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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第2章:冥府の森の魔女
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54話・木村の帰還

 

「ゆ、ユウトさんが勇者って、どどどどどういう事ですかああああっ!?」


 乾杯の後、ベリーが大騒ぎしながらやって来た。

 ぐるぐると目を回している。

 驚くのも無理ないが、少し落ち着いてほしい。


「悪い、今まで隠してて」

「いえそんな、ユウトさんが謝るような事ではありませんけど、純粋にビックリしちゃって……」


 彼女はグラスに注がれた飲み物を飲み干す。

 それで落ち着いたのか、ふぅと息を吐く。

 うん、もう大丈夫そうだ。


「慌てちゃって、すみません。例え勇者でも、ユウトさんはユウトさんですよね」

「そう言ってくれると、助かるよ」

「でも、ユウトさんが勇者で安心しました」


 安心?

 どうしてそんな言葉が出てくるのだろう。

 気になったので聞いてみた。

 するとベリーは苦笑いを浮かべながらも、勇者に対して抱いていた素直な気持ちを話し始める。


「凄い人ってのは分かってましたけど、私はそれが逆に怖かったんですよね。魔獣の大群を一人で倒しちゃうところとか……」


 ああ、そういう事か。

 彼女の言葉に納得した。

 強すぎる力は頼もしいが、同時に恐怖も与える。


 一万の魔獣を瞬殺するなんて、同じ人間とは思えないよな、普通。

 崇拝と恐怖は表裏一体だ。


「優しい勇者になれるよう、努力するよ」

「ユウトさんはもう既に、優しい人ですよ?」

「そうか? だったら嬉しいけど」

「はい!」


 俺の名前、優斗の優の字は『優しくあれ』という意味を込めて名付けたと両親が言っていた。

 名は体を表す……とも言うが、日本では一人の時の方が多かったし、人に優しく出来ていたかは怪しかったので、ベリーからそう言われると素直に嬉しい。


「そうだ、ドールとエストリアを知らないか?」

「お二人ですか? 私も見てないですねえ」

「そっか。二人を探して来るから、また後でな」

「もし見かけたら、ユウトさんに伝えますね」

「ありがとう、ベリー」


 彼女に感謝を伝えてから、姿を見かけないドールとエストリアを探す為周辺を見回る。

 会場内は立食式で、マーティーンがあの手この手を使って用意したテーブルの上には俺のよく知る調理師ゴーレムを筆頭にゴーレム達が作った料理が並ぶ。


 マーティーン曰く、ゴーレム達の腕は王族専属の料理人にも劣らないとか。

 それだけインプットされている技術が凄まじいと、ドールも驚きながら言っていたっけ。


 どうやらゴーレム達には学習機能があり、エストリアよりも前の魔女の代から受け継がれているので、その分単なる人形でも熟練した技術に至っている。


 魔女の魔法はやはり凄い。

 以前エストリアにそう言ったが、彼女は「凄いのは初代の魔女一人よ。代々改良を重ねて洗練はされているけど、所詮彼女の魔法を受け継いでるに過ぎないわ」と言い、謙遜していた。


 失伝無く技術を受け継ぐ事の難しさを、数々の伝統技能が失われつつある日本出身の俺にはよく分かるのだが……彼女も自分の魔法にはちゃんと誇りを持っているようなので、深くは追求しなかった。


 閑話休題。


 そこまで大きい広間ではないので、直ぐに見つかると思ったが……もしかしてここには居ないのか?

 屋敷の外もある程度は解放している。


 一応確認しよう––––と思っていたら、低いがよく響く声音に引き止められる。

 振り向くと、二人の人物が待っていた。


「おお、ユウト!」

「ロマノフ団長……と」

「よ、よお……」

「––––もしかして、木村?」

「あ、ああ。久し振りだな、矢野……」


 とても懐かしい奴が現れた。

 いつだったか、鮫島に絡まれて理不尽にも魔法で焼き焦がされた木村が、元気そうに立っている。


 いや、体はもう大丈夫そうだが、日本に居た時と比べ雰囲気は陰鬱になっていた。

 元々口数は少ない方だったと記憶しているが、今は拍車をかけるように暗い。


「タイショウ! 折角ユウトと会えたのに、なんだその雰囲気は! 会いたいと言っていただろう!」

「べ、別に普通ですよ……」


 タイショウとは木村の下の名前だ。

 漢字で書くと、大将たいしょうだっけ。

 それよりも、彼が俺に会いたがっていた?


