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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第2章:冥府の森の魔女
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65話・世界の危機の全容

 

 館に着いた俺達はまず、傷の手当てをする。

 と言っても酷いのはケルベロスくらいで、彼は直ぐに治癒用の魔法陣がある部屋に押し込められた。


 リクはまだ少し頭の中が混乱してるが、会話をするには問題無いと本人が言っていた。

 で、そんなリクは今、ルプスとじゃれ合っている。


 場所はいつもの中庭。

 花に囲まれながら、神獣の親子は再会した。

 良かったな、ホントに。


「ワオン!」

「心配をかけたな、我が息子よ」

「ワオン、ワオー!」

「むう、そう拗ねるな。アレだ、我にも事情があってだな……すまぬ、誰か息子に噛むのをやめてくれと伝えてくれないか?」


 ガジガジとリクの前足を噛むルプス。

 甘噛みだったので、愛情表現の一つだろう。

 噛まれてる本人は困っていたけど。


 それから自己紹介を終えて、話し合いが始まる。

 まず、リクについて。

 どうして洗脳されていたかだ。


「リク、その前に一つ聞きたいわ。貴方は今までルプスを私に預けて何をしていたの?」


 エストリアが言う。

 そう、俺もそれが気になっていた。

 リクとルプスは側から見ても仲の良い家族。


 それにこれはまだ何となくの雰囲気でしか分からないが……リクはルプスを置いていくような親には、とても思えない、何か事情があるはずだ。


「うむ、まずはそこから話そう」


 リクが大きな口を動かす。

 過去を思い出すように、目を瞑りながら。

 その姿はどこか神秘的だった。


「我は、ある物を探していた」

「ある物?」

「左様。ソレは危険な場所に隠されているのでな、ルプスを連れて行くのには抵抗があった。故に魔女、古くから付き合いのあるお主に頼んだ」


 エストリアが「付き合いがあったのは私の母だけどね」と付け加える。

 彼女の母親はそれだけ信頼されていたのだろう。


「それで、その探し物とは何なのですか?」

「人間……では無いな、ユウトよ。お主は我の恩人、そのような言葉は不要だ」


 中々フランクな神獣だ。

 まあ、俺もその方が楽だけどさ。

 断る理由も無いので、すぐに敬語を崩した。


「そうか? なら遠慮無く」

「うむ。ああ、探し物の話だったな……我が探していたのは、かつて勇者が使っていたとされる聖剣––––ユニヴァスラシスだ」


 瞬間、ドールとエストリアはビクッと反応する。

 好奇心が刺激されたようだ。

 リクの瞳をジッと見て、続きを待っている。


 一方で俺は別の意味で驚いていた。

 ゆ、ユニヴァ……何だって?

 やたらと難しい名前の剣だな。


 でも、俺の先輩が使っていた剣か……興味はある。


「リク、ユニヴァスラシスは創作上の剣の筈よ」

「私もそう聞いている」


 好奇心を抱きながらも、知性的な二人はすぐにそれがあり得ない事実だと反論した。

 それを受けたリクは、当然だとばかりに頷く。


「ユニヴァスラシスは万物を斬り裂く、最強の武器だ。故に先代の勇者は悪用を恐れ、当時の世界の危機を解決した後、この世界の何処かに封印した」


 やたらと確信があるようにリクは言う。

 いや、もしかしたら。

 彼は……『当時の出来事』を知っている?


「リク、もしかしてお前は」

「ユウトの想像通りだ、我は先代の勇者と面識がある。最も当時の私はルプスくらいの年齢だったが」


 やはり、そうだったか。

 最愛の息子を置いてまで、夢物語のお宝を探しに行くような親では無いと思っていたが……成る程、確信があったなら納得できる。


 でも、当時って何年前だ?


