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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第2章:冥府の森の魔女
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53話・お披露目パーティー

 

 五日後。

 マーティーンとゴーレム達の尽力で、どうにかこうにかパーティーの準備は整っていた。


 ……が、何故か当初予定していた規模よりも、遥かに大きいパーティーへと変貌していた。

 キッカケはロマノフ団長への招待状。


 騎士団の仕事は多忙だろうし、急な招待だ。

 ダメ元で時間が合えばと送ったが、二つ返事で「部下を連れて絶対に行く!」とだけ。


 この時点で騎士団員達もやって来る事に。

 いや、彼らはあの日の夜一緒に戦った戦友達なので、顔見知り程度なら何人かいるから構わない。


 問題なのはここから。

 何処から嗅ぎつけたのか分からないが、なんとイルザ様がパーティーに参加すると言い出した。


 一国の王妃が、郊外の屋敷の催しに参加する。


 政治的な意味でも完全アウトだった。

 だが俺は勇者だから大丈夫の一点張りで、費用の一部を負担するからと強引に参加を約束される。


 だがお忍びとは言え王妃だ、護衛は欠かせないからイルザ様の近衛騎士達もやって来る事に。

 ––––ここまでなら、百歩譲ろう。


 だけど、タイダル陛下。

 貴方は流石にダメだろう……?


「イルザ様が行くなら僕も、勿論費用の一部も負担しますよ」と言われても……


 とは言え断るワケもいかず、受け入れる事に。

 エストリアは「ユウト君は人望があるのね」なんて言っていたが、なんか違う気がする。


 で、王族の方が来るなら生半可な用意では許されないとマーティーンがやたら張り切り、予定していた料理や酒を全て一新して入れ替えた。


 沢山の料理と酒。

 余興として用意したクジ引きの景品。

 招待客の馬車代。


 ダンスを踊るのにバックミュージックが必要と言われ急遽雇った音楽団。

 あと、ドールとエストリアのドレス。


 ありえない額の金が五日間で動いた。


 まあ費用の一部はイルザ様とタイダル陛下のポケットマネーだし、そもそも俺の貯金は今や桁違いの額に到達している。


 国を救った英雄、ということで莫大な報酬金をタイダル陛下から貰っていたが、使い道が分からなかったので今まで手を付けてなかった。


「はあぁ……」


 自室のベッドに寝転がる。

 屋敷の中で一番上等な部屋だった。

 今はここが、俺の安息地。


「どーしてこうなったかな……」


 この五日間、果てしなく忙しかった。

 ゴーレム達もフル稼働。

 マーティーンは寿命が縮みそうな勢いだった。


 これだけやったのだから、当日(今日の夜だけど)は俺も目一杯楽しんでやる。

 なんて思いながら最後の休息で体を休めた。


 この後、音楽団の演奏家と軽い打ち合わせがある。

 急な仕事にも対応できるのが売りの一つと言っていたが、まさに需要と供給が一致していた。


「せめて、今だけは……」


 まぶたを閉じ、暗闇に身を任せる。

 時間になればゴーレムが起こしに来る手筈だ。

 だから安心して、眠れる––––




 ◆




 祝勝会兼エストリアの王都訪問兼屋敷お披露目パーティーの開催まで、あと数十分。

 招待客は続々と集まっていた。


 パーティーは屋敷の室内で行われる。

 こういう場合を想定して作られた大広間があったので、そこを遠慮なく利用させてもらう。


「よお、坊主! 今日は楽しませてもらうぜえ!」

「店長!」


 既に酒を飲んでいるのか、若干頰が赤い店長。

 彼は豪快に笑いながら俺の元へやって来た。

 しっかりとパーティー用の衣装を着ている。


「しっかし、とんでもねえ規模になっちまったな」

「ほんとですよ……」

「でもまあ、こいつら全員、お前の関係者なんだろ? だったら誇れ。人脈だけを自慢する奴にロクな人間は居ねえが、坊主は違うだろ? 坊主の行動が、こうして人を惹きつけてるんだからよ」


 サラリと励ましの言葉をかけてくれる店長。

 俺は店長のような大人になりたいと思う。

 間違いなく、憧れの人物だった。


「んじゃま、頑張れよ。これも一つの経験だ」

「はい、またあとで」

「おうよ」


 それから程なくして、パーティーの開催時刻に。

 今更何を言っても仕方ない。

 俺はマーティーンから声を拡張するマイクのような魔導具を受け取り、挨拶を始めた。


「本日はお忙しい中お越しいただき、誠にありがとうございます。この集まりには様々な意味が込められていますが、今宵は身分を問わず楽しんでいただきたいと思います。既にご存知の方も多いので、先に明かしてしまいますが……私は異世界の勇者です」


 突然のカミングアウトに会場が多少騒つく。

 主に黒色冠の人達だ。

 店長だけは動じないで俺の話を聞いていたけど。


「この世界に来て、私は当初憤りを感じていました。勝手に召喚された挙句、私を『低級魔法使い』だからと突き放し、最後には城から追放されましたからね。なんて理不尽な国なんだろうと……しかし、そんな環境でも手を差し伸ばしてくれた人達が居ました」


 ロマノフ団長と変装しているイルザ様を見る。

 もちろん店長にも視線を送った。


「全ての人が悪人なワケが無い、そんな当たり前の事に気付かされた私は、自らを高める事に集中しました。そして……前王への反逆に手を貸しました。王には勿論、思うところがありましたが、それ以上に、成し遂げなければいけない目的があったのです」


 ドールをこの手で救う事。


 腐らず、努力を続けていた甲斐があった。

 もし本当に無力だったなら、俺はきっと、今この場に立っていないだろう。


「狂気に塗れた前王との戦いは苛烈を極め、彼と手を組んでいた勇者リュウセイも参戦しました。私が知る仲間も、勇者リュウセイに命を奪われました」


 イルザ様の護衛騎士達が涙目になる。

 ルピールの同僚達だ。

 彼女の死は、今でも鮮明に覚えている。


「ですが沢山の苦難を乗り越え、私達は勝利を掴んだ! この国の未来は、きっと明るいものになると私は信じています! ご静聴、ありがとうございました!」


 パチパチパチ––––!


 沢山の拍手が巻き起こった。

「勇者ユウトー!」「真の英雄ー!」とかも時々混じって聴こえる。


 そういえば、ドールとエストリアは何処へ?


「旦那様、続けて乾杯もお願いします」

「ああ、そうだな」


 マーティーンからグラスを受け取る。


 注がれているのは度数の低いアルコールだ。

 魔力操作法の応用で、ある程度の酔いならば中和出来るので醜態を晒す事は万が一にも無い。


 未成年の飲酒禁止とかも、フェイルート王国の法律には無いし。

 と、そんな事を考えている場合じゃない。


 皆んなグラスを手に持ち、準備万端。

 俺は拡声器の魔導具のスイッチをオフにし、あえて大声を張り上げながら言った。


「それじゃあ––––乾杯!」


 一夜限りの宴が始まった。

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