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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
72/118

72話・盗賊団

 

 魔導馬車を走らせて数日。

 もうそろそろで補給地点の村に到着する。

 その村で一日休んだら、一週間かけて一気にユナオンまで向かうつもりだ。


 なので食料品を多目に購入する。

 金はラックの事もあるので大量に持ってきた。

 両手で抱える大きさの金庫にこれでもかと金貨を詰めたので、金欠の心配はない。


 ここまでの旅は順調そのもの。

 問題があったとすれば、旅の途中であるにも関わらずドールとエストリアがいつものように俺を調教しようとしたのを必死で止めたくらいか。


 説得は成功したものの、村や町に着いた日の夜はどうなってしまうのか……恐怖と期待で胸が膨らんでしまう自分が情けなかった。


 まあでも、初めての長旅でそんな余裕が生まれる程度には安心安全で進んでいたが……今日は少しばかり、厄介なトラブルと遭遇する。


「なんだ、あれ?」


 窓から首を出して前方を見ていたら、妙なものを見つけたので二人に報告する。

 あれは……人か?


 十人前後の人々が集まっている。

 それだけなら俺達と同じ旅の一団で終わるが、何故か魔導馬車の進路を塞ぐように立っていた。


 妙に怪しいな……

 魔力操作法で視力を強化し、再び前方を見る。

 今度は相手の顔や服装まで分かった。


 そして確信する。


「あいつら、盗賊だ」

「本当?」

「ああ、間違いない」


 俺は断言する。

 全員が刃物で武装し、進路を塞ぐように仲良く並んで立ち尽くしている––––これはもう、旅の馬車を狙った盗賊一味と考えていいだろう。


 その旨をドールとエストリアにも伝えた。

 二人は少しばかり驚いたが、すぐにいつもの調子に戻って驚くべき発言をする。


「そのまま轢き殺してしまいましょう」

「賛成」

「……え?」


 パワフルすぎる婚約者達に困惑する。

 こういうのって、捕らえて騎士団に突き出すのが一般的だと聞いた覚えがあるのだが……


「懸賞金のかかっている盗賊はそう。でも違う場合は、基本的に殺傷が認められている。彼らは害悪しか生まない存在、早めに始末するのが、次の被害者を出さない事にも繋がる」


 と、至極真っ当な意見をドールに聞かされた。

 なら反対する理由も無い。

 が、魔導馬車の耐久性には少々不安があった。


「エストリア、轢き殺すのは構わないけど、魔導馬車やゴーレムホースが壊れたりしないか?」

「大丈夫よ、そんな脆い作りはしてないから」


 エストリアから太鼓判を押された魔導馬車。

 懸念していた問題点は全て解消された。

 あとはもう、突っ込むだけ。


 悪く思わないでくれ、盗賊達。


「そこの馬車、止まりやがれー!」

「死にたくなきゃ荷物を寄越しなー!」

「おら! 持ってるもん全部置いてけ!」


 数秒後、自らに起きる運命も知らず、盗賊達は各々荒々しい言葉で叫んでいるが、ゴーレムホースは一切足を緩めずに広野を駆ける。


 寧ろ、段々とスピードが上がっていた。

 窓から首を引っ込め、その時を待つ。

 一応衝撃に備えて近くの物を掴む。


 そして––––


「止まれっていっ」


 ゴンッ! ガ! 

 ズシャアアアアアアアアッ!


 肉が弾け飛ぶ音が響く。

 車輪は盗賊達だったモノを踏み潰しながら、グルグルと回って変わらずに俺達を運ぶ。


 一瞬の出来事だった。


「あとで掃除しないと……全く、面倒だわ」

「手伝う」

「ありがとう、ドール。助かるわ」


 女性陣は和やかに会話している。

 なんか、この世界の命って軽いんだな。

 今更俺が言うべき事でも無いけど。


 改めて事実を感じていた。




 ◆




 盗賊達を轢き殺してから数十分後。

 目的の村が見えてきた。

 だけど、少し様子がおかしい。


 普通、どんな村や町にも魔獣から住民を守る柵なり壁なりがある、そうでないと生活できないからだ。

 なのに目的の村は、柵が壊れている。


 いや……壊されている、と言うのが正しいか。


 なんだかキナ臭い雰囲気を感じる。

 あの村、無事なのか?

