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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第2章:冥府の森の魔女
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57話・ホワイトグリード

 

 ワイバーンに乗っての移動中、エストリアは森の使い魔を総動員して事態の確認を急いだ。

 主人と使い魔は、ある程度五感を共有できる。


 その力を使い、情報を集めていた。


「どうやらケルベロスは戦闘中のようね……さっきから念話を送っているのに反応が無い事を考えると、かなり手強い相手のようだわ」

「ケルベロスでも手こずる相手か……」


 エストリアの話を聞く前までは、アイツの強さなら本当に心配ないと考えていたが今は事情が違う。

 俺との戦いの後遺症で、全力が出せないのだ。


「侵入者は大勢居るみたい。でも全員白服でおかしな連中ね……一人だけ、胸の辺りに7の数字が刻まれたコートを羽織っているわ」

「大勢、白服、数字」


 ポツポツと、ドールが呟く。

 そして何かに気づいたのか、ハッと顔を上げた。

 彼女は早口気味に言う。


「侵入者の正体は恐らく『ホワイトグリード』」

「誰だ、そいつ?」

「個人名じゃなくて、組織名」


 ホワイトグリード。

 聞いた事の無い名だった。

 エストリアも知らないようで、説明を待つ。


「暗殺、強盗、脅迫。金さえ積めば何でもやる違法な闇ギルドの一つ」

「あからさまに悪そうな奴らだな」

「実際、悪党の巣窟」


 ホワイトグリードの被害を受けた国は多く、国境を超えて所属メンバーが指名手配をされる程らしい。

 よくもまあ、そこまで好き勝手にやれるものだ。


「ホワイトグリードは裏の世界で突然結成された闇ギルド。にも関わらず急速に力を持っているのは、ランキングで構成員の成果を格付けして、闘争心を煽っている」


 ドールの情報を纏めるとこうだ。

 ホワイトグリードには冒険者ギルドのランク制度のように、所属メンバーを実力で線引きしている。


 それが『ランキング制度』。


 冒険者ギルドは色で区別しているが、彼らは数字。

 1位〜10位まではトップランカーと呼ばれ、その実力は一騎当千とまで言われる。


 で、エストリアが確認した胸に7と刻まれている男はトップランカーの一人だと思われる。

 7位か……実際どの程度の強さなのだろうか。


「その7位がケルベロスと戦っているのか?」

「いいえ、その男は手を出してないわ」

「……じゃあ誰が? 他にランカーがいるのか?」


 エストリアに聞くと、難しそうに表情を歪める。


「ケルベロスと戦っているのは二人の少年よ、服装からしてホワイトグリードでは無いみたい」

「ややこしいな……」

「そうね、でも特徴をあげるとするなら」


 彼女はチラリと、俺の顔を見ながら言う。


「ユウト君に、似ているわ」

「俺に?」

「ええ、顔のパーツというワケでは無くて、人種的に似ていると言った方が正しいかしら」


 人種……つまりは同じ国の人間って事か?

 俺は日本人で、当然日本は別世界の国だ。

 現在エデンに居る日本人は俺を除けば、同じように召喚されたクラスメイト達だけ。


 つまり、ケルベロスの敵は俺のクラスメイト?

