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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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76話・温泉街ユナオン

 

 村を出発して数日経ち、遂に国境を超えた。


 もう暫く進めば、温泉街ユナオンへ辿り着く。

 フェイルートと同じなら魔獣対策の外壁があり、検問所があってそこから入都できるだろう。


「もうすぐユナオンに着くわ。ゴーレムホースも問題無く動いているし、このまま休憩無しで直接行ってしまう?」

「私は構わない」

「ああ、異論無いな」


 エストリアの提案に同意する。

 途中町や村に立ち寄ったりしていたが、こう何日も馬車で過ごしていると流石に窮屈だ。


 あとは単純に、早くユナオンへ行きたいから。

 初めての海外旅行みたいなものだ。

 因みに言語や貨幣価値については心配ない。


 どうやらこの世界の人間の九割以上が創造神ヴィナスを信仰しているようで、故に貨幣価値はヴィナスで統一されているし、言語もヴィナス教が生み出した世界統一言語が使われている。


 地球でも世界共通言語を広めようとした試みはあったようだけど、言語はその地域の歴史や文化が色濃く反映されている事もあり、上手くいかなかったと学校の授業で習った記憶があった。


 その点この異世界エデンは誰もが同じ宗教を信仰しているので、浸透しやすかったのだろう。

 まあ例えフェイルートとは違う言語だったとしても、俺は全部日本語に聞こえるのだけどさ。


「ドールはユナオンに来たことあるんだっけ?」

「冒険者ギルドの依頼で、一度だけ。でも魔獣討伐で一日中外に出ていたから街並みは殆ど見てない」

「なら、私達全員初めて訪れるようなものかしら。ふふ、楽しみだわ」


 こんな風に、各々ユナオンへの思いを語り合いながら馬車の中で時間を潰した。

 ……で、約二時間後。


 遂にユナオンの外壁が見えた。

 フェイルートの外壁と違い、周りが水の張った堀で囲まれていて、大きな橋が架かっている。


 これだけでもうワクワクした。

 異国に居るのだと実感させられる。

 橋の上では入国審査待ちの長い行列が出来ていたので、魔導馬車をそこへ向けて走らせた。


 他の馬車と比べ一回りも大きく、オマケに馬が機械仕掛け……注目を浴びない理由が無い。

 窓から外の様子を見ると、ある者は興味深く、またある者は恐ろしげに魔導馬車を眺めていた。


 今外に出たら厄介そうなので、検問所に着くまでおとなしく待っている。

 待機している間、入都したら何をするか話す。


「まずは今夜泊まる宿を探すか」

「そうね、荷物もあることだし」

「色々見て回るのは明日がいい。少し疲れた」

「確かに。着いて直ぐに観光! ってのも慌ただしいからなあ」


 ドールやエストリアと楽しく会話していると、つい本当の目的を忘れそうなってしまう。

 アルグレールはあくまで通過点で、ここから商業都市ラックに向かい、更には勇者の里へ向かうのだ。


 けど、なんかもうどうでもよくなっていた。

 今が楽しければ、それでいいじゃないか。

 女の子二人と旅行なんて、幸せすぎる。


 なんて考えていたらいつのまにか橋を渡りきり、検問所でチェックを受ける番が回ってきた。

 代表して俺が馬車の外に出て受け答えをする。


 検問所に居た兵士は二人。

 その内の一人が口を開けた。


「見たことのない馬車だな……」

「手作りでして、連れの趣味です」

「随分と凝った趣味だな、まあいい。身分証となるモノは持っているか?」

「はい、どうぞ」


 俺は陛下から貰ったペンダントを見せる。

 それを見た兵士はギョッと目を見開き、慌てて姿勢を正しながら敬礼した。


「ま、まさかフェイルート王家に所縁のあるお方だったとは……どうぞ、お入りください」


 荷物検査も免除されてあっさり通される。

 王家の権力って他国にまで及ぶんだな。

 フェイルートがそれくらい信用されているのか?


