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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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74話・堕ちた勇者の末路

 

 炎は消したが、根本的な解決には至ってない。

 なので、もう一工夫加える。

 暴れ狂う竜巻に向け、更に魔法を唱えた。


「弾けろ『ウォーター』! そして……凍りつけ『フリーズ』!」


 限界ギリギリの魔力放出。

 大量の水は竜巻にぶつかると、水飛沫をこれでも上げながら風に呑まれてグルグルと渦巻く。


 そこへ氷属性の凍結魔法を行使した。

 空気中の水分を凍らせるのではなく、今は目前にハッキリと『液体』がある。


 結果は––––


「う、嘘だ! あり得ねえっ!?」


 キラキラと輝く、氷の像が出来ていた。

 竜巻をそのまま凍りつけたかのようなビジュアル。

 実際、ウォーターをぶつけて水を含んだ竜巻に対して凍結魔法を行使したので、間違ってない。


 美しい竜巻の氷像だった。

 だけど、それも一瞬。

 ビギッと亀裂が入ったかと思ったら、次の瞬間には砕け散って氷の雨を生み出した。


 ガクリと膝をつく竹田。

 あの魔法に相当な魔力を注いでいたのか、全力疾走した後のように汗を流している。


 震える拳を地面に叩きつけながら、彼は叫ぶ。


「クソが! クソクソクソクソクソおおおおっ! 俺が、負ける……ダメだ、そんなのダメだダメだダメだあああああああああああああ!」


 現実を受け止め切れないのか、竹田は子供のように喚き散らしながら奇声を上げ続ける。

 醜く、幼稚な行動だった。


「お前らあああああああああああ! お頭の俺がピンチなのに、何やってんだあああああっ!?」


 そして怒りの矛先を、自分の配下へぶつける。

 しかし、その叫びには誰も答えない。

 否……物理的に、答えられなかった。


 盗賊達は全員、喉元を切られて絶命している。

 苦悶の表情でのたれ死んでいた。

 中には四肢を全て切断されている者も。


 やったのは勿論、ドールだ。

 彼女は既に盗賊全員を無力化し、エストリアと共に村人達の手当てをしている。


 朝飯前と、言ったところか。

 彼女はあの特級勇者に勝利しかけたのだから、魔法もロクに使えない奴らに負ける道理は無い。


 肝心のお頭もこのザマ。

 盗賊団はものの数分で一人を残しこの世を去った。

 そして、最後の一人もすぐに後を追う事になる。


 俺は竹田の元へ歩いた。


「く、来るなっ! 俺に近づくな、やめろ!」

「……」


 一歩近づくたび、奴は叫ぶ。

 目前へ到着した頃には、プライドも何もかも捨てて無様に命乞いをしていた。


「ほんの出来心だったんだよ!? こんな世界に無理やり連れて来られて、おかしくなってんだ! そうさ、俺も被害者の一人なんだよ!? お前なら分かるだろ、な?」


 誰の目から見ても崩壊している論理。

 竹田の言葉は、俺に届かない。

 悲しいくらいに空っぽだから。


 奴は許せない。

 だから、張りぼての希望をチラつかせた。

 釣りのように、食いつくのを期待しながら。


「被害者、か。確かに一理ある」

「っ、そ、そうだろ!? 流石は矢野! 俺は日本に居た時から、お前は賢い奴って思ってたんだよ!」


 嘘つけ、さっきまでガチで忘れてたろ。

 でもまあ、いい。

 助かると思い込んでる竹田を見るのは愉快だった。


「なら、もう一方の被害者の意見も聞くべきだよな。じゃないと不公平だ」

「あぐっ……!?」


 竹田の髪を鷲掴み、引きずりながら村人達の元へ。

 彼らは最初怯えて逃げ出そうとしていたが、竹田が何も出来ない状態なのを教えると落ち着いてくれた。


「ユウト君? 終わったの?」

「いや、まだこれからだ」

「そう」


 一瞬だけ、エストリアは竹田を見下ろす。

 その視線は無感情で、冷たい。

 毎晩俺を悦ばせる為に見せる演技の冷ややかな視線ではなく、本当に軽蔑している眼力だった。


「皆んな、一つ聞きたい事がある」


 村人達に向けて、告げる。

 それはさながら裁判だった。

 裁判長は、俺。


 被告人は竹田。

