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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第2章:冥府の森の魔女
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49話・夢の世界を、その瞳に

 

「––––見苦しい姿を見せてしまったわ」


 泣き止み、落ち着いたエストリア。

 彼女は頰を赤く染めながら言う。

 泣いてる姿を見られたのが恥ずかしいようだ。


「でも、ユウト君。貴方の所為で掟を破る決心をしたのだから、責任は取ってもらうわよ」

「ああ、勿論だ」

「責任……」


 ドールがボソッと呟く。

 何故かジト目で睨まれた。

 女心は分からない。


「ま、まあ、そうと決まれば早速準備しようぜ!」

「それもそうね」

「分かった」


 朝食を終えた俺達は、各々王都へ行く準備をした。

 とは言っても元々帰る予定だった俺とドールは殆どの準備を済ませていたので、直ぐに終わる。


 大変なのはエストリアだった。

 何せ生まれて初めての外出。

 分からない事だらけで不安も大きいだろう。


「困ったわ、王都ってどんなファッションが流行っているのかしら?」

「魔女もそういうの気にするんだな」

「女ですもの、当然よ」


 エストリアはゴーレムに大量の衣服を用意させ、あれでもないこれでも無いと選んでいる。

 因みにドールはいつもの黒ローブ姿だった。


 最初、エストリアはドールに王都の流行などを聞いていたが、彼女のファッションセンスがかなり独特なのが後々判明し、消去法的に俺がチェックする事に。


 正直俺も女性のファッションはよく分からない。

 なので、一般論を述べるしかなかった。


「黒タイツは履いたままでいいぞ」

「どうして?」

「王都の女性は当然のように履いている」


 勿論、当然のように嘘だ。

 単なる俺の趣味嗜好である。

 が、エストリアはそれを知らない。


「分かったわ」

「……よし」


 内心ガッツポーズする。

 彼女の脚は、タイツに包まれる宿命でも持っているかのように美しかった。


 ここで履かせないのは人類の損失。

 俺は人類代表として役目を果たした。

 しかし、その代償は小さくなく……


「……」

「ど、ドール、いつからそこに」


 そこには冷めきった目つきをしたドールが居た。

 自分の婚約者が他の女を騙してタイツを履かせている場面を見たとき、一体どんな気持ちになるのか。


 答えは直ぐに分かった。


「変態」

「あ、ちょ、ちがっ、待ってくれ!」


 彼女は吐き捨てるように言ってその場から去る。

 俺は必死に弁明しながら追いかけた。

 男の戦いは、続く––––




 ◆




 紆余曲折あったものの、準備は滞りなく終わった。

 俺達三人は館の前で勢揃いしている。

 王都まではエストリアの使い魔で行く予定だ。


「というワケで留守番頼んだぞ、犬」

「二度と帰って来るんじゃねえよ、ニンゲン」


 俺とケルベロスは互いにガンを飛ばし合う。

 コイツとはこのくらいの距離感が丁度良かった。

 ただ、二度と会えないのは少し寂しい。


「ったく、オレはどうなっても知らねーぞ」

「あら、心配してくれるの?」

「ハッ! お前に死なれちゃ面倒なだけだ!」

「死ぬなんて大袈裟ね……でも、心配してくれてありがとう。お土産は何がいい?」

「ガキ扱いすんな!」


 エストリアとケルベロス。

 この二人も奇妙な主従関係だと思う。

 ケルベロスは力を手に入れる為に、エストリアの使い魔として契約したらしいが。


「それじゃ、本当に留守番頼んだぞ?」

「行って来るわ」

「さっさと行っちまえや」


 悪態を吐きつつも見送りはしてくれるようだ。

 俺達はエストリアが用意した使い魔……ワイバーンと呼ばれるドラゴンの親戚の背に乗る。


 この前の巨大怪鳥よりも圧倒的に速いようだ。

 森から王都まで二時間程度だとか。

 今から行けば昼前には着く計算だ。


 王都に着いたらとりあえず、イルザ様とタイダル陛下に諸々の報告をしよう。

 エストリアに王都を案内するのはその後だな。


「さあ、出発よ」

「グオオオッ!」


 ワイバーンが叫ぶ。

 同時に翼を羽ばたかせ、空へと浮かぶ。

 ピトッと、背中に何かが張り付く。


 ドールだった。

 彼女は俺の腰に手を回している。

 俺の背中にくっ付いているようだ。


「どうした?」

「この方が、安全」

「いや、そうだけど」


 なんだかドキドキする。

 いつも同じベッドで寝ているのに。

 俺のすぐ前にエストリアが居るからか?