 亡命した誰かがホワイトグリードと手を組んで、何らかの理由で冥府の森に襲撃をかけた。


 辻褄は合っている。

 それにもし、その二人が特級勇者だったなら、ケルベロスでも倒すのは難しい。


 根拠としてはかなり良い線をいっていると思う。


「急ごう……嫌な予感がする」

「大丈夫、もうすぐ着くわ」


 エストリアの言う通り、冥府の森が見えた。

 今更だけど、結界なんて張ってあったんだな。

 地上の出入りには無いようだけど。


「このまま空から直接現場へ向かうわ。多分戦闘になると思うけど……」

「大丈夫、準備も覚悟も出来てる」

「同じく」


 そう、俺は誓ったのだ。

 俺にとって大切な人を傷付け、繋がりを断とうとする相手は……例えクラスメイトでも、容赦しない。


「三……二……一! 降りるわ!」


 エストリアのカウント。

 瞬間、ぐいんとワイバーンの軌道が変わった。

 ほぼ垂直で落ちるように冥府の森へ。


 地面と激突する直前、エストリアとドールが魔法を唱えてフワリとワイバーンが急停止した。

 俺は一番に飛び降りて叫ぶ。


「ケルベロス! 無事か!?」

「あア……? お前、ユウトか……?」


 丁度、ケルベロスと勇者の間に着陸した形だった。

 落ち着きながら周囲の状況を確認する。

 目立つ敵は前情報通り、三人。


 ホワイトグリードのランカーと、勇者二人。

 奴らは三人とも驚愕に顔を変化させていた。

 とくに、俺を見ながら。


「お前、矢野か?」

「久し振りだな、浜崎」

「……何の用だ……テメエ……ごほっ……!」

「そっちは新谷か? 随分ボロボロだけど」


 やはり、二人とも特級勇者だった。

 浜崎直也と新谷海斗。

 彼らは所謂不良生徒で、俺とはあまり接点が無い。


 で、新谷の方は既に満身創痍だった。

 全身傷だらけで右腕が変な方向に曲がっている。

 片膝をついて、苦しそうに胸を押さえていた。


 浜崎も多少はダメージを負っている。

 対して7位のランカーはほぼ無傷のようだ。

 そして肝心のケルベロスだが……


「は……今日は賑やかだなあ、オイ……」


 新谷と同じくらいボロボロだった。

 が、彼の方はもう立つことすら出来ないのか、地面に倒れ伏して新谷達を睨みつけている。


「待ってろ、直ぐに治してやる」

「ンなもんあとでいい! まだ敵が目の前にいるんだぞ! 油断すんな!」

「……確かに、そうだな」


 ケルベロスの言う通りだ。

 ここは既に戦場。

 一瞬の油断が命取りになる。


「貴方達、私の庭で随分と暴れてくれたようね」


 そんな中、冷徹な空気を纏った魔女が現れた。


「へぇ、アンタが魔女さんか?」

「ええ。そういう貴方は、ホワイトグリード?」

「魔女にまで名前が知られるとは、ウチの組織も大きくなりすぎたねえ」


 それまで沈黙を貫いていた7位のランカー、ゴーグルを付けた男はエストリアの登場で口を開く。

 彼は自らが闇ギルドの一員であると肯定した。


「それで、一体何の目的かしら?」

「それを教えちゃあつまらないでしょ」

「––––うるせぇ」


 ゆらりと、新谷が立ち上がった。

 凄まじい魔力の渦が、彼を中心に形成される。

 これは……暴走?


「どいつもこいつも、ごちゃごちゃうるせえんだよっ! 全部燃えちまえ!」

「っ、落ち着け海斗!」

「うっせえ! あらゆるモノを燃やし尽くして灰と化せ『インフェルノ』!」


 新谷がデタラメに魔法を唱えた。

 恐らく火属性の特級魔法。

 この距離で直撃したら確実に死ぬ。


「ドール! エストリア!」

「分かってる! サモン!」

「堅牢なる水の壁よ––––!」


 ドールとエストリア、ワイバーンは俺の声とほぼ同時にこちらへやって来て同時に魔法を唱えた。

 俺もケルベロスを庇うように立つ。


「来なさい! ガーディアンゴーレム!」

「我らを守り抜け『アクアディフェンド』!」

「水と石よ盾になれ『ウォーター』『ペブル』!」


 三者三様の守り。

 新谷の魔法より一瞬早く展開出来た。

 直後、奴の体が赤く光り––––爆発音と共に炎が吹き荒れ、視界が真っ赤に染まる。


 空気が一種にして熱くなった。

 皮膚がチリチリと焼ける感覚。

 魔力操作法で肉体強度を上げ何とか耐える。


「ぐうううう……!」


 これ以上は危険かもしれない。

 そう思ったところで、獄炎は止まった。

 焼き焦げた匂いが充満している。


 辺りの草木は一つ残らず黒炭と化していた。

 ガシャンと、エストリアが召喚した大盾を持ったゴーレムが膝をつき、崩れ落ちて壊れる。


 そのゴーレムは岩で出来ていた。

 にも関わらず、殆どが燃え尽きている。

 果たしてどれだけの火力だったのか……


「皆んな、大丈夫か……?」

「ええ、何とか」

「私も無事」

「クソが、あの野郎……」

「グオオオ……」


 ワイバーンを含め、全員軽い火傷は負ったようだが深い傷にはなってなかった。

 まずはその事実に安心する。


「ユウト、アレ何?」

「ん?」


 ドールが指を指す。

 そこには……巨大なカエルが佇んでいた。

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