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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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81話・暗殺者

 

「『ウィンド』!」


 投擲されたナイフをウィンドで吹き飛ばす。

 暗殺者は続けて何本も投げたが、全てを風で防ぐ。

 既に肉体の強化は完了している。


 当然視力も強化されている為、投げられたナイフの軌道を読むくらいは朝飯前だった。

 やがて暗殺者もナイフの投擲が無意味と理解したのか、投げるのではなく左右一本ずつ逆手持ちし、姿勢を低くしながら接近してくる。


 いつもなら片手剣で応戦するが、今日は宿に置きっ放しなのでそれは不可能だった。

 仕方なく徒手空拳で迎え撃つ。


 しかし、俺の仲間は俺の想像以上に優秀だった。


の者に凍てつく剣を『アイスブレイド』!」

簡易武装契約(アームドコントラクト)魔力強化(マナブースト)!」


 突如目前に、氷の剣が出現した。


 その剣はいつも俺が使っている片手剣と瓜二つな事に

 加え、膨大な魔力が注がれているのか、その辺の鍛冶屋で作られた剣の質を遥かに超えている。


 この剣を作ったのは、後ろの二人だろう。

 よくこのレベルの物を即興で作れる。

 上級勇者よりも彼女達の方が有能だった。


「これで対等だ!」

「……ッチ!」


 氷の剣を迷わず手に取り、応戦する。

 激突する鉄と氷。

 俺は迫る二本の刃の猛攻を捌き続けた。


 本来ならあっさり破壊されているだろうが、魔法で作られた氷は鉄以上に硬く、その上魔力強化で更に硬度が増している、壊れる道理は無い。


「らあっ!」


 それにしてもこの暗殺者、かなりの手練れだ。


 ナイフと片手剣、リーチの差は圧倒的。

 だがその差を感じさせない巧みな技術で俺の攻撃を受け、流し、隙を見ては反撃を試みる。


 だがやはり先程のダメージが残っているのか、時折動きが鈍り、ナイフ捌きのキレが格段に落ちていた。

 弱点が分かっているのなら、狙わない手は無い。


 俺は暫くあえて攻撃を受け、守りに徹する。

 氷の剣の柄を短く持ち、振るうのでは無く、盾のように移動させる事を意識して守った。


「……ッ!」

「どうした、もう終わりか?」


 負傷は毒のように、ダメージを蓄積させていく。

 時間が経つにつれて暗殺者の動きが鈍くなった。

 そして、遂に決定的な隙が生まれる。


 カクンと、暗殺者の姿勢が大きく崩れた。

 両足に力が入ってない。

 髑髏の仮面が邪魔して表情は読めないが……きっと焦った顔をしているのだろうと、想像した。


「はああああっ!」

「……ぐっ!? おおおおおおおおっ!」


 剣で攻撃……と見せかけて顔面を狙った前蹴りを、暗殺者は紙一重で躱した。

 ぐらりと、大きく揺れる暗殺者の身体。


 その体勢から立て直す事は不可能。

 ここだ––––


「『スパーク』!」


 氷の剣に電流を纏わせる。

 そのまま勢い良く振り下ろした。

 剣の切っ先は、緩む事なく暗殺者を貫く。


 同時に暗殺者を感電させた。


「あががががががっ!?」


 まだ殺すつもりは無い。

 彼が暗殺者だと仮定すると、依頼主がいる筈だ。

 俺達を狙う不届き者が。


 ソイツの情報が欲しい。

 二度とこんな馬鹿な真似はさせないよう、しっかりとその身に教え込む為に。


「あ……が……」


 数秒後、暗殺者は脱力して動かなくなった。

 しかしまだ油断はできない。

 こいつの仲間が潜んでいる可能性は十分にある。


 だがまずは––––


「お前の正体、暴かせてもらうぞ」


 奇怪な髑髏の仮面を剥ぎ取る。

 面の下に隠されていたのは、男の顔だった。

 二十代後半くらいで、至って平凡な容姿。


 実は俺の知り合いだった! なんて事も無く、本当にただの雇われ暗殺者のようだ。

 今は白目で気絶している。


 暫く様子を見るが、起き上がる雰囲気はない。

 新手も一向に現れないので一先ず緊張を解いた。

 ドールとエストリアが俺の元へやって来る。


「ユウト、おつかれさま」

「二人のサポートのおかげだよ、ありがとう」

