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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第1章:エデンの勇者
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20話・勇者のパレード

 

「勇者のお披露目パレードですか?」

「おう。遂に王国が勇者の存在を認めて、大々的に公表するようだぜ」


 黒色冠の仕事中に店長が言う。

 勇者、か。

 脳裏に浮かぶのはクラスメイトの面々。


 ふと、最後に会った光山の顔を思い出す。

 普段の彼が見せないような冷たい表情と声。

 あれは一体何だったのか。


「いつやるんです、それ?」

「明日のようだ」

「随分と急ですね」

「お上が考えてる事なんて、俺達平民には一生分からねーもんだぜ」


 だから王都がいつも以上に賑わっていたのか。

 噂の勇者様の登場。

 湧かないワケが無い。


「坊主は見に行くのか?」

「うーん……」


 正直、興味は無かった。

 それにクラスメイト達とは顔を合わせたくない。

 鮫島のように増長している可能性がある。


 面倒には巻き込まれたくなかった。

 それでも、気になると言えば気になる。

 一応同じ世界の出身だし。


「暇があれば、見に行くかもしれません」

「そうか。まあ当日はここも閉めるしな」


 パレードの開催にあたり、交通整備が行われるようで一部区画の店舗は営業を停止させられる。

 黒色冠のその内の一つだった。


 当然のように拒否権はない。

 民主主義とは真逆の国だった。

 この世界の国家はどこもそうらしいけど。


「まあ、どんな野郎が勇者なのかくらいは、俺も興味があるけどな」




 ◆




 で、翌日。

 王都は異様な盛り上がりを見せていた。

 こんな数の人居たの? ってくらいに人混みが発生し、迂闊に動けば飲み込まれてしまう。


 かく言う俺も、少しだけクラスメイトの顔を見にやって来たつもりだったが……


「ひ、人が多すぎる……」


 埋め尽くされた通路は見てるだけで目眩がする。

 まだまだ娯楽の少ない世界だから、こういうお祭り的な集まりには皆参加したいのだろう。


 どうしたものかと悩んでいると、硬い何かで頭をちょんちょんと叩かれる。

 見上げると魔法で浮いたドールが居た。


 風の魔法で浮いているからか、バサバサとローブが舞いその下に履いているスカートも揺れているのが目に毒すぎてなんかもうエロいです凄いですありがとうございます!


「来て」


 短い言葉だが、空から見学しようと招待してくれているようなので了承する。

 差し出された手を取ると、フワリと体が浮いた。


 周囲の人々が驚きの声を次々とあげるが、ドールはまるで意に介さず適当な屋根に飛び移る。


「ここならよく見える」

「ほんとだ。ありがとうな、ドール」


 言いながら、小柄な彼女の頭をポンと撫でる。

 身長差の関係上、撫でやすかった。

 不用意に触れてしまったが、何も言わずされるがままだったので嫌がられては無いようで安心する。


 で、暫く雑談しながら(殆ど俺が一方的に話してドールが相槌をうつだけの会話)待っていたら、盛大な音楽が流れ始めた。


 そして豪華な馬車が現れる。

 通常の馬車とは違い天井部分が無く、乗車している人物が一目で分かる構造になっていた。


 乗っていた人物は……光山流星。

 伝説の帝級魔法を操る、最優の勇者。

 光山は爽やかな笑みを浮かべながら立ち上がり、街道に集まった市民に向けて手を振った。


「勇者様ー!」

「こっち向いてー!」

「世界の危機を救ってくれえっ!」


 凄まじい熱気だった。

 街道に集まった市民全員が勇者の名を叫ぶ。

 勇者リュウセイ、ここに現ると。


 だが一つ気になる事があった。


「あくまで代表は光山一人か」


 そう、勇者は沢山居る。

 光山はあくまでその内の一人だ。

 しかしあの様子では『勇者は光山流星ただ一人』とアピールしているようにも見える。


 クラスメイトからしたら面白くないだろう。

 とくに鮫島なんかは絶対に文句を言う。

 彼をどう説得したのか、気になる。


「あの人、強い」


 ドールが呟く。


「みつ……勇者が?」

「魔力の量が桁違い。ユウトと同じかそれ以上」


 ドールは他人の魔力を計るのが得意らしい。

 目視でそこまで分かるのは流石だ。

 だけどまあ、あいつなら妙に納得できる。


 その後、パレードは問題なく終わった。

 国内はもちろん、周辺諸国にも勇者リュウセイの名を広めたフェイルート王国。


 具体的な世界の危機が分からぬまま、勇者の名前だけは強く人々の間に刻まれるのだった。




 ◆




 パレードが終わって数日後。

 王都はまたしても賑わっていた。

 とある噂が原因である。


『フェイルート王国には沢山の勇者が居たが、その殆どが亡命してしまった』。


 こんな噂があちこちで囁かれている。

 急遽行われたあのお披露目パレードは、その事実を隠匿する為の隠れ蓑だったと。


 が、所詮は噂。

 殆どの民衆は半信半疑だった。

 だけど、俺は事実だろうと推測する。


 その話が本当なら、増長した勇者のクラスメイトが文句を言わなかった事に辻褄があう。

 既に王国から逃れていたのだから。


 事態はどんどん複雑化している。

 魔獣の異常に、勇者の亡命。

 王都は混乱の渦中にあった。


「最近世間が騒がしいですねえ」


 料理を運んで来たベリーが呟く。

 俺は一口酒を飲んでから言った。


「これも世界の危機ってやつかな」

「んー、どうでしょうか。私には分かりません」

「ま、危機を解決する為の勇者が世間を騒がしてちゃどうしようもないな」

「でも、あのリュウセイって人の求心力は凄いですよ。私の同僚でも、もうファンになった子も居ますし」


 圧倒的なカリスマ。

 人はそんな人物に強く惹かれる。

 日本の高校でもそうだった。


 いつもあいつは教室の中心人物で、俺はそれを眺めているモブキャラの一人。

 光山の発言がクラスの総意。


 そんな雰囲気が蔓延していた。

 正直、苦手だったな。


「まあでも、なるようになるだろ」

「ふふ、ユウトさんの言う通りですねー」


 流れに身を任せる。

 別に悪い事では無い。

 ただ、流された先に何があるのかは、実際にこの目で見ないと分からないのが怖いけど。


 そして。

 この事態の流れは、急展開を迎える。





 ––––魔獣の大量発生によって。





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