表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第2章:冥府の森の魔女
56/118

56話・侵入者(別視点あり)


 ユウト主催のパーティーが終わり、一夜明けた頃。

 留守番を任されたケルベロスは、日課の見回りをしながら主人の事を考えていた。


「ったく、あの女……ゴーレムを一度に召喚して、何をするつもりだ? おかげでオレが植物の世話までしなくちゃならねえじゃねえか、くそ」


 と、言いながらもしっかり花壇に水を注いでいた。

 ケルベロスは反抗的だが、最低限の義理はある。

 それにと、彼は見送った際の主人の顔を思い出す。


(んだよ、笑えるならもっと笑えや)


 契約してから、一度も見た事のなかった笑顔。

 あんな顔を見せられたら、もう何も言えない。

 一流の使い魔なら皆そうする……と、人間には分からない使い魔事情を持ち合わせていた。


 その時。


「ああん……? なんだ……?」


 音が、聴こえた。

 発生源は……上空。

 音が大きくなると同時に、森の空気も騒ついた。


 ナニカが、来る。

 ケルベロスは本能的に察した。

 直後––––巨大な雷が、冥府の森に轟いた。


 バチイイイイイイッ!


「あ……!? なンだあっ!」


 森の魔獣達が恐れ慄く。

 あの雷と共に、何かやって来た。

 自らより強い生物が。


「はっ、面白えじゃねえか……!」


 ケルベロスは現場へ急行する。

 幻獣の姿で無くとも、身体能力は人を超えていた。

 獣道を突っ走り、最短最速で駆け抜ける。


 空からの侵入者。

 勿論対応策はあった。

 エストリアは不可視の結界を張っていたが、先の雷はその守りを容易く貫いている。


「……っ!」


 走って、走って––––辿り着く。

 ケルベロスはその光景を見て、驚いた。

 想定より、侵入者の数が多い。


「お、アレがターゲットか?」

「どう見ても人間だぞ」

「阿保、幻獣は人に化けれるんだ」


 お揃いの白服を着た集団だった。

 数は目視で三十は超えている。

 全員が武装し、既に陣形を組んでいた。


「お前ら、ナニモンだ」


 冥府の森の番人ならぬ番犬として、ケルベロスは魔力を発しながら不躾な侵入者達へ問う。

 これがもし幻獣の姿だったなら、問答無用で襲いかかっていただろう。


 幻獣の姿では感情の振れ幅が大きくなる。

 結果的に知能が下がるデメリットがあった。

 人間の姿なら、多少は理性が勝る。


「別に、ただの狩りだよ」

「狩りだと?」


 白服集団の中から一人、前に出る。

 額にゴーグルを装着した男。

 無精髭を生やした如何にもな中年男性の風貌だが、白いコートの下は分厚い筋肉で覆われていた。


 加えてコートの胸辺りには『7』と刻まれている。

 白服、集団、数字。

 ケルベロスはこれらの要素から、彼らの正体をぼんやりとだが掴んでいた。


「ま、獲物は今……目の前にいるんだけどね!」


 ゴーグル男はそう言いながら、指を鳴らす。

 同時に背後から何本もの鎖が現れた。

 鎖はケルベロスを搦め捕ろうと迫る。


 加えてゴーグル男の背後に控えていた集団が、援護とばかりに魔法を複数同時発動した。

 鎖と魔法を合わせた、全方位攻撃。


 普通ならまず、回避も防御も間に合わない。

 ……だが、ケルベロスは『幻獣種』。

 普通とは最もかけ離れた存在だった。


「ウオオオオオオオオッ!」


 魔力を乗せた咆哮。

 ただそれだけで、鎖も魔法も吹き飛ばした。

 驚愕に顔を歪める白服集団。


「嘘だろ……?」

「おいおい、冗談じゃねえぞ」

「前情報以上だな、これは」


 自然と後退する白服集団。

 しかし、逃亡を許すような番犬では無い。

 ケルベロスは矢のように飛び出し、一瞬で白服集団の間を通り抜ける……瞬間、両手を素早く動かし、二人の白服の首を切断した。


 真っ白な衣服が、新鮮な血で染まる。

 ケルベロスは口元を三日月に歪めながら、鷲掴みにしていた二つの『頭』をゴロンと地面に投げた。


「んで? 誰がエモノだって?」


 ポタポタと、両手から血の雫が溢れる。

 彼は紛う事なき、生まれながらの殺戮者。

 戦いと勝利を求める、飢えた獣。


「チッ……あー、君達はもう下がっていいよ? 捕獲の時にだけ手を貸してくれたら、オーケー」

「了解」


 ゴーグルの男が仲間を下がらせる。