「あれくらい何でもないわ」

「はは、頼もしいな……さて、と」


 暗殺者を見下ろす。

 兎にも角にも、この空間から脱出しなければ。


「この人、異層空間を作り出す魔導具を持っている筈かしら。探しましょう」


 エストリアの一言を皮切りに、まるで追い剥ぎのように暗殺者の持ち物を漁る。

 彼は身体のあちこちに武器を隠し持っていた。


 その中にルービックキューブのような箱があった。

 エストリア曰く、それが異層空間を作り出す魔導具のようなので、勿論頂戴する。


「この魔導具、レアモノなのか?」

「ええ。異層空間を易々と作れる魔導具なんて、簡単には手に入らないわ」

「へー、よく持ってたなコイツ」

「……暗殺者の持ち物とは、断定できない」


 ドールが髑髏の仮面を手に取りながら言う。


「私達の始末を依頼した人物が、暗殺の成功確率を上げる為に渡した物の可能性がある」

「おいおい、どんだけ恨まれてるんだよ俺達」

「良い気分では無いわね」


 だかまあ、彼女の意見には一理ある。

 一介の暗殺者が持つには貴重すぎる魔導具のようだし、俺らを絶対に殺したいと思っている奴が渡した方がしっくりくる。


「そもそも、俺達最初から尾行されていたのか?」

「どうかしら……魔導馬車の移動は、遮蔽物が少ない広野も多かったし、尾行できるとは思えないけど」


 疑問はそれだけじゃない。


 何故わざわざユナオンで暗殺に走ったのか。

 魔導馬車での移動中の方が人目も無く、暗殺には絶好のチャンスだと思うが……


 その考えを二人に伝える。

 するとドールが仮説だと前置きしてから、今回の暗殺事件の黒幕を考察した。


「依頼主は相当な財力の持ち主だと考えられる、つまりは貴族。そして何らかの手段で現地の暗殺者と連絡を交わし、ユナオンで襲わせた……多分、フェイルートの国内で事件を起こしたくなかったから、こんな回りくどいやり方をした」

「……ってことは、俺達に暗殺者を差し向けた黒幕は、フェイルートの貴族か?」

「あくまで仮説。でも、可能性は高い」


 貴族に恨みを抱かれ暗殺者を差し向けられる。

 一見あり得そうだが、そんなロクでもない事をしそうな貴族は総じて国王派で、彼らは前王失脚と同時に数々の悪行が明るみに出て殆どが処刑された。


「でも、今の貴族でこんな事をする奴いるのか?」

「ユウトの言いたい事は分かる。けど、全ての国王派を排除出来たワケでも無い。それに自らを偽って難を逃れた貴族もいる」

「まあ、それもそうか……」


 あまり強引に処罰しようとすると、タイダル陛下の外聞が悪くなり不利になる可能性があった。

 少数ながら、罰を逃れた貴族がいたのも事実。


「けど、仮に犯人がその貴族達だとして、どうしてユウト君を狙うのかしら? 言い方は悪いけど、勇者が貴重な戦力なのは彼らも同じでしょう?」

「どうせ、くだらない理由だろうよ。前王が消えて自分の立場が弱くなったとか、俺が低級魔法使いだからとか、幾らでもあるよ」

「……もしそれが本当なら、愚か者の極みね」


 エストリアが呆れながら言う。

 自分の不利益は、全て他人の所為。

 本気でそう思っている連中もいるのだ。


「それより、そろそろ脱出しないか? 現実の世界が今どうなっているのか気になるし」

「戻ったら、直ぐにユナオンから出た方がいい。残念だけど……」


 ドールの言う通り他の暗殺者、追跡者がユナオンに潜んでいる可能性がある以上、長居はできない。

 何より街の人々を巻き込むのは躊躇われた。


「それなら当初の予定通り、勇者の里へ向かうのがいいわ。あそこは特殊な方法でないと辿り着けないから、追っ手を巻くのにも丁度いいかしら」


 エストリアは言いながら、俺が持っていた異層空間を作り出す魔導具に触れる。

 すると魔導具が一瞬光ったと同時に、目前の世界の景色が反転し……気付いたら沢山の人々が闊歩する、本来の公園が広がっていた。


「サンキュー、エストリア」

「ありがとう」

「これくらい、魔女の手にかかれば目覚めのお茶前よ。さ、早く宿に戻りましょう」


 そんなワケで……息抜きも兼ねた聖剣探しの旅行は、思わぬトラブルの発生で中断した。

 ここから先は、真面目に勇者の里を目指す。

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