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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第1章:エデンの勇者
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34話・低級魔法使い

 

 俺もドールも、まだ若い。

 若さ故の過ちを積み重ねて、人は成長する。

 今回の件で俺は、時と場所を選ぶ事の重要性を学ぶことが出来た……これでまた一つ、成長した。


 例の事件の翌日。

 俺とドールは二人で王城を訪れていた。

 今後についてイルザ様へ報告する為に。


「うわ、なんか滅茶苦茶壊れてるな」


 王城の三分の一が瓦礫の山と化していた。

 あちこちで土木工事専門の魔法使い達が、土魔法を唱え続けて工事に勤しんでいる。


「半分くらいは、ユウトの影響」

「う……悪かったよ」

「責めてるワケでは、無い」


 すっかりいつもの調子を取り戻したドールは、奪い返した杖を持ちながら歩いている。

 前王が隠し持っていたようだ。


「だよな! 光山が派手に魔法をぶっ放してたし、工事費用請求されたらアイツの所為にするか」

「……」


 今度は微妙に責められている視線を向けられた。






「よく来ましたね、エルザ」

「はい、お母様」


 イルザ様の自室は無事だったようで、とくに何かが壊れている様子は無かった。

 ドールが王女なのは王妃派でも一部しか知らない事実のようなので、こうしてお忍びで来ている。


「ユウトさんも、元気そうで何よりです」

「そんな、イルザ様が良い治癒師を派遣してくれたからですよ」

「いえいえ、今ではこの国唯一の勇者様の為です、そのくらいは当然ですよ」


 彼女の言葉に引っ掛かりを覚える。

 国唯一の勇者って、俺が?

 光山は死んだけど成島と羽島は生きてるし、木村だってもう怪我は治っている筈だ。


「あの、俺が唯一の勇者とは?」

「言葉通りの意味です」

「俺の記憶だとまだ三人居たような……」

「実は––––」


 イルザ様曰く、成島と羽島はあの後牢屋にぶち込まれたが、元々彼らを召喚したのは王国の身勝手という事で一度は監視付きで仮釈放されたが、直ぐに問題を起こして騎士団総出で再び牢屋行きにさせたようだ。


