知らないし。

 召喚された時は、俺と同じ学生だったのかも。


「これはこれはライル様。今日は何用でしょうか? お連れの方が多いようですが」


 本殿へ近づくと神主らしき人物が現れた。

 他にも普段神社で働いているのであろう、巫女や住職が集まり、里長に挨拶をしている。


 勇者の里における彼の立場は相当強いようだ。


「実は先程、勇者かもしれぬ人物が現れての。嘘か真か調べる為に、選定の水晶玉を使わせてほしい。頼めるか?」

「ゆ、勇者様かもしれぬ人物が!? は、はい! 直ちに準備をさせまゆえ、暫しお待ちを!」


 神主は慌てながら本殿へ向かった。

 どうやら勇者の真偽はここで行われるらしい。

 選定の水晶玉という、謎の道具を用いて。


「矢野優斗よ、察しはついてるであろうが、今よりお主が本物の勇者かどうか、確かめる」

「どうやって?」


 ドールが言う。

 彼女の瞳には俺が勇者であると信じて疑わない、そんな気持ちがこれでもかと宿っていた。


「この中には『選定の水晶玉』と呼ばれる物があり、触れた者を勇者かどうか見極める。そして本物の勇者だけが、聖剣が眠る迷宮に挑めるのじゃ」


 聖剣……恐らくユニヴァスラシスの事だろう。


 手間が省けて助かった。

 俺が勇者であると証明できれば、ユニヴァスラシスが眠る迷宮にも挑ませてくれるそうだし。


「成る程、そういう事でしたか」

「じ、準備が整いました!」


 さっきの神主が再び現れ、準備が出来たと言う。

 早いな、まだ数分しか経ってない。

 無理をしてなければいいけど。


「準備も出来たようなので、早速参りましょう」

「随分な自信じゃの」

「そりゃあ勿論、勇者ですから」


 里長の言葉を軽快に返す。

 実際、俺は日本からこの世界に召喚された。

 それが何よりもの証拠である。


 で、靴を脱いで(ドールとエストリアが里に来てから一番驚いていた)本殿の中に入ると……巨大な水晶玉が鎮座していた。


 一体どうやって本殿の入り口から運んだのか、小学校の運動会で使った大玉ころがしの玉よりも大きい。

 色は無色透明だったが、周りの風景を鏡のようにぼんやりと反射している。


「あれが選定の水晶玉……」

「そうだ、触れるがよい」


 この場に居る全員の視線が、俺に集中する。

 見守る視線、懐疑的な視線、突き刺す視線。

 様々な感情の渦に巻き込まれる。


 けど、何も心配することはない。

 俺が勇者である事は、俺が一番知っていた。

 それに……こんな俺を勇者と慕ってくれる女の子が、少なくとも一人は確実に居るからな。


「それじゃあ……触れます」

「うむ」

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