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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
78/118

78話・先輩冒険者

 

 二人でカウンター席に座る。

 まだ昼間だが、客入りは上々。

 観光地だから昼でも構わず酒を飲むのだろう。


 暫く待っていると酒場のマスターと思われる男性がやって来て注文を聞いてくる。

 どうしよう、酒の名前なんて知らない。


「ハニーウェイブを」

「俺も、同じ物を」


 結局竜人の彼と同じ物を頼む。

 便利だよね、今の注文の仕方。

 こういう場面の伝家の宝刀だ。


 未成年の俺も当然のように酒を頼んでいるが、この世界に飲酒制限の法律は無い。

 けど大人がしっかり管理しているので、子供が口にすることは滅多に無かった。


 酒を待つ間に、聞きたかった事を聞く。


「今更ですが、お名前はなんと? ああ、私から名乗るのが礼儀ですね。ヤノユウトと申します」

「拙者はレックス、冒険者だ」


 竜人の名はレックス。

 そして職業は冒険者のようだ。

 温泉で見た傷に納得する。


 長く活動を続けていれば、あんな身体になってもおかしくない、冒険者とは過酷な仕事だからだ。

 つまりレックスはかなりのベテランなのだろう。


「へえ、冒険者ですか。実は私もなんですよ」

「やはりか、纏う雰囲気が世人とは違う」

「そんな、まだまだホワイトの駆け出しですよ」


 事実だった。

 しかし、彼にとっては驚くべき事だったのか、少しばかり動揺の色を見せながら言う。


「それはまことか?」

「もちろん」

「それなりの数の修羅場を潜っているように見えるが、うむ……まあそういう事もあろう」


 一方で、レックスはベテランどころか相当な実力者だろうと俺は予想する。

 見ただけで俺の過去を見抜くような発言。


 目利きの良さは、冒険者人生を大きく左右する。

 何が危険で、何が安全か。

 それらを見抜き判断する能力は、未知を相手にする事が多い冒険者に必須の技能だ。


 彼はその能力が俺よりも圧倒的に高い。

 個々の武力はともかく、冒険者としての能力なら間違いなくレックスの方が上だ。


 これはチャンスかもしれない。

 酒を飲み交わしながらベテランの冒険者と話せる機会なんて、早々訪れないからだ。


「よろしければ、冒険者活動についてお話しを聞いても? ここの支払いは私が持つので」

「要らぬ配慮だ。後輩に奢らせる程、拙者も落ちぶれておらんさ」

「これは失礼を」


 俺は心の中で、彼の態度の良さに驚いた。

 冒険者は粗暴で荒れた人種が多い。

 そういう者しか生き残れない世界だからだ。


 にも関わらずレックスの態度はとても礼儀正しい。

 俺は素直に好印象を抱いていた。

 感心していると、彼はフッと笑いながら言う。


「昔話でよければ、幾らでも話そう」

「ありがとうございます、先輩」

「……慣れんな、呼び捨てで構わん」




 ◆




 それからレックスからは色んな話を聞いた。


「キマイラ三匹の討伐って凄いな。しかも一人で」

「あの時は流石の拙者も死を覚悟した。しかし、己の殻を破る成長は死と隣り合わせの中でこそ発現しやすいのもまた事実」

「生存本能ってやつか?」

「そうだ。拙者は生への渇望から新たな剣技を編み出し、キマイラ三匹を討伐するに至った」


 すぐに打ち解け、口調も砕けた。

 レックス曰く「一期一会の相手同士で気を使う必要もあるまい」だそう。


 俺も詳細はボカしつつ、ドールと出会って婚約するに至るまでを話した。


「ま、俺はこんなところかな」

「結婚か、めでたいな。式を挙げる時は是非、拙者も馳せ参じよう。そうだな、祝いの品に災害指定魔獣の尻尾でも持参しようか」

「はは、そりゃあ良い! ……ところで、災害指定魔獣って何?」


 気づけば酒は進み、日も暮れ始める。

 しまった、もうこんな時間か。

 ドールもエストリアを半ば放置していたけど、大丈夫だろうか?


