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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第1章:エデンの勇者
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26話・救出作戦開始

 

 ルピールに案内されたのは地下水路。

 どうやら王城内部と繋がっているらしく、そこから侵入してイルザ様とドールを助けた後、フェイルート王を討つ……そういう手筈のようだ。


 また、王妃派は二手に分かれて行動を起こす。

 地下水路から侵入する部隊と、王城の前で暴れて注意を惹きつける陽動部隊。


 当然、俺は地下水路からの侵入部隊に志願する。

 仮に断られても強引に行くつもりだった。

 そんな事にならなくて良かったけど。


 で、王妃派と合流したのだが。


「久しいな、ユウト」

「ロマノフ団長!」


 最後に会ったのは数ヶ月前か。

 快活な笑顔を見せるロマノフ団長が居た。

 彼も王妃派だったのか。


「まさか、こんな形で再開するとはな」

「俺も驚きましたよ」

「……ふむ」


 ロマノフ団長は俺を見て何かに気づいたようだ。


「強くなったな、ユウト。佇まいで分かる」

「苦労はしましたけどね」

「その甲斐があってこそ、だな」


 積もる話はあるが、今は二人の救出が最優先。

 作戦はもう既に始まっている。


「今頃、陽動部隊が暴れている頃だ。ロマノフ卿、我々もそろそろ……」

「ああ、分かっている。今日でフェイルートの悪政を終わらせるぞ」


 俺、ルピール、ロマノフ団長。

 そして王妃派の十数名は地下水路を駆け、丁度城の真下の位置にある所まで辿り着く。


「扉は魔法で封じられている。触れるなよ? 警報が鳴って直ぐに兵士がやって来るぞ」

「なら、どうやって侵入するんです?」

「待っていればいい」

「待つ?」


 ロマノフ団長はそう言うが、どういう意味だ?

 しかし彼の言う通り、数分後に魔法は解除される。

 内部から解かれたようだ。


「よし、手筈通りだな」


 扉を開ける。

 その先で待っていたのは、金髪の青年だった。

 品格漂う雰囲気で、背筋もピンと伸びている。


 彼の姿を見た瞬間、ルピール達が片膝をつく。

 彼は落ち着いた声で言った。


「待ってました、ロマノフ」

「ご協力感謝します、殿下」

「……殿下?」

「貴方とは初めて会いますね、勇者殿」


 青年は微笑む。

 殿下って事は……国王の息子?

 本当は公爵家の子らしいけど。


「僕はタイダル・フェイルート。偽りの立場ですが、現国王の息子です」


 やっぱりそうだった。


「ヤノユウトです」

「ユウト殿……この度は王の乱心に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。お礼は必ずしますので、今はどうか、我々に力を貸してください」


