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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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71話・魔導馬車

 

 旅行を兼ねて勇者の里を訪れると決めて三日経つ。


 本当はもっと早く出発したかったが、長旅になるので立場上黙って行く事はできず、各方面へその旨を伝えるのにそれなりの時間を要していた。


 あとは単純に移動手段等の準備。

 エストリアが用意してくれる手筈だが、長旅に丁度良い使い魔でも契約しているのだろうか。


 最近はずっと地下室に篭って作業をしている。


 日中表に出ている時間の方が遥かに少なかった。

 ……それでも夜になると必ず寝室に現れて、ドールと共に俺を虐めているので心配はしてない。


 それに関しては俺自身の方が心配だ。

 何せ毎晩休まず搾られている。

 しかもアブノーマルな方法で。


 お陰様で自分の趣味が歪んだ自覚はある。


 多分もう、他の女性とまともな行為はできない。

 仮にそういう雰囲気になっても、恥ずかしくて自分の趣味を打ち明ける事が出来そうになかった。


 彼女達の思惑の成果は既に出始めている。

 いやさ、俺も別に浮気とかするつもり無いけど……密かに夢見ていた沢山の女を侍らすハーレム計画は、胸の内で燻ったまま生涯を終えそうだ。

 本気で実現しようとは思ってなかったけどさ。


 閑話休題。


 それから更に数日が経ち––––予定の目処が立つ。

 エストリアも移動手段が確保できたと言っていた。

 日付の調整も出来たし、あとは行くだけ。


 その日、俺は当日を楽しみにしながら眠った。

 修学旅行前夜、楽しみで眠れないって、こういう気持ちなんだろうか。






 ––––翌日。


 確かな自信の色を見せるエストリアが、屋敷の前で俺とドールにある物を披露している。

 それこそが彼女の用意した、移動手段だった。


 ソレは一見すればただの馬車。


 ただし通常の馬車より一回りは大きい。

 全体的なカラーは落ち着いたワインレッド色で、高級感を漂わせる精巧な模様が各所に施されている。


 また、車輪が独特な形状をしていた。

 例えるなら……自動車のタイヤ。

 あの丸っこい形によく似ていた。


 そして最も注目するべきは、馬。

 白すぎるくらいの純白。

 およそ生物的な色をしていない。


 それも当然で、この馬は機械仕掛けだった。

 エストリア曰く、ゴーレムホース。

 魔力で動くゴーレムの馬版だとか。


「『魔導馬車』よ、凄いでしょう? フェイルート王家の宝物庫で埃を被っていた物を譲り受けて、私が改修したの。ちゃんと動くから安心して」


 饒舌に語るエストリア。

 彼女は魔導具を作るのが趣味のようだ。

 作った魔導具は使い魔に売りに行かせて、それを生活費として使っていたとか。


「ドール、あの城に宝物庫なんてあったのか?」

「物置きみたいな所」

「ええ、数はあったけど殆どガラクタ同然だったわ。でもコレは使えそうだったから貰ったの」


 聞けば国内で遥か昔に作られた魔導具が出土する事は結構あるそうで、使い道の分からない物や欠陥品はまとめて宝物庫に放り込まれていたらしい。


 エストリアは陛下との契約で、使い魔を貸し出す代わりに色々な物を貰っている。

 魔導馬車も、その内の一つなのだろう。


「で、これはどんな風に使うんだ?」

「魔力をエネルギーに、ゴーレムホースが自動で動くの。本物の馬と違って生物では無いから、多少のメンテナンスは必要でも何時間だって動けるわ」

「それは……凄いな」


 自動車と殆ど変わらないじゃないか。

 なんでこんな便利な物がガラクタ同然扱いに?

