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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
73/118

73話・堕ちた勇者

 

「竹田……お前、何やってんだよ」

「ん? 見たことある奴がいるなぁ」


 竹田は目を細めながら俺を見る。

 本気で誰なのか分かってないようだ。

 だけど、無理もないのか?


 彼は元の世界でも、俺と同じく孤立していた。

 そして俺達同士も話した事が無い。

 かろうじて名前だけは覚えていたが、それだけ。


 けど、顔はしっかり覚えている。

 今の竹田は何故かフェイルート王国騎士団の鎧を身に付け、その上から赤いマントを羽織っていたが……服装が違えど、見間違う事はあり得なかった。


「俺は矢野、お前と同じくこの世界に召喚された」

「お頭、知り合いなんですか?」

「……あー、居たなそんな奴も」


 ポン、と手を打つ仕草をする竹田。

 本当に忘れていたようだ。

 が、すぐに凶悪な笑みを浮かべる。


「で、そんな元同級生が何の用だ?」

「旅の途中だ。この村に寄ろうとしていたが、ご覧の有り様だった……竹田、お前がやったのか?」

「そうだぜ」


 あっさりと、彼は肯定する。

 盗賊を率いて、村人を殺害したと。

 明らかに日本の倫理観が欠如していた。


「何で……お前は勇者だったろ」

「はあ? 勇者? お前、まだそんな事言ってんのかよ、ダッセー。んな一銭の得にもならねえ見せかけの称号よりも、盗賊やってた方が百倍楽しいぜ!」

「流石お頭! 俺達の救世主!」


 竹田の配下と思われる盗賊達が彼を褒めちぎる。

 救世主とはどういう事だ?