「リク、俺の先輩は今から何年前に活躍していたんだ?」

「千年は経っているな」

「へえ、千年……せんねん!?」


 ガタッと椅子から転げ落ちそうになる。

 数字の大きさに思わず二度も呟いてしまった。

 いやいや、千年って……一つの文明の始まりと終わりがあってもおかしくないぞ。


「スケールが……大きすぎる……」


 ドールも呆然としていた。


「続けるぞ? 我はユニヴァスラシスを探して世界のあちこちを渡り歩いていた。そして、封印があると思しき地まで辿り着いたが……そこで奴と出会った」

「もしかして、ホワイトグリードの連中か?」

「左様」


 肯定するリク。

 話が読めてきた。

 彼はユニヴァスラシスが封印されている場所を探して世界中を旅していたが、その最中にホワイトグリードと遭遇、捕まって洗脳された……と。


「でも、貴方がそう簡単に捕まるとは思えないわ」

「不意打ちだったからな。しかし、それを抜きにしても奴は強者だった」

「どんな人物だったの?」


 ドールがリクを洗脳した者について聞く。


「額にバツ印の傷跡があったな、それに片方が鉄腕の男だった。奇妙な術を使い、気づいた時にはあの首輪を付けられていた」

「バツ印の傷跡、鉄腕……」


 特徴を聞いたエストリアが思案している。

 顎に指先を置きながら、何事か呟いていた。

 思い当たる人物でも知っているのかも。


 彼女の思考を邪魔したくないので、俺はまた別の疑問をリクにぶつけた。


「なあ、そもそもなんでリクはユニヴァスラシスって剣を求めたんだ?」

「必要だと思ったからだ」

「どうしてさ」

「遠くない未来、世界の危機が本格始動する。少なくとも我は、その予兆を感じた」


 世界の危機。

 リクは確かにそう言った。

 それは、俺がこの世界に呼ばれた理由でもある。


 この世界に召喚された時からずっと言い聞かされてきた言葉だが……今の今まで、それが具体的に何なのかまでは誰も教えてくれなかったし、知らなかった。


 でも、リクなら。

 先代勇者の時代を生きた彼なら、その謎を解き明かしてくれるかもしれない。


 俺は期待を込めながら、言った。


「リク……世界の危機って、何なんだ?」

「ユウトは勇者なのだろう? 知らないのか?」

「ああ。どうやら俺達を召喚した奴は、単純に勇者の力だけが欲しかったみたいだからな」

「なんと愚かな……嘆かわしい」


 リクは心底呆れた風に言う。


 そして、俺が最も知りたかった事を、答えた。

 ドクン––––と、神纏を使ったワケでも無いのに、やけに冷や汗が流れて心臓が高鳴る。


「ならば、教えよう」

「頼む」


 長き時を生きた神獣が、口を開く。

 一言一句聞き逃さないよう、全神経を集中させて彼の言葉に耳を傾けた。


「うむ。世界の危機とは––––魔獣の暴走による、文明の崩壊。そして魔獣達の暴走を促す【終焉の赤龍】こそ、世界の危機の象徴と言える」


 ……終焉の、赤龍。

 それが、俺の倒すべき存在。

 この世界にやって来た、理由。


「赤龍は固有の魔力を発し、全ての魔獣を支配下に置き意のままに操る。操られた魔獣は知性も戦闘能力も向上し、人間の築いた文明を破壊するのだ」


 リクの説明はやけに分かりやすかった。

 と言うより、俺は既に知っている。

 くだんの魔獣の大軍勢。


 あの中には、明らかに知性と戦闘能力が強化された個体が混じっていた。

 更に遡るなら、ドールと受けた依頼の途中。


 突如現れたジュエルクローラー。

 奴は通常のジュエルクローラーよりも遥かに強かったが、それら全てが終焉の赤龍とやらの仕業……?


「どうやらユウトも童女も、心当たりがあるようだ」

「まあ、な」

「うん……」


 俺もドールも、ゆっくり頷いた。

 信じるしかない。

 思い当たる節がありすぎた。


 でも、と俺は思う。

 ようやく明らかになった世界の危機の全容。

 想像以上に、物理的な終わりだった。


 イメージはしやすい。

 フェイルート王国を襲った、魔獣の大軍勢。

 あれの何倍も大きな規模が生まれて、人間の作り上げた文明を破壊し尽くす……


 その光景は正しく絶望だ。

 頼みの綱の帝級勇者は、既に故人。

 この俺自らの手で闇に葬り去った。


 つまりは、残った者達で赤龍を倒すしかない。

 出来るのか……? 勇者は全員バラバラで、一致団結など夢のまた夢。


 俺達は既に、とんでもない過ちを犯したのかも。


 だが逆に考えれば、赤龍さえ倒せば全て解決する。

 目標はとても分かりやすい。

 脅威が分かっているのなら、準備もできる。


 絶望なんて、するものか。

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