 何者かに襲われている可能性が高い。


「ドール、エストリア。あの村は何かに襲撃されている可能性が高い、どうする?」

「ユウト君のしたいようにすればいいわ」

「私も。ユウトについて行く」

「そ、そうか……?」


 まさかの全肯定の意思が返ってくる。

 うーん、判断を任されるのもそれはそれで大変だ。

 けどまあ、悪い気はしない。


 二人は投げやり気味に言ったのではなく、その両目は俺に対しての確かな信頼が込められていた。

 なら、男として応えなくちゃな。


 それに次の村まではけっこう距離がある。

 どの道補給の為に行くしかなかった。

 俺は側に置いていた片手剣を手に取って言う。


「このまま村に行って、もし魔獣なんかの襲撃に遭っていたら助けたい。それでいいか?」

「ええ、もちろん」

「ユウトなら、そう言うと思ってた」


 二人は微笑みながら各々準備をする。

 ドールは杖を持ち、エストリアは修理したらしいゴーレム・ランスロットを召喚した。


「とりあえず、このまま村の近くまで向かうか」

「着いたらランスロットを先行させるわ」

「ああ、頼む」


 村には直ぐに着いた。

 魔導馬車を一旦停止させて降りる。

 予定通り、ランスロットが先行して村の入り口へ。


 襲撃者の正体は簡単に分かった。


「なんだあコイツは!?」

「おい、アッチに馬車があるぞ!」

「くそ! 馬車荒らしの連中は何してんだ!」


 ボロボロの衣服に人相の悪い顔つき。

 何処となく、さっき轢いた者達と似ている。

 恐らくは彼らも盗賊。


 この村は盗賊の襲撃に遭っていたんだ。


「また盗賊かあ……」

「さっきの奴らの仲間かも」

「可能性は高いわ」


 つまり盗賊の一団はこの村を襲ったあと、周囲への警戒と馬車荒らしの為、十数人を村の外に配置して見張らせていたってワケか。


 ここまで王都から離れていると、騎士団を呼ぼうにも時間がかかりすぎる。

 だから村で自衛するしかないのが現実だった。


「ま、今更盗賊に負けるとも思えないし、スパッと終わらせようぜ」

「了解」

「そうね。行きなさいランスロット」


 俺が言うと、ランスロットは様子を見に来た数人の盗賊達を容赦無く斬り伏せた。

 一瞬で殺しているのが、せめてもの慈悲だろう。


「よし、突入だ!」


 三人で村の中に入る。

 違和感はすぐに確信へと変わった。

 煙を出させない為か、燃やされてはいないものの村の建物は殆どが荒らされ傷付いている。


 しかも住人達は村の中央の一箇所に集められ、恐怖に顔を歪ませながら跪いていた。

 ザッと見た感じ、老若男女合わせて百人前後。


 彼らの周りには勇敢にも盗賊に立ち向かったのか、数人の男達の遺体が無残に転がっていた。

 家族を守る為、戦ったのだろう。


 ……もう少し、俺達が早く来ていれば。

 いや、もしもの話は意味無いか。

 それに早く着いていたら、さっさと物資を購入して村を出て行ってたかもしれないし。


「やっぱり、盗賊は害悪」


 遺体を見て、怒りを燃え上がらせるドール。

 彼女は素早く詠唱を終え、出来上がった魔法を早速盗賊目掛けてぶち当てた。


「ぐああああっ!?」

「何モンだお前ら!」

「関係ねえ、ぶっ殺せ!」


 ドールの魔法を皮切りに、本格的に戦闘が始まる。


「エストリアは村人達の安全を確保してくれ。盗賊は俺とドールで何とかする」

「任されたわ」

「死ねやあああああっ!」

「お前がな! 『スパーク』!」

「がっ……!?」


 エストリアにナイフを投擲する盗賊の一人。

 そのナイフを片手剣で全て叩き落とし、お返しの雷魔法で痺れさせた後に接近して斬り殺した。


 うん、分かってたけど弱いな。

 以前冒険者ギルドで俺に絡んできた三人より弱い。

 これならまず間違いなく、負けない。


 そう考えていたら、意外な人物が現れた。


「おい、こりゃなんの騒ぎだ?」

「お頭! 敵襲です、力を貸してくだせえ!」

「敵襲だと? チッ、めんどくせぇ……こっちはこれからお楽しみってところだったのによ」


 民家から出てきたのは、黒髪黒目の少年。

 彼の事を、俺は知っている。

 何故なら半年前まで同じ教室で授業を受けていた。


 彼の名は竹田たけだ浩二こうじ

 俺と同じく召喚された、上級魔法使いの勇者だ。

 亡命していたのは知っていたが、お頭とは?

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