 国王と違い、聡明そうな若者だった。

 どうやら彼が地下水路の封印魔法を解き、侵入部隊を王城に招くシナリオだったらしい。


「俺は……ドールを助ける為に来ました」

「その心意気、感謝します」

「殿下、参りましょう」

「ロマノフ……ああ、行こう」


 タイダル殿下はロマノフ団長から杖を受け取る。

 彼も戦えるようだ。

 ここから先は恐らく戦闘になる。


 一行はタイダル殿下の先導で王城内を進む。

 既に人避けをしてくれていたようだ。

 そしてあっさりと地下牢へ辿り着く。


 順調すぎて不安なくらいだ。


 地下牢は薄暗く、湿気が強い。

 床は石畳で一本道の両脇に牢屋がある。

 僅かだが囚人もいた。


「地下牢だけは、人払いが出来ませんでした。だから強行突破になります」

「では、先陣は私が」


 ロマノフ団長が飛び出る。

 彼は雷属性の魔法で身体能力を強化し、目にも留まらぬ速さで兵士達を無力化させた。


 鮮やかな手腕は、流石王国最強の騎士。


「ロマノフ、いつも仕事が早くて助かります」

「これも国を想ってのこと」


 そして地下牢の一番奥まで進む。

 一際大きな牢屋には、イルザ様が投獄されていた。

 彼女は椅子に座りながら目を瞑っている。


「イルザ様!」

「その声は……ルピール?」

「はい、助けに参りました!」


 ルピールは魔法で即座に牢屋を破壊する。

 まぶたを開けたイルザ様は王妃派の面々とタイダル殿下、最後に俺を見てから口を開いた。


「皆の者、危険を犯してまでの救援、感謝します」

「あの、イルザ様。ドールは何処に……!」

「ドール? エルザの偽名ね……あれ、貴方はまさか、ユウトさん?」

「はい。異世界の勇者、ユウトです。貴方の娘さんを助けに来ました」

「そう……全て、知ったのね」


 イルザ様は俺を見て驚く。

 久し振りに会ったが、水色の髪と瞳は変わりない。

 ……そうだ、初めて会った時ドールが誰かに似ていると思ったけど、イルザ様だったんだ。

 実の親子なのだから、当然と言える。


「エルザはここには居ないわ」

「そんな……」

「ここに幽閉されてないとしたら、あとは……王族しか知らない隠し部屋でしょうか?」


 タイダル殿下が言う。

 そんな所があったのか。


「恐らくは。あの子も助けを待っているでしょう、直ぐに向かって––––」

「いやー、悪いけどそれは無理だと思うよー?」

「何者!」


 地下牢の出入り口から聞こえる声。

 足音がゆっくりと近付いて来る。

 ルピールがイルザ様を庇うように立つ。


 俺は鞘から魔鋼鉄の剣を抜いた。


「だってお前ら、ここでゲームオーバーだからさ」

「もしかして……成島か?」


 現れたのはクラスメイトの成島隼人だった。

 光山の取り巻きだったから、よく覚えている。

 女のお零れを貰おうと必死だった奴だ。


「あれ? なんで矢野が居るんだ? お前追放されたんだろ、くははっ!」

「何がおかしい」

「別にい? ただまあ、元クラスメイトを始末するのに少しばかり心が痛むかもと思ったけど––––」


 成島は黒い杖をこちらに向けながら言う。


「うん、罪悪感とかこれっぽっちも無いわ。そんなワケで死んでくれ、矢野」

「断る」

「返事とか要らねえよ––––『ブリザード』!」


 予め魔法を詠唱していたのか、氷属性の上級魔法を容赦なく撃ち込んできた成島。

 狭い通路では避けることもままならない。


「イルザ様を守れ!」


 王妃派の人達が俺達の前に飛び出た。

 そして魔力操作法を使い耐久度を上げたのか、壁となってブリザードを耐え切る。


「ここは私に任せろ!」

「ロマノフ団長!」

「ユウト、お前はエルザ様を救え!」


 ロマノフ団長は全身に雷を纏わせ、渾身のタックルで成島を巻き込んで地下牢の出入り口まで突っ込む。

 そのまま壁に押し付け、成島に雷撃を浴びせて俺達が逃げる時間を稼いでくれるようだ。


「くそっ! 離せ!」

「ハヤト、魔法を唱えたからと言って油断するなと教えたが、まだ直ってないようだな」

「センコー面すんじゃねえよっ!」


 ロマノフ団長に感謝しつつ、俺達は地上へ。

 しかしそこには成島が引き連れて来たのか、多くの国王派と思われる兵士が待ち構えていた。


「くそっ、我々の動きが読まれているな」


 ルピールが戦闘態勢に入る。

 他の王妃派も同様だ。

 しかしそこで、彼らの誰かが口を開く。


「隊長、ここは我々に任せて先に!」

「馬鹿者! あの数を相手にする気か!」


 兵士は三十人は居る。

 対してこちらは全員合わせても十人と少し。

 二倍以上の戦力差だ。


「ご安心を、我らは未来を作るため、即ち生きる為に戦うのです。ここにいる全員、誰もが生きて帰る事を望んでいます」

「お前達……」

「隊長、信じてください」

「……危なくなったら離脱しろ」

「はい!」


 直後、複数の魔法が降り注ぐ。

 その魔法を王妃派が相殺した。

 剣や杖を抜き、次々と兵士達と戦闘を始める。


「っ……私が道を作る、行くぞユウト! イルザ様と殿下も遅れずに!」

「勿論だ!」

「ええ、お願いしますルピール」

「彼らの為にも、行きましょう」


 ルピールが叫ぶ。

 自分の部下達を置いて行くのだ。

 不安に決まっている。


 それでも彼女は決断した。

 だったら俺も、彼らを信じるしかない。

 そして感謝する。


 ありがとう、名も知らぬ英雄達。


「我が道を阻む全てを退けろ『サイクロン』!」


 風の魔法が敵兵を吹き飛ばす。

 その瞬間、俺、イルザ様、タイダル殿下……最後にルピールは背後を振り向かずに走った。


 隠し部屋までの道案内は殿下がしてくれる。

 王への反逆は既に露見したと思っていい。

 中も外も、乱戦状態だ。


 ここでしくじれば後がない。


「ドール……無事でいてくれ!」


 もう、神様には祈らない。

 祈る暇があるなら、俺の力で望みを叶えてやる。

 例え、この命が尽きようとも。

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