 白服集団は軍隊のような統率された動きで、守りを固めながら森の奥へと消えていく。


「ま、流石は『スリーファンタジー』の一角。そう簡単には捕まってくれないか」

「黙れ」


 ゴーグルの男が集団のリーダー。

 ならば奴だけを生け捕りにし、残りは全員殺す。

 殺意に身を任せながらも、ケルベロスはゴーグルの男の四肢を切断しようと前へ出る。


 が、しかし。

 突如彼の前に炎の壁が出現した。

 ゴーグル男が詠唱した様子は無い。


 急停止し、周囲を伺う。

 瞬間、今度は氷の刃が降り注ぐ。

 一つ一つが即死級の鋭利な氷刃。


 ケルベロスは回転しながらギリギリで避けた。


「やっぱり、俺達の力が必要みたいだな」

「イキってんじゃねえぞ、オッサン」

「あーはいはい、悪かったですよ。あと俺はまだ二十代後半だ、覚えとけよクソガキコンビ」


 耳障りな声が、二つ重なる。

 嗅覚を総動員して場所を特定。

 炎の壁の先に、乱入者は佇んでいた。


「は? その顔で二十代? 詐欺だろ」

「海斗、そろそろ真面目にやるぞ」


 リフレイ王国に属する、二人の特級勇者。

 新谷海斗と浜崎直也。

 二人の勇者が、ケルベロスの前に立ち塞がった。


(コイツら、あの時のユウトには劣るが……強えのは確かだ。ハッ、上等じゃねえか……!)


 ケルベロスは、高らかに笑った。




 ◆




「まさか……」

「どうした、エストリア?」


 パーティーを開催した翌日の朝。

 俺達は屋敷の食堂で朝食を食べていた。

 作ったのはおなじみの調理師ゴーレム。


 その最中、エストリアの様子がおかしくなる。

 額に手を当て、瞳を閉じていた。

 まるで何かと会話するかのように。


「……冥府の森に、侵入者が現れたみたい」

「侵入者だって?」

「ええ。しかも上空の結界を壊しながら、派手にやって来たようね」


 彼女はガタリと立ち上がる。

 行き先は聞かなくても分かった。

 ドールと顔を合わせ、互いに頷く。


「俺達も行く」

「ダメよ、これは私の問題だから––––」

「そんなの今更」


 エストリアの反論を、ドールが封じた。

 そう、俺達はもう一ヶ月近く共に暮らしている。

 たかが一ヶ月かもしれない。


 けど、繋がりに長さは関係無かった。


「俺はエストリアの手助けをしたい、断っても強引について行かせてもらうぞ」

「私も」


 譲らないという強い意志を込めながら言う。

 エストリアは目を大きく見開き、続けて呆れた風にため息を吐いてから言った。


「もう、貴方達は……でも、ありがとう」

「おう。サクッと準備して行こうぜ、ルプスが心配だし。あと一応、ケルベロスも」

「そうね、ルプスはともかくケルベロスなら大丈夫だと思うけど……」


 ケルベロスは最強の幻獣種だ。

 負傷しているとは言え、早々負けない筈。

 侵入者が何の目的かはまだ分からないけど、彼が戦闘で遅れをとる事は滅多に無いだろう。


「でも、今のあの子は幻獣化出来ないのよね……」

「え、どうして?」

「ユウト君の魔力の影響よ。最後に放ったアレが、毒のようにあの子の体を未だ蝕んでいるの」

「……マジですか」


 最後に放った神滅拳。

 確かに拳に乗せた魔力を叩きつけた記憶はあるが、そんな副次的効果まであったのか。


「特効薬は無いから、自然回復を待つしかないのが現状なのだけれど」

「なんか悪い事をしたな……」

「気にしないで、お互い様よ」


 まあ、主人がそう言うなら。

 俺も手酷い傷を負ったワケだし。

 でも一応、今度謝っておくか。


 ––––で、数十分後には準備は終わった。


 俺は片手剣を、ドールは杖を携えている。

 エストリアはいつもの格好だ。

 屋敷の外に出て、彼女は魔法を唱える。


「サモン」


 現れたのは、青い鱗のワイバーン。

 この前のワイバーンとは違う個体のようだ。


「この子は持久力は無いけど、速度なら一番よ。一時間もあれば森に着くわ」

「凄いな」

「さ、行きましょう」


 三人で青いワイバーンの背に乗る。

 出発する直前……やけに胸騒ぎがしていた。


送雷そうらい


対象を瞬時に目的の場所へ送り届ける移動魔法。

便利だが特級魔法使い四人でようやく行使できる。

移動ではなく、一度限りの奇襲に向いている魔法。


つまり作中でやって来た彼らの帰りは徒歩確定。


(2020年8月18日追記)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