「……いや?」

「いやじゃないです」

「よかった」


 ナニカが押し付けられる感触。

 薄くて小さいけど、それは男の夢だった。

 けどやっぱり、もう少しボリュームがあれば……いや、人には人の良さがある。


「二人とも、面白そうな事してるわね」

「は、はは」

「私も混ぜてくれるからしら」


 前に座っていたエストリアが俺に背中を預ける。

 ぐてっと、彼女は力を抜いてる感じ。

 身長差的に頭が首筋辺りに当たる。


 前後の女性から挟まれるサンドイッチ状態。

 柔らかさ良い香りで包まれる。

 俺は天国に迷い込んでしまったのかもしれない。


 でも、なんで彼女は急にそんな事を?


「ふふっ」

「エストリア、どうしたんだよ急に」

「さあ、何故かしら?」


 彼女は楽しそうに微笑んでいる。

 初めての外出にテンションが上がっているのかも。

 俺も家族旅行の時は変なテンションだった。


「む……」

「はは、エストリアもワクワクしてるだけだよ。だからドール、腕の力を緩めてくれない?」


 ぎぎ、と徐々にドールの抱擁が力強くなっている。

 彼女も無意識のうちにやっていたのか、俺が抗議すると直ぐに緩めてくれた。


「……やっぱり」

「ん?」

「何でもない」


 それからは順調に飛行は続いた。

 ワイバーンは馬や巨大怪鳥よりも速く、本当に二時間ちょっとで王都に近付いている。


 上空から、王都を見下ろした。

 街は四角い外壁に囲まれている。

 東西南北それぞれに一つずつ検問があり、今も他の街や村から来た者達が列を成していた。


「あれが、フェイルートの王都……」


 感慨深そうにエストリアは呟く。

 ずっと、夢だと思っていた世界。

 それが目の前にある。


「ユウト君……ありがとう」

「さっきからお礼ばっかりだな」

「だって……魔女が冥府の森を出るなんて、本当に前代未聞なのよ?」


 心底凄いことのように彼女は言う。

 歴代の魔女は、律儀に守っていたのか。

 エストリアの母親も。


 が、そこでふと疑問が湧いた。

 魔女は一生を森で過ごす。

 なら、どうやって子供を残すんだ?


「エストリア、魔女ってどうやって子供を残しているんだ?」

「子供? そうね、母は使い魔が攫ってきた男性を相手にして私を産んだそうよ。前後の記憶は消してから解放したらしいから、私は父を知らないし、私の父も何も覚えてないと思うわ」

「……マジか」


 思った以上にアグレッシブな方法だった。

 確か、アマゾネスが似たようなやり方で子供を残していたと聞いたことがある。


 これ以上聞くと闇が深そうなのでやめておく。

 するとエストリアが唐突に言った。


「私も、そろそろ相手を見つけないと……」

「……子供を作る相手のことか?」

「ええ。折角だし、王都で見つけようかしら」


 買い忘れた物を買いに行こう、くらいの軽いノリで言われると、こちらも対応に困る。

 なんて思っていたら、彼女は爆弾発言を投下した。


「でも、ドールがユウト君を貸してくれるなら、その必要も無いわね」

「……は?」

「っ!?」


 イタズラっぽく、エストリアは笑う。


「ユウト君が相手なら記憶を消す必要も無いし、子供も二人で育てられる……なんて、冗談––––」

「絶対ダメ! 作るとしても、私が先に産む!」


 ガバッと、ドールが普段あげないような大声をあげながら身を乗り出す。

 彼女も中々な発言をしていたが、興奮でそこまで気が回ってないようだ。


「ちょ、ちょっと、急に動いたらバランスが!」

「うわっ!」

「グオオオオオオオ!」

「ご、ごめんなさい」

「お、落ちる落ちる落ちる!?」


 その後、着陸––––と言うより、殆ど墜落に近い形で俺達三人は王都の外壁付近に降りたのだった。

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