 木村に関しては真面目に生活しているが、鮫島の一件で完全に自信を喪失したようで、勇者としての活動は当分の間無理だろうと言われている。


「成島と羽島は、もうどうしようも無いですよ? 一生反省しませんでしょうし、無期限投獄しておくのをオススメします」

「私も非常に心苦しいですが、仕方ありませんね」


 馬鹿だな、あいつらも。

 嘘でも改心したフリさえしてれば、ある程度の自由は手に入ったかもしれないのに。


 まあ、馬鹿だから取り巻きなんてやってたのだろうけど、自業自得なので同情は無い。

 同情するべきは木村の方か。


「勇者キムラ殿に関しては、心の問題ですから。時間が解決してくれると願っています」

「うーん……」


 腕を組んで考える。

 現在、俺がこの国唯一の勇者か。

 中々にカッコイイフレーズではあるが、今の俺はドールと一緒になる事が最優先だ。


 その旨を俺の方からイルザ様に伝える。

 さて、どんな反応をされるのか。

 身構えていると––––彼女は軽やかに笑った。


「そうですか! エルザ、よくやりましたね!」

「お、お母様……?」

「勇者の血は王族に混ぜておきたかったので、エルザがユウトさんの子を産んでくれると言うなら何も文句はありません」


 そういう事言うと思った。

 まあそこら辺は政治も関係しているのだろう。

 もしドールとそういう関係では無かったら、王族所縁の女性をあてがわれていたらしい。

 ……それはそれで興味があったな。


「ユウト」

「な、何?」

「なんでもない」


 一瞬だけ睨まれた。

 尻に敷かれる未来が既に見える。

 俺はそういうの好きだから問題ないけど。


「つきましては、ユウトさんに……いえ、勇者ユウト殿に折り入ってご相談が」


 突然、イルザ様の雰囲気がガラリと変わる。

 井戸端会議が好きなおばさまから一転、国を預かる王族としての側面が現れていた。


「何でしょうか」

「是非今後とも勇者として、我が国へのご協力を我々は望みます。都合のいい事を言っているのは理解していますが、どうか一考を」


 言いながら、彼女は頭を下げた。

 その姿に感化され、俺も真剣に考える。

 勇者として協力するかどうか。


 これまでは散々、冷遇されてきた。

 しかしそれは狂っていた前王の独断性が強い。

 今では多くの人が、俺を認めてくれている。


 店長、ロマノフ団長、イルザ様、タイダル陛下、王妃派の面々、そして––––ドール。

 彼女の為なら、俺は命だって捨てる覚悟だ。


 亡命した他の勇者達が何を考えているのかは不明だが、よくない事が起きると予感している。

 特級以上の勇者は規格外に強い。


 彼らに対抗するには、低級勇者である自分一人だけの力では、余りにも弱すぎる。

 だから––––


「低級魔法使いの力で良ければ、いつでも貸しますよ。だから頭を上げてください」

「ユウト!」

「ユウト殿……!」


 ドールが笑顔を見せた。

 ポンと頭に手を置いて撫でる。


「安心しろ、俺は何処にも行かない」

「うん」

「ありがとうございます、ユウト殿」


 頭を上げ微笑むイルザ様。

 彼女が頭を下げるなんて似合わない。

 堂々としてる方が、彼女らしかった。


「ふふ、娘の婿が勇敢と知性を持ち合わせた殿方で、本当に良かったです」

「む、婿?」

「ええ。結婚するのでしょう?」

「や、それはまあ、いつかは」

「……っ!」


 恥ずかしいのか、杖で母をぽかぽか殴るドール。

 イルザ様は涼しい顔で受け流しながら言った。


「確かに結婚はまだ、時期尚早ですね。暫くは婚約という形でお願いします」

「は、はい」

「では、私のことはお義母さん、と」

「そ、それはまだちょっと……」


 なんて話していたら、コンコンとノック音が響く。

 誰だろう? と思っていたらドールが開けた。

 現れたのは。


「お久しぶりです、ユウト殿。ようやく自由な時間が得られたので来ました」

「タイダル殿下……じゃなくて、陛下!」

「はは、まだ慣れない響きです」


 タイダル陛下は護衛を一人だけ連れていた。

 公務中では無いらしい。

 王様の詳しいお仕事事情は知らないが。


「イルザ様、首尾はどうでした?」

「問題無く。それより陛下、私のことは呼び捨てで構わないと」

「僕は所詮、代役ですから」


 陛下は俺を真っ直ぐ見つめる。

 男でも見惚れる美青年だ。

 国民からの人気もうなぎ登りだろうな。


「ご協力感謝します、ユウト殿。実は僕も頭を下げに来たのです」

「陛下に頭を下げさせるなんて、そんな」


 なんか、周りの人達がドンドン俺を持ち上げる。

 そんな器じゃないのになあ。

 悪い気はしないからいいけどさ。


「その謙虚さは、僕も見習いたいものです。さて、今日はもう一つ、お願いがあってやって来ました」

「お願い?」

「はい」


 陛下は続ける。

 イルザ様とドールも耳を傾けていた。

 俺も心して聞く。


「知っての通り、我が国は勇者リュウセイが手引きした魔獣の軍勢との戦いで、多くの兵を失いました。元々軍事力に明るくないフェイルート王国にとって、これは無視できない痛手です、そこで」


 一旦言葉を区切ってから、彼は言う。


「ユウト殿には、我が国の立入禁止区域【冥府の森】へ行ってもらいたい。そこで森の主人である『魔女』と会い、我が国との正式な協力関係を結んでもらいたいのです」





今回で1章:エデンの勇者は終わりです。

次話からは2章が始まります。

一つの区切りを迎えたという事で、もし1章全体の感想があれば書いて頂けると嬉しいです。


そしてみっともないお願いなのは重々承知していますが、まだブックマークをしていない方はブックマーク登録を、ポイント評価をしていない方は評価を入れてくださると、私のモチベーション維持の大きな燃料になります。


最後に。

ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました! 低級魔法を極めし者〜はこれからも続きますので、どうかよろしくお願いします!

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