 ま、無事に倒れるなら何でもいいか。

 中に戻るのも面倒なのでゴーレムホースに跨る。

 そのまま魔導馬車は大きな門をくぐり、俺達は遂にユナオンへと立ち入った。


「フェイルートとはまた違う風景ね、凄いわ」

「……なんか、不思議」


 ドールとエストリアも窓から顔を出していた。

 二人とも驚きつつ、目を見張っている。

 俺も驚いていたが……フェイルートとの違いにではなく、ユナオンの街並みに『懐かしさ』を感じた自分に驚いたと言った方が正しい。


 和と洋の融合。

 フェイルートのように中世風の建物が並ぶ中に、ポツポツと古来日本風の建物があった。


 道行く人々も基本は洋服だったが、十人中一人くらいの割合で着物を着ている人物も。

 この国の冒険者っぽい男性は、戦国時代の武者のような甲冑姿で普通に出歩いている。


 なんだかおかしな光景に、目が回る。


「ユウト、どうかした?」

「急に黙って、何かあったのかしら?」

「いや、何でもないよ。大丈夫」


 ずっと黙っていたからか、二人に心配される。

 うん、ちょっと別の意味で衝撃を受けたけど……考えてみれば同じ日本と言っても古来と現代じゃ別物のように違うし、深く考えることじゃないか。


「とりあえず、宿を探すか。なんか目立ってるし」


 周囲の視線を煩わしいと思いつつ、仕方ないと割り切って馬車を停めるスペースのある宿を探した。




 ◆




「はー……なんかやっと落ち着けるなあ」


 荷物を床に置きながら呟く。


「でも、良いところが見つかってよかったわ」

「うん」


 彼女達の言葉に頷いて返す。

 借りた部屋の窓からはユナオンを一望できた。

 選んだ宿はホテルのように高層の建物で、最上階からは街並みを見下ろせる。


 外観は洋館のようで雰囲気も良く、内装も清潔で従業員達の態度も指導が行き届いたものだった。

 しかもこの宿、温泉があるらしい、流石は温泉街。


 是非とも入浴してみたかった。

 ていうか、異世界にも温泉ってあるんだな。

 まあ温泉と聞こえるのは翻訳能力の影響だけど。


「紹介人に紹介料払って正解だったな」

「ええ、その紹介人も沢山居たけれど」

「フェイルートの王都と同じか、それ以上に人が多い。発展してる証」


 この宿は紹介人に料金を払って教えてもらった。

 自分で泊まる場所を探すのも旅の醍醐味かもしれないが、今回は早く休みたいという気持ちが先行した。

 それにそろそろ太陽が沈み始める頃だし。


「とりあえず、温泉入って来る。二人は?」

「私も入ろうかしら」

「私も」


 ドールとエストリアも入浴するようだ。

 今日だけでも長旅だったしな。

 俺は素早く着替え等を用意する。


「じゃ、先行ってる。またあとでな」


 当然だが、温泉は男湯と女湯に分かれている。

 混浴なんてものは無い。

 一瞬想像したが、現代日本の温泉でも家族風呂以外の混浴なんて聞いた事がなかった。


 そこら辺は異世界も同じなのだろう。

 仮にあったとしても若い女性は絶対入りたがらないだろうし、実際は俺のような男しか居ないだろう。


 うん、何だその地獄絵図?

 やっぱり混浴なんて無くて正解だ。

 変な夢を見ないで済む。


「あら、一緒に入ってくれないの?」

「はあっ!?」

「ふふっ、冗談よ」


 クスクスとエストリアが笑う。

 くそ、魔女め……こっちは理屈こねくり回して混浴の夢を断ち切ろうとしていたのに。


「個室の浴槽なら、ある」

「……へ?」


 ポツリと、ドールが言った。

 彼女は恥ずかしい事を言っている自覚があるのか、頰を赤く染めながら続きを言う。


「一緒に、入る?」

「……」


 考える。

 本音は混浴大歓迎だが、ここではいそうですと即答するのはなんか恥ずかしい。


 ちっぽけなプライドが邪魔していた。

 二人の前で恥ずかしい事なんて沢山していたのに。

 ……言ってて悲しくなってきた。


「でもこの浴槽、三人で入るには小さすぎるわ」


 無駄に行動力のあるエストリアが、早速浴槽を確認してきたようだ。

 混浴する気満々なの、君?


「冗談じゃ無かったのかよ……」

「ユウト君が物欲しそうな目で、私を見るから」

「み、見てねえよ!」

「みてた」

「ド、ドール!?」


 婚約者二人に指摘されてしまった。

 俺は逃げるように部屋を飛び出す。

 その間際、二人の声が聞こえた。


「何も逃げる事は無いかしら」

「……ユウト、かわいい」

「ふふ、それは同感ね」


 ……弄ばれてるなあ、俺って。

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