 彼女に聞くと、やはり欠点があったと分かる。


「消費魔力が多すぎて、長時間の移動には向いてないのが問題かしら」

「……ん? それって矛盾してないか?」

「ええ。長時間の移動が特徴なのに、消費魔力が多すぎてそれが出来ないわ」


 エストリアの説明に納得する。

 そりゃガラクタ扱いで同然だ。

 本末転倒すぎて逆に驚く。


「じゃあこれ、長旅に向いてないじゃん」

「普通はね、でも私達にはユウト君がいるわ」

「俺?」

「……成る程」


 ドールは何か分かったようだ。


「ユウトの規格外の魔力量なら、運用できる」

「––––ああ! そういう事か!」


 確かに俺の魔力量は人並み外れている。

 効率の悪い魔導馬車でも、沢山の魔力が用意できれば十全に力を発揮できるワケか。


「そうよ、だからユウト君にはちょっとだけ頑張ってもらう事になるけど……お願いしていいかしら?」

「勿論だ、任せてくれ」

「ふふ、ありがとう」


 微笑むエストリア。

 彼女も俺が本気で断るとは思ってなかったようだ。

 じゃなきゃ当日まで秘密にしておかないし。


「これはまた、立派なものでございますな」

「マーティーン、そろそろ行くよ」

「はい、荷物はこちらに」


 マーティーンとゴーレムが荷物を持って来る。

 彼は魔導馬車を見て軽く圧倒されていた。

 ま、単純に大きいもんな。


 それから三人で馬車内に乗り込む。

 ゴーレムホースは同じ人型ゴーレムが操ってくれるので、移動中は皆んなで休める。


「……なんか、広くね?」


 乗り込んで最初の一言がそれだった。

 大きいのは分かっていたが、外から見た広さと実際の広さが明らかに釣り合ってない。


 キャッチボールが余裕で出来そうだった。


「空間歪曲の術式を組み込んでみたわ」

「空間歪曲……?」

「文字通り、空間を歪ませてスペースを空けたり縮ませたりする魔法」


 俺の疑問にドールが答えてくれた。


「この馬車、王族専用のモノより遥かに高性能」

「もう何でもアリだな……」

「あら、快適な旅の方がいいじゃない」


 ふふっと笑うエストリア。

 恐るべきは魔女の技術か。

 タイダル陛下は良い相手と協力できた。


「驚くのも疲れたし、そろそろ行くか」

「行ってらっしゃいませ、旦那様」

「ああ、留守番頼んだ」


 荷物を積み終えたマーティーンが言った見送りの言葉を聞いた後、ゴーレムホースは軽快に走り出してあっという間に屋敷を後にした。




 ◆




 出発して三十分が経つ。

 トラブルは一つも起きてなかった。

 まだまだフェイルート国内だが、これから数日かけて国境を超え、ユナオンまで向かう。


 その途中、いくつかの村や町を経由する予定だ。

 衣類や日用品、飲料水は積み込んであるが、食料品は保存の関係上多くは積んでない。


 なので立ち寄った村や町で補給する予定だ。

 いやしかし、現代日本の保存技術って凄いんだな。

 流石に魔法にも限界はあるのか、何ヶ月も最低限の鮮度を維持する魔導具までは存在してなかった。


「ユウト君、苦しくはないかしら?」


 窓際で景色を眺めていたら、エストリアが隣にやって来て心配そうに言う。

 俺は右手首に嵌めた腕輪を見せながら答えた。


「ああ、今は何ともないよ」


 腕輪は黒一色のシンプルなデザインだった。

 これがゴーレムホースと俺を繋ぐパスのようなもので、付けている間は簡易契約状態になる。


 擬似的でも使い魔と主人の関係になるので、物理的に接触しなくても魔力を送れるようになる仕組みだ。

 常時魔力を抜かれる感覚は確かにあるが、神纏と比べれば大した問題でも無い。


「そう。違和感を覚えたら、直ぐに言ってね?」

「体調不良を黙ってる程、子供じゃないよ」

「ユウトの場合、怪しい」


 丁度反対側の窓際で本を読んでいたドールが言う。

 彼女の目には、俺がいつも無茶してるように見えているようなので(事実何かとボロボロになってる)苦笑いを浮かべて誤魔化すしかなかった。


「はは、まあそれもそうか」

「笑い事じゃないかしら。でも、ケルベロスと戦わせた私が言えた義理でも無いわね……」


 しゅんと落ち込むエストリア。

 あの時の事、まだ気にしてたのか。

 もう傷はすっかり治ったのに。


「あの時はまだ、お互いの事を何も知らなかったんだ。もう気にしなくていいよ」

「でも……」

「エストリアは優しいな。けど、本当に平気だからさ、折角の旅行なんだし、楽しもうぜ」


 こういう時は無理にでも空気を変えた方がいい。


「俺、ユナオンに着いたらどうしても食べたいものがあるんだ」

「食べたいもの?」

「ああ、久し振りに米を食べたくてさ」


 前に聞いたが、アルゴウスでは少数ながら米が流通しているようだし。

 ユナオンはアルゴウス王国に属しているなら、米がある可能性もゼロでは無いはず。


 もう半年以上、米を食べてない。

 生粋の日本人としては辛かった。

 あると分かっているから尚更に。


「それならラックの方が確実に食べられるわ」

「ダメだ、もう我慢できない」

「もう、子供みたいな事言って」


 我ながら、話題を変えるのが下手くそだと思う。

 それでもエストリアは笑ってくれる。


 二人がどう思っているかは分からないけど……俺達はもう家族みたいなものなのだから、余計な遠慮や気使いは無用だと、少なくとも俺は思っていた。


 勿論、親しき仲にも礼儀ありって事は忘れてない。

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