 疑問に思っていたら、ドールが竹田に質問した。


「一つ聞きたい、その鎧はどうしたの?」

「あ? うるせえ……て、中々良い女だな、お前。そっちの黒髪もとびきりの美少女じゃねえか……!」

「答えて」


 彼女は一切の感情を見せず、無表情のまま聞く。

 エストリアは既に竹田への興味が無くなったのか、傷付いた村人達の手当てをしていた。


「丁度良い……お前ら!」

「へい!」

「俺の武勇伝を聞かせてやれ!」

「分かりやしたぁ!」


 すると三人の盗賊が前に出て口を開いた。

 竹田は彼らの背後でふんぞり返りながら聞く。

 本音を言えば奴の武勇伝なんて聞きたくなかったけど、事情を知りたいので黙っている。


「お頭はフェイルートのクソ騎士団に捕まっていた俺らを解放してくれたんだ!」

「男前!」

「しかもしかも、その時に騎士を何人もぶっ殺して、武器と鎧を奪ったんだあ!」

「最強!」

「そのまま俺達のリーダーになって、賢い戦略で次々に村を襲っては酒池肉林! 毎日夢のようだあ!」

「よ、世紀の大軍師!」


 ……耳を覆いたくなるような武勇伝だった。

 ドールもエストリアも、彼らを汚物を見るかのような冷たい視線で見ている。


 要するに亡命した後、盗賊団を乗っ取ってそのまま悪の限りを尽くしていたってワケか。

 救いようの無いクズ共だ。


「矢野、同郷のよしみだ。その女二人を差し出せば、お前だけは見逃してやるよ。今日は気分が良いからな、いつもぶっ殺しているが、本当に助けてやる」


 竹田はケラケラと笑いながら言う。

 その自信はどこから湧いてくるのだろう。

 自然と、剣を持つ握力が強まっていた。


「断る。死ぬのはお前だ、竹田」

「はあ?」

「『スパーク』!」

「っ、危ねえ!」


 スパークを唱え、電流を放った。

 竹田は前に居た連中を蹴って盾のように使う。

 当然、そいつらは感電死した。


「アギャアアアアアッ!?」

「今まで散々、面倒見てやったんだ。喜んで死ね」

「仲間に対する言葉とは思えないな」

「仲間? はっ、どーいう意味だそれえええ!」


 言いながら、竹田は腰に刺していた鞘から剣を抜いて猛烈なスピードで迫り来る。

 が、既に何度も強敵達と戦い、目が慣れていた俺の前ではゾウのような速度に見えた。


 体を少しズラすだけで回避する。

 加減を知らなかったのか、竹田はそのまま一人で俺の背後にあった民家に突っ込んだ。


「お、お頭!」

「テメエらよくも!」

「ソイツを殺せええええええええっ!」


 今まで何処に潜んでいたのか……盗賊が次々と現れ、気づけば二十人前後まで増えていた。

 数では圧倒的に不利。


 しかし、俺達と盗賊達の実力差は歴然。

 何も臆することは無かった。


「ドール、俺はあの馬鹿の相手をする。残りの盗賊全部任せてもいいか?」

「問題無い、ユウトも気をつけて」

「ああ、分かってる」


 互いに背中を合わせ、目前の敵と相対する。


「幾百もの風の刃よ、吹き荒れろ『ハンドレッド・エアカッター』」


 ドールが風の魔法を詠唱した。

 盗賊達の中には魔法使いが存在しないのか、全員武器を振り回すだけで彼女に近くことすら出来てない。


 これなら何も心配する事は無いだろう。

 そう考えていたら、吹っ飛んで自滅した竹田が起き上がり、何やら口元を動かしながら再び迫り来る。


「くらえ! 『シャドウイリュージョン』!」


 すると奴の影が空中に浮き上がり、刃のように形を変えながら背後で蠢いていた。

 あれは確か、闇属性の上級魔法。


 影に魔力を流し、変幻自在の物質として操る術だ。

 影が濃い程威力は高まり、薄いと逆に弱まる。

 今は昼間なので影の色は濃かった。


「この猛攻、お前に耐えられるか!」


 今度は速度を調節しているようで、俺の少し前で止まった竹田は剣と影を混ぜ合わせて攻撃を始める。

 影は枝のように分離していたが、操作している竹田のコントロールが悪いのか楽に避けれた。


「あたるかよ」

「くそっ、避けんじゃねえ!」


 苛立ちを隠そうとしない竹田。

 そんな奴を見て思う。

 低級魔法に闇属性は存在しない。


 低級しか使えない俺に、闇属性は扱えなかった。

 なんか、見せつけられているようで腹立たしい。

 俺は闇に対抗するべく、光の魔法を放った。


「暗闇を払え『ライト』!」

「馬鹿な……!?」


 眩い光が照射される。

 それだけでシャドウイリュージョンは消滅した。

 残ったのは唖然としている竹田だけ。


 その間に素早く奴の懐に入り込み、三発殴ってから腕を掴み、背負い投げをして地面に叩きつける。

 俺の動きに竹田はまるで反応出来ていなかった。


「ぐあっ……! こ、のお……!」

「これで終わりじゃない」

「ふざけっ––––っ!?」


 起き上がろうとした竹田の顔面に、サッカーボールを蹴るような動作で足のつま先を叩き込む。

 本当にボールのように転がった。


 ボタボタと血を流しながら、竹田は顔を片手で覆いながらヨロヨロと立ち上がる。

 驚いた、まだ立てるのか。


「ゆ、許さねえ……絶対に、殺す!」


 竹田は持っていた剣を投げ捨て、両手を広げた。

 何をするつもりだ?


「炎と風よ! 今一つとなり、渦巻く火炎となりて全てを焼き払え! 『バーニングストーム』!」


 直後……奴の右手に炎、左手に小さな竜巻が宿り、それらを合掌するかのように擦り合わせ、巨大な火炎の竜巻を生み出した。


 あれは合成魔法か。

 意外に器用だな、あいつ。

 合成魔法は細かいコントロールが要求される筈だから、奴の苦手な分野だと思っていたが……戦闘と魔法構築の器用さはイコールじゃないって事か。


 ……なんて、評論してる場合じゃない。

 あの規模の魔法は周辺に大きな被害を及ぼす。

 俺一人なら回避も防御も容易いが、村が住民達への被害は計り知れないものになる。


 なら––––


「バーニングストームの射程範囲はこの村を軽く超えるぞ! ひはは、全員焼け死ねゴミ屑共!」


 竹田は錯乱しながら魔法をぶっ放そうとする。

 勿論そんな事はさせない。

 俺は奴の元へ高速接近しながら魔法を唱えた。


「吹き飛べ! 『ウィンド』!」


 出来る限りの魔力を注いでウィンドを行使する。

 合成魔法は緻密なバランスの下で成り立つモノ。

 なら、そのバランスを崩せばいい。


 俺のウィンドは竹田のバーニングストームと衝突。

 取り込まれるが、風量が増した事でバーニングストームは不安定になり……乗せていた火炎は消え、ただの竜巻へと変化した。


「な、なにいいいいっ!? ぐ……だが射程範囲は変わらねえんだよ! このままぶちかます!」


 竹田は御構い無しに魔法を飛ばした。

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