 原告は村人で、傍聴席に座っているのがドールとエストリア……なんてな。


「な、何でしょうか……」


 一人の老人が、代表して前に出る。

 周りの村人達からは村長と呼ばれていた。


「この村は、コイツに何をされた?」

「それは……」

「答えてくれ」


 すると、一人の男が怒りを露わにしながら叫ぶ。


「俺の娘は! そいつに強姦された挙句に殺された! まだ十四歳だったんだぞ!?」

「お、俺の妻も殺された!」

「私のお父さんは、少し反抗の態度を見せただけで魔法で丸焼きにされたわっ!」


 続々と被害者の声があがる。

 聞けば、まだ村を占拠して一日しか経ってない。

 短かい間にやらかしすぎだろ、コイツ。


「ち、ちが、それは……っ!」


 弁明しようにも出来ない竹田、そりゃそうだ。

 全部本当にやった事なのだから。

 自分も被害者だった、なんて論理が彼らに通用しない事くらい、気づいているのだろう。


「酷すぎるな……実はコイツは、故郷から無理に連れて来られた、言ってしまえば奴隷と似たような境遇の男なんだ。だからおかしくなって、村で暴れ回ったと言っているんだが……どうする?」


 ワナワナと、竹田が震えた。

 目に涙を溜めながら。

 分かっているのだろう、この先の結末を。


 馬鹿な奴だ。

 後悔するくらいなら、やらなきゃいいのに。


「んなの、関係ねえだろうがっ!」

「それとこれとは話が違え!」

「殺せ! 殺せえええええ!」


 ––––殺せ! 殺せ! 殺せ!


 村が中世の魔女狩りのような世界に変わる。

 魔女狩りの裁判と違うのは、被告人が本当に極悪人な事くらいだろうか。


 とにかく、判決は言うまでもない。


「––––まあ、見ての通りだ、竹田」

「あ、ああ……」

「後悔しながら、死んでくれ」


 ドサリと、地面に竹田を投げ捨てる。

 彼は最後の力を振り絞って逃げ出そうとするが、その前に鎧の隙間を狙って両足を斬り、動けなくした。


「ぎああああああああああっ!?」

「お前みたいな奴は、絶対に反省しない。だから今ここで処分するんだ」

「や、やのおおおお……! たのむからいのちだけはあああああ、おねがいだあああ……!」


 ピクピクと両足の痛みに震えながら、竹田は言う。

 俺は返事とばかりに彼の両手も切断した。

 発狂する竹田に、最後にこう言う。


「あぎゃあああああああああ!?」

「来世では、良い子になるんだな」

「ああああああああああああ––––あ」


 剣の切っ先はズブリと、竹田の首を貫いた。




 ◆




「いったい、何とお礼を言っていいのやら……」

「乗りかかった船です、気にしないでください」


 竹田率いる盗賊団を壊滅させた後。

 俺達も村の復興を手伝っていた。

 死体の処理や怪我人の手当て、建物の修繕等々。


 流石に食料だか買ってはいさようなら、なんて事が出来るほど薄情者でも無かった。

 それが出来るなら、最初から村を助けてない。


「一応、騎士団には連絡しといてください。ヤノユウトって名前を出せば、多分すぐに通じます」

「ありがとうございます。いやしかし、貴方様は一体何者でしょうか……?」


 単純な疑問だったのだろう。

 王都の騎士団に通じる名前。

 適当に誤魔化そうと思っていたが––––


「彼は勇者。愚かな王と偽りの勇者から国を守った、真の英雄ヤノユウト」

「え?」

「な、なんと……! 勇者様でしたか!」


 ドールがそんな事を言い出した。

 広報活動か何かの一環だろうか?

 そんな話は一切聞いてないけど。


 小声で彼女に話しかける。


「ちょっと、いいのかこれ?」

「そろそろユウトの存在を広めた方がいい。貴方は凄い人なんだから、もっと評価されるべき」


 と、返ってきた。

 いつのまにか隣に居たエストリアも「大賛成だわ」と頷きながら村人達にあれこれ話し始めた。


「伝説のお方とこんな所で出会えるとは……! 村を救って頂き、本当ににありがとうございます!」

「い、いえ」


 その後、結局俺が勇者という事実は村人全員に伝わり夜はお祭り騒ぎになってしまった。

 複雑な気持ちだったが、村人は皆心の傷を癒すように騒いでいたので、良しとする。


 これも勇者の役割……なのか?

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