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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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82話・暴かれた悪意

 

 その後、俺達は直ぐに宿へ戻り荷物をまとめた。

 数日の滞在だったが、楽しむ事は出来たと思う。

 今度は最初から最後まで、旅行の為だけに来たいと心の底から願った。


 ––––で、ユナオンから出発して半日が経った頃。


 魔導馬車は問題無く進んでいた。

 周囲の警戒を強めているが、髑髏面の暗殺者以降、とくに目立った襲撃も無い。


 なので、その暗殺者から情報を引き出そうとしているのだが……これが上手くいってなかった。


「一切口開かないな、コイツ」

「……」


 エストリアが用意した拘束用魔導具で手足を縛られた暗殺者は、無表情で口を閉ざしている。

 依頼主の情報は絶対に渡さない主義のようだ。


 まあ暗殺稼業も「アイツは簡単に口を割る」なんて広まったら誰も依頼してくれないだろうし、信用とかも大切にしているのだろう。


 狙われた側は困るだけなのだが。


「アンタも金で雇われただけだろ? 依頼主の情報さえ渡してくれれば、直ぐに解放するよ」


 もちろん嘘だ。

 情報を吐かせたら暫くの間眠ってもらい、次に目覚めた時はフェイルート王国の地下牢に居るだろう。


「……」


 だがその未来を悟っているのか、硬く口を閉ざす暗殺者の表情は一向に変わらない。

 まるでマネキンと話しているみたいだ。


 ラチがあかない……と、そんな時。


「甘いわ、ユウト君」

「え?」

「代わって頂戴。私が彼の口を割るわ」


 エストリアがそう言う。

 直後、彼女は長い足を振り上げ、暗殺者の顔面に思いっきり蹴りを叩き込んだ。


 当然、縛られている暗殺者はロクな抵抗も出来ずに魔導馬車内の床に転がる。

 流石に苦悶の色を浮かばせていた。


「ちょ、イキナリどうした」

「ユウト君は優しすぎるわ。金で雇われて人を殺すような輩に、情けなんて必要無いのよ」


 彼女はそのまま暗殺者の顔面を踏み付ける。

 よく見ると靴をヒールに履き替えていた。

 尖った踵が暗殺者の頰にめり込む。


「別に、貴方の口を割るのに拘る必要は無いのよ」


 エストリアは冷たく見下ろしながら淡々と告げる。

 俺は女王様のような彼女の姿に目が離せず、思わず正座しながら事の成り行きを見守っていた。


「魔法で貴方の精神に直接介入すれば、情報なんて好きなだけ手に入る。仮にも裏の世界で生きてるなら、そういう魔法があるのは知っているでしょう?」

「……」


 沈黙を保つ暗殺者。

 そんな彼を見て、エストリアは僅かに口角を上げ……暗殺者の股間を蹴り上げた。


 突然そんな事をされるとは思っていなかったのか、完全に虚を突かれた暗殺者は何の心構えも出来ずに蹴りを受け––––反射的に口を開けた。


「あぎああああああああああああっ!?」

「はいかいいえで答えなさい」


 暗殺者の絶叫が響き渡る。

 手足を縛られたまま、まるで海岸に打ち上げられた魚のように床の上でのたうち回った。


 だがエストリアの拷問はそれで終わらず、蹴り上げた足を今度は垂直に振り下ろし、ヒールの踵で男の急所を容赦なく踏み潰す。


 そこで暗殺者は初めて、慌てながら答えた。


「し、知っている!」

「はいかいいえで答えなさいと言った筈よ?」

「あがあああああああああっ!? は、はいいいいいいいいいいいいっ!」


 理不尽だ……意味は同じだろうに。

 でも何故だろう? 今の彼女から目が離せない。

 不思議と気分も高揚していた。


「話を戻すわ……精神に入り込むのは何かと手間がかかる、そんな事の為に時間は浪費するのは無駄よ。言っている意味が分からない程、貴方もマヌケでは無いでしょう? ねえ?」

