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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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79話・恥知らず

 

 退かず、臆さず、堂々と。

 レックスは宮下達に常識的な言葉を浴びせる。

 もし、彼らが『まとも』な人間だったら、今の言葉で頭を冷やし素直に退店した事だろう。


 だが、アイツらは平和な日本で自分勝手に暮らしていた、自己中心性の塊みたいなもの。

 当然、レックスの言葉には従わない。


 それどころか彼を嘲りの対象にした。


「ぶっはははは! トカゲが二足歩行で歩いて喋ってるぞ!? 異世界スゲー!」

「ちょ、面白! 撮って撮って!」

「ばか、スマホの充電とっくに切れたろ!」


 宮下達はレックスを見て大爆笑する。

 彼の言葉は、まるで届いていなかった。

 元クラスメイトとして、とにかく恥ずかしい。


 礼節を欠いた、恥知らずな者達。

 これ以上は見てられない––––俺は身を乗り出し、宮下達の元へ急ぐ。


 その途中。

 今度はレックスが、嘲笑した。

 下品に笑い続ける宮下達を見て。


「フッ……醜いな」

「あ? トカゲ、今お前、俺らを笑ったか?」

「ああ、そうだ」


 瞬間、宮下が拳を放つ。

 魔力強化無しでも、ギリギリ見える速度。

 一般人からしたら神速の域だろう。


 だが––––

 パシッ!

 レックスは、宮下の拳を難無く受け止めた。


「っ!?」

「ふむ、筋力に任せた雑な一振り。残念だ、筋は良いが鍛錬を積んで無い証拠だな」

「さ、触んじゃねえ!」


 拳を引っ込める宮下。

 その顔色に、焦りが浮かぶ。

 ジリ、と僅かに後退していた。


「熱海、だっさ」

「何手ェ抜いてんだよ」

「ああっ! 別に、そんなんじゃねえよ!」


 仲間内で吠え合う宮下グループ。

 彼らにとって、仲間のミスさえ話のネタ。

 信頼も友情も無い。


 ただ一緒に居るだけの、薄い関係。

 日本に居た頃は、仲間達と常に一緒な彼らに憧れを抱いた事もあったが……それは間違いだった。


 あのような関係、仲間でも何でも無い。

 するとレックスが再び口を開いた。

 今度は僅かな怒気を含ませながら。


「最後通告だ、ここから出て行け」

「だからあ––––さっきからウゼェんだよ!」

「お前が出て行け!」


 宮下以外の元クラスメイト達が、一斉にレックスへ向けて拳や蹴りを放つ。

 五つの方向からの同時攻撃。


 その全てを、彼は捌き切った。


「ふんっ––––!」


 次の瞬間、宮下グループの五人は全員、訳が分からないといった顔で床に倒れていた。

 今の一瞬で、何をされたのか理解出来てないのだ。


 かく言う俺も、かろうじて見えただけ。

 レックスは必要最小限の動きで彼らの攻撃を捌き、カウンターで地面に転がした。


 分かるのはそれくらい。

 どんな手の動かし方でとかは、目で追えなかった。

 速すぎる……常識など到底通用しないほど。


「貴様らでは、拙者には一生勝てん。出直せ」

「ぐ、ぎ……このトカゲええ……!」

「舐めやがって……」


 実力差は歴然としていた。

 五人は悔しそうにしながらレックスを見上げる。

 そこで終われば、ギリギリ平和的な解決に至ったが––––宮下は自分のプライドを優先した。


「……表出ろ、トカゲ」

「何だと?」

「表出ろって言ってんだよトカゲ! 決闘だ決闘! それで決着つけてやらあ!」


 ガン! と、宮下は拳を卓上に振り下ろす。

 彼の発言に周囲の客達は騒つく。

 決闘––––アニメや漫画じゃありふれた言葉だが、この世界に限定するならば、また違う意味と化す。


 互いに譲れないものを賭けた戦い。

 異世界エデンでは、神聖な行いとされていた。

 勝者は栄光を手にし、敗者はその生涯を終えるまで負け犬の烙印を押される。


「決闘とはな。軽々しく口にするものでは無いぞ」

「ビビってんのかあトカゲ! さっきは油断しただけだ! 俺の本当の力を見せてやるよおっ!」

「……哀れ、ここに極まる、か」


 レックスはため息を一つ吐く。

 そして、鋭い両目で宮下を睨んだ。


「いいだろう。その申し出、受け入れた」


 それを聞き、宮下はニタリと笑う。

 まるでなにかを企むかのように。

 アイツ……何をするつもりだ?