「木村、何か用でもあるのか?」

「用ってワケじゃない……ただ一言、謝りたかったんだ、ずっと」

「え?」


 彼は勢いよく頭を下げながら言った。


「すまん! お前が追放される時、俺は自分の力に酔ってて何もしなかった……本当に悪いと思っている、だからこの通り……!」


 何だ、そんな事か。


 別に俺はなんとも思ってない。

 せいぜい「見送りに来てくれないのかなー」って思った程度なので、許す許さない以前の問題だ。


「俺は気にしてないから、頭を上げてくれ」

「……いいのか?」

「恨んでいるなら、今頃お前は再起不能になっているよ、はは」

「微妙に笑えないな、それ……」


 頭を上げる木村。

 さっきまでと比べ表情が幾分柔らかくなっていた。

 その後、話題は王城に居た頃の級友達になる。


 俺が追放された後、光山や特級勇者を筆頭にクラスメイト達は自らの強大な力を自覚し、段々と傲慢に振る舞う者が増え始めていたと。


「そんな事になっていたのか……」

「ああ。俺が鮫島に目を付けられたのもその頃で、アイツに奴隷みたいに使われていたから、良くも悪くも正気に戻れた。変わってなかったのは、才上くらいだった」

「才上か」


 いつも黒髪をオールバックにしていた男子だ。

 頭が良く、常に上位の成績をキープしていたっけ。

 彼について知っているのは、そのくらい。


「その才上も、今はどうなっているか分からないけどな……この国から出て行ったんだろ?」

「光山が扇動して、ほぼ全員な。残っているのは俺とお前、あと地下牢に幽閉されてる成島と羽島だ」

「そうか……」


 木村は複雑そうな顔をする。

 かつては同じ教室で学んでいたクラスメイト。

 親しくは無くとも、別段敵対はしていなかった。


 なのに今では多くのクラスメイト達が変貌し、倫理感を踏みにじるかのように振る舞っている。

 その果てに、俺と光山は殺し合った。


 悪い夢か、冗談だと思いたい。


「でも……ありがとな」

「ん?」

「あの時、俺を助けてくれてさ」


 彼が言っているのは鮫島に燃やされた件だ。

 最も、あの時の俺の力では木村を癒せず、偶々居合わせドールの魔法で木村は助かったんだけどな。


「俺は助けを呼んだだけだよ、実際にお前を治したのはドール……俺の仲間だし」

「それでも、だよ。矢野は俺にもまだ、味方になってくれる人が居るって教えてくれたんだ。本当は直ぐにお礼が言いたかったけど、傷が治らなくてな……」

「まさか、今日はそれを言う為に?」

「ああ、そうだよ」


 ……味方になってくれる人が居る、か。

 それだけで救われる事実を、俺は知っている。

 何せ俺も木村と同じ状況だった。


 俺にとってのイルザ様や店長の立場が、木村にとっては俺自身というワケか……なんか、むず痒い。

 そんな偉い事をした自覚は無いし。


「俺だって、あの時お前を満足に治癒する事も出来なかったから、魔法の鍛錬を頑張ろうって思えたよ。だからお互い様だ」

「そうか、あの時俺が燃やされたのも、きっと意味があったんだな……」

「いやそれはどうかと思うぞ」


 遠い目をする木村。

 燃やされないに越した事は無いだろう。

 悲惨な過去に対して、無理に意味を求める必要も無いとそれとなく伝えておいた。


「はは、これぞ友情! 青春してるなお前ら!」


 と、ロマノフ団長が笑いながら言う。

 片手には酒瓶が握られていた。

 もう酔ってるなこの人……


「ロマノフさん、明日も仕事があるんですから、程々にしてくださいよ……」

「むはは、分かっている分かっている!」


 浮かない顔で言う木村。

 まるでロマノフ団長と仕事をしてるみたいだ。


「木村はロマノフ団長と何かしているのか?」

「ん? ああ、少し手伝いをな」

「タイショウは私の団員と共に、魔法で外壁や城の修復作業を手伝ってもらっている」

「へえ、そんな事してたのか」

「俺にも出来ることがあれば……って思ってな」


 なんて風に話していたら、音楽が流れ始めた。

 あれ? 予定に無い演奏だぞ?

 不思議に思っていると、広間と二階を繋ぐ階段から二人の人物がゆっくりと現れる。


 二人とも見覚えのある人物。

 と言うか、ドールとエストリアだった。

 探していたけど、あんな所に居たのか。

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