「う……ぎ……」


 見逃してやる。

 エストリアは暗殺者にそう言っていた。

 既に彼の生殺与奪はこちらが握っている。

 抵抗は無意味––––それを言葉と痛みを混ぜ合わせながら、毒のように浸透させていた。


「どう? 話す気になったかしら?」

「っ……!」

「つまらない意地を張っていたら、この先一生気持ち良いコトが出来なくなってしまうけど、いいのかしら? 可哀想に……」

「ぎいああああああああああっ!?」


 本当に潰れる寸前まで力を強めるエストリア。

 見ているだけの俺も思わず股間に手を添えた。

 あんな拷問、俺には耐えられない。


 と、そんな時。


「ユウト、物欲しげな目でエストリアの足を見るのはやめて。婚約者として恥ずかしい」


 なんて事をドールが言った。

 俺は図星を突かれて動揺するが、認めるワケにもいかないので必死に言い訳をする。


「みっ、みみみ見てねえよ!」

「嘘ばっかり」


 彼女はため息を吐き、呆れながら呟く。


 俺とドールがそんな事をしている内にエストリアの拷問はヒートアップし、いよいよ暗殺者の子孫が金輪際残せなくなるのでは……と、予感した瞬間。


 彼は大声で叫びながら言った。


「お、俺に暗殺を頼んだのはフェイルートの貴族だ! そ、それしか知らない!」

「嘘ね。依頼主の正体が分からないまま仕事をするなんて、リスクが高すぎるわ」

「っ! ま、待て! 分かった、全部話すから! だからまず足を退けて––––」

「話し合えるまで潰し続けるわ、早くして」

「ぎああああああっ!?」


 それから暗殺者は時折悲鳴をあげながらも、依頼主についての詳細な情報を全て吐いた。

 哀れだが、自業自得なので同情はしない。


 で、彼の話を纏めるとこうだ。


 暗殺者を送り込んだのは、やはりフェイルートの貴族で……名前はルージャン・ズーク。

 伯爵家の当主で元国王派だったが、あの夜の革命が起きた直後から領地に立て籠もっていたとか。


 それ以降目立った事はせず、寧ろ金銭的な面で王妃派の支援を始めたので見逃していたとドールは言う。

 しかし元々黒い噂が絶えない怪しい人物で、イルザ様は革命後もルージャンを監視していたらしい。


「ルージャン・ズーク……ま、倒すべき敵が分かっただけでも収穫ありか」

「でも、これからどうする? 今からフェイルートに戻るのは時間がかかりすぎる」

「いや、戻るつもりは無い。確かにルージャンは厄介だけど、対処に時間を割くほどでも無いからな」


 所詮は裏でコソコソ動く事しか出来ない三流貴族。

 伯爵だが何だか知らないが、証拠もあるし、今の俺のフェイルート内での立場はかなり上だ。


 潰そうと思えば、いつでも潰せる。

 そんな奴の為に一旦フェイルートへ戻るなんて、馬鹿らしくてやってられない。


 まあ、必ず報いは受けてもらうが。


「お、おい、全部話したぞ……」

「あら、ごめんなさい。今退けるわ」


 弱々しい声で暗殺者が言う。

 エストリアはゆっくりと足を退かし……そして、サッカーボールを蹴る直前のような姿勢になる。


「……でも、私の大切な人を傷付けようとした罪は、まだまだ消えてないわ」

「まっ! 話がちがっ––––!」

「後悔しながら眠りなさい」


 ブォン、と。

 長く細い彼女の足が、鞭のように曲線を描きながら振るわれ……つま先が暗殺者の股間にヒットする。


 その瞬間、僅かに履いていたミニスカートがフワリと翻り、暗殺者の視点からだと彼女の下着を見せつけられた直後に激痛が生まれた事だろう。


「––––!?!!?!??!?!!!」

「あらやだ、はしたないわ」


 スカートの裾を抑えるエストリア。

 その足元で、暗殺者は声にならない悲鳴を上げ、大口を開け舌を突き出しながら気絶した。


 全てが終わると彼女は冷たいオーラを解き、いつもの調子に戻ってから言う。


「必要な情報は全て吐かせたわ。ふふ、私の手腕はどうだったかしら、ユウト君?」

「ユウトはずっと興奮してた」

「!?」


 俺が答える前にドールがとんでもない事を言った。

 エストリアは一瞬だけ驚くも、すぐに目を細めながらクスクスと笑う。


「ユウト君、痛いのは嫌って言っていたのに、こういうのにも興味があるのかしら?」

「……」

「否定しない……はぁ」

「いいじゃない、今更よドール」


 今度は俺が黙秘を始めると、言われ放題になる。

 それは少々釈然としないので、反論した。


「俺がこんな風になったのも、二人が毎晩躾とか調教とか言って色々したからだろ! つまりこれは後天的な性癖であって––––」

「でもユウト君、喜んでたじゃない」

「……治療院でも、自分で私の足を舐めたいと言っていた。発言に矛盾がある」

「うぐ……」


 が、あっさりと論破される。

 この手の分野で彼女達に勝てる未来が見えない。

 俺は一生、尻に敷かれる運命なのかも。


「さて、与太話もここまでにして……この暗殺者は、私の使い魔でフェイルートに送るわ。事情説明の手紙を添えたいから、一筆頼めるかしら」

「任せて」


 俺が勝手に敗北感に打ちのめされている間に、エストリアとドールが後処理を進める。

 本当、俺の婚約者達は優秀だなぁ。

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