 ああ、でもなんかあった時は使い魔のエナジーモスキートが知らせてくれるらしいし、居場所だってすぐに分かるから平気かな。


「悪い、俺はそろそろ帰るよ。嫁達に怒られる」

「その年で既に尻に敷かれるか、ふはは、それもまた夫婦円満の秘訣か」

「まあ、間違っちゃいないな……」


 昼も夜も、尻に敷かれてます。

 レックスは残っていた酒を一気に胃袋へ放り込むと、出会った当初には見せなかった笑顔で言った。


「ユウトよ、縁があったらまた会おう」

「ああ、その時は婚約者を紹介するよ。レックス」


 最後に片手で握手を交わした。

 さてと、酒代を支払って帰るとするか。

 俺は周囲を見回し、エナジーモスキートを探そうとしたが––––その時、酒場の扉が乱暴に開かれる。


「オラ! 勇者様が来てやったぞ!」

「ちょっと〜、ここなんか雰囲気わるいー」

「でも他の店は人多すぎてキモいし、まだマシじゃね? しゃーないっしょ」


 ゾロゾロと団体の客がやって来る。

 人数は六人ほどで、全員若くまだ少年少女。

 彼ら彼女を見て、俺は目を覆いたくなった。


 何故なら––––皆、見知った顔だったから。


「騒がしい若者がやって来たな」

「あ、ああ」

「……どうした? 飲みすぎたか?」

「いや、大丈夫だ。何でもない」


 そうとは知らないレックスに心配される。

 なんで、アイツらがここに?

 と言うか数日前に竹田と会ったばかりなのに、どうして旅先で何度も元クラスメイトと遭遇するんだ。


 しかもまた、厄介ごとをしでかしそうだし。

 問題を起こす前に、今から止めるか?

 心の中で葛藤する。

 だがそんな葛藤虚しく、六人の元クラスメイト達は既に暴走し、問題を起こしていた。


「お、お客様、店内ではお静かに……」

「うるせえ、俺に意見するなっ!」

「ごはっ!?」


 突然店員を殴り飛ばしたのは宮下熱海だ。

 バスケ部に所属していて、所謂オラオラ系。

 召喚前から筋肉質だった身体は更に大きくなり、膨れ上がった両腕はまるで丸太のようだった。


 アレ、魔法薬でドーピングしてるな。

 どれだけ効率良く鍛えても、半年と少しであそこまでの肉体には成長しない。


 残り五人もバスケ部の関係者だ。

 いつもあのグループで行動していたと思う。

 所構わず騒ぐ、猿のような連中だと記憶している。


 生徒指導室に呼ばれた回数はブッチギリだったが、バスケの試合で好成績を残している関係上、学校側も大胆な処分は下せずにいた。


 年中お祭り騒ぎなパーティー思考は異世界でも変わってないようで、勝手に大きな卓上を占領し、他の客の酒や料理を奪って宴会を始める。


 いやまて、倫理観崩壊しすぎだろ。

 学校でもあそこまでは酷くなかったぞ!?

 あまりの横暴さに呆然としていると、他の客がキレて宮下達に文句を言う。


「おいガキ共、お前らまともな教育受けてねーのか? いい加減にしねえと潰すぞ」

「は? それ俺達に言ってんのか?」

「お前ら以外に誰が––––ぶふあっ!?」


 文句を言った客は最後まで言い終える事なく、顔面を強打されて店の壁際まで吹き飛ばされる。

 ピクピクと動いているので、生きてはいるようだ。


「ったくよー、温泉街って聞いたから来たけど、人多すぎだろ、ウゼェ」

「熱海ー、私もう帰りたーい」

「それ賛成ー! 美容に良い温泉、軒並み行列出来てて入れないしー」


 もう見てられない。

 俺はガタッと席を立つ。

 力尽くでも、奴らを追い出そう。


「レックス、少し待ってて––––レックス?」


 さっきまで隣に座っていた彼の姿が消えていた。

 おかしいな、何処に行った?

 キョロキョロと辺りを見回す。


「あ」


 見つけた。

 彼は何故か、宮下達の元にいる。

 宮下達も獣人の登場に驚いていた。


 そんな彼らに、レックスは告げる。


「貴様ら、知性ある人族ならば、もう少し礼節に気を使ったらどうだ? 恥知らずなだけならまだしも、客や店員に暴力を振るうなど言語道断。無法者がここで酒を飲む資格は無い、立ち去れ」

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