「おら、さっさと表出ろ!」

「言われずとも、出て行くさ。これ以上、この店に迷惑をかけてはられん。マスター、悪かったな」


 レックスは酒代を置き、店を出る為歩き出す。

 宮下はその後に続いた。

 彼の仲間も立ち上がり、事の行く末を見守っていたが……宮下は誰もが想像しなかった行動に出る。


 レックスが酒場から退店した瞬間。


「––––ばああああああああああかっ! 誰が決闘なんてするか! 惨めに死ねええええっ!」


 宮下は殺意を剥き出し、腰に刺していた鞘から剣を抜いてレックスに斬りかかった。

 最低最悪の不意打ち。


 決闘の伝統を踏みにじる、裏切りの一撃。

 誰もが彼の愚行に虚を突かれた。

 あんな行為、許される筈が無い。


 勝っても負けても、宮下は卑怯者としての顔がここら一帯に広まるだろう。

 それを分かってるのか、分かってないのか。


 今の奴にあるのは、純粋な敵意と殺意。

 プライドの高い人間は、総じて相手が自分より下だと勝手にレッテルを張って接する。


 そして相手が反抗したら、こう思うのだ。

 格下が調子に乗るな、と。

 宮下の今の行動は、まさにそれだった。


「うらあああああああああっ!」


 躊躇なく、宮下はレックスの首を狙う。

 誰もがレックスの死を悟った。

 だが––––その予測は、覆される。


 たったの一撃で。


「あがあっ!?」


 突如、宮下は体勢を崩して地面に倒れた。

 白目を剥きながら、ピクリとも動かない。

 完全に意識を失っていた。


 そんな彼を見下ろしながら、レックスは呟く。


「竜心・閃光斬り……」


 チャキン––––彼はいつのまにか抜刀していた刀を、流れるような動作で鞘に収めた。

 小気味好い金属音が響く。


 直後に、歓声が湧き上がった。


「うおおおおお! すげえええええっ!」

「なんだ今の!? 何が起きたんだ!?」

「抜刀術……? それにしたって速すぎる!」


 誰もがレックスの技を讃える。

 気付いた時には刀が抜かれ、宮下をたったの一撃……しかも峰打ちという手加減までして制圧した。


『神業』という言葉が脳内に浮かぶ。

 日本に居た頃、居合の達人が日本刀で様々な物を斬る動画を視聴した事があった。


 達人の居合は、本当に目で追えない。

 今の俺ならば知覚できるだろうが、レックスの居合はそんな日本の達人を遥かに凌駕している。


 実力のある冒険者だとは思っていた。

 だが、まさかここまでとは。

 俺はとてつもない人と話していたのかもしれない。


「あ、熱海!? う、嘘だろ、おい!」

「ダメだ、完全に気を失ってる……」

「あーもうダサッ! なに負けてんのよコイツ! アンタらもこっち見んな!」


 宮下の仲間達が彼を背負い、負け犬の遠吠えとばかりに周囲の人々を口汚く罵る。

 が、周りはそんな言葉は意に介さず、ヒソヒソと耳打ちしては冷ややかな目で彼らを眺めた。


「な、何だよ、何なんだよアンタら!」

「もっ、もう行こうぜ!」

「お、覚えてろよトカゲ野郎!」


 視線に耐えられなかったのか、宮下グループは脱兎の如くその場から逃げ出した。

 恐らく、この街にはもう居られないだろう。


 彼らが立ち去った後、俺はレックスに声をかけた。


「レックス、大丈夫だったか?」

「問題無い。だが……少々悪目立ちしすぎた、慌しい別れになってしまうが、さらばだ」

「あ、ああ。また縁があったら」


 そう言うと、レックスは人混みの中に紛れた。

 数秒後には彼の姿は完全に群衆へ紛れる。

 騒動の中心だった彼が消えたことで、次第に酒場の前からも人が離れ元の状態に戻った。


「……なんか、白昼夢でも見てたみたいだ」

「ユウト、見つけた」

「え?」


 背後から声をかけられる。

 そこには浴衣姿のドールとエストリアが居た。

 二人とも仄かに顔が上気している事から、さっきまで温泉に浸かっていたのかもしれない。


「エナジーモスキートに案内してもらったの」

「そうか……」

「……何かあったのかしら?」

「ああ、実は––––」


 俺は二人に今日の出来事を話した。

 レックスと会ったこと、宮下達が暴れていたこと。

 すると、ドールが「まさか……」と呟いた。


「どうした?」

「……レックスって人の特徴、もう一度聞かせて」

「別に、いいけど」


 彼女はレックスが気になるようだ。

 特徴しかない人物なので、幾らでも話せる。

 全てを語り終えると……ドールは確信めいたような表情をしながら、言った。


「ユウト。多分だけど、貴方の知り合ったレックスは、私も知ってる」

「えっ」

「あら、そうなの?」


 エストリアも驚く。

 彼女は頷いてから、続けた。


「––––私の知る限り、レックスは世界で数人しか居ないゴールドランクの冒険者の一人。剣術の達人で、世界最速と名高い最強の獣人」

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