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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第4章:「ありがとう」と「さようなら」
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115話・夢幻

 

「じゃ、俺はそろそろ寝るから。戻っていいぞ」

「ようやく終わった……」

「明日も頼むぞ」

「ハイハイ分かりましたぁ」


 不貞腐れたような態度だが、文句を言いつつも俺の要求には全て応じていたので根が真面目なのだろう。


 ……ホントは金ならいくらでも貸していい、それどころか代表戦に出場してくれるのだから報酬を渡すのが当然だが、賭博で散財したというのが引っかかる。


 これに懲りて賭け事からは手を引いてほしい。

 お節介かもしれないが、真性のギャンブル中毒者と化す前に何とかしたいと思っている。


 彼女と市場を見て回っている最中、偶に見える路地裏には浮浪者が沢山居た。

 彼らが全員ギャンブラーの末路とは断言出来ないが、その可能性は高いだろう。


 仲間が賭博に溺れる姿は見たくなかった。


「……ま、本気でヤバイ時はストロさんや里長が何とかしてくれるか。保護者だし」


 なんて事を考えながらベッドに潜る。

 明日は場所を探して、代表戦前の最後の調整をしよう……ふぁ、ホントに眠くなってきた……


「……ん?」


 ウトウトと微睡んでいた時。

 不意に部屋の扉からノック音が響く。

 こんな時間に誰だ?


 面倒だなと思いながら起き上がる。

 ベリィーゼが忘れ物でもしたのか? けど彼女の私物は見当たらない。


「どなたですか?」

「ヤノユウト様、少しご相談が」


 その声は外で待機していた使用人だった。

 こんな時間まで控えているのか?

 少々驚きつつ、解錠して扉を開く。


「こんな夜分遅く、申し訳ありません」

「いえ、ところで相談とは?」


 この部屋の使用人は女性だった。

 顔立ちは平凡……一般的に見たら美人の部類だが、ドールやエストリアと比べたら劣る。


 だが、彼女達に劣らないモノが一つだけあった。


(デカいなあ……)


 失礼な事だとは理解しているが、男の本能には逆らえず……大きな胸に視線が集中してしまう。

 ドールやエストリアは勿論、俺が知る中で一番大きいベリィーゼ以上の果実の持ち主だった。


 目測になるが下手をしたら百センチを超えている。

 何を食べたらそんなに育つんだ?

 俺が美人美少女慣れしていなかったら、その凶器ならぬ胸器だけで惚れてしまっていただろう。


 ……最低な事を考えているな、俺。


「はい、実は……」

「実は?」


 パタンと、使用人はいつのまにか扉を閉めていた。

 胸に気を取られていた俺はそれに気づかず、彼女の発する言葉を馬鹿みたいに待っている。


 瞬間、彼女は笑みを浮かべながら言った。


「お命、頂戴します」

「は……え?」


 ポロン。


 使用人は自らの衣服を捲り上げ、巨大すぎる果実を俺に見せつけた。

 重力に逆らう二つの山は、驚く事に下着を付けてないにも関わらず形を崩さずに在った。


 純白のキャンパスに浮かぶピンク色の点。

 突然の奇行に戸惑うも、視線だけはしっかりとソコに注いでしまい……見事罠に嵌ってしまった。


「あ……」


 ぐらりと、視界が歪む。

 足腰に力が入らず、尻餅をついてしまう。

 なんだこれ……力……入らねえ……


「ウフフ……やはり殿方にとって、ワタクシの魔法は必中も同然……♡ ですがそれは仕方のない事、さあ……全てを忘れ、夢幻の快楽へと沈んでくださいまし……勇者ヤノユウト様……」


 ぼんやりと浮かぶ使用人の顔は、驚く事に先程までと全く別人の顔に変わっていた。

 その人物の正体は––––






 ◆






 目蓋を開けると、桃色の世界が広がっていた。

 手足を動かそうとしても、言う事を聞かない。

 天蓋付きのベッドに大の字で縛られているようだ。


 いや、俺を縛るような物は何も無い。

 なのに何故か大の字に寝させられている。

 直ぐにコレが現実では無いと悟った。


 やられたな……


 さっきの女に一杯食わされた。

 こういう魔法の存在はドールから聞いてはいたが……まさか自分が体験する事になるとは。


 恐らくここは、魔法で作られた幻の世界。

 そこに俺は捕らわれている。


 まず間違いなく、リフレイ王国の刺客だろう。

 闇討ちの次はハニートラップか。

 く……あの胸は卑怯すぎる……!


 今でも鮮明に思い出せる、推定百センチ超えの胸。

 あの光景が目に焼き付いた瞬間、意識を失った事を考えるに……まさかアレが幻術のトリガー?


 そんな馬鹿なと思いつつ、実際あの時の俺は胸を見た衝撃で頭の中が真っ白になっていた。

 さぞ幻術にかかりやすかった事だろう。


 理屈が分かるからこそ、悔しさも倍増する。

 あんな単純な罠に引っかかるなんて––––と、自らの不甲斐なさに後悔していたら。


「ワタクシの世界は、気に入って頂けましたか?」

「お前は!」


 ゆらりと現れた全裸の女性。

 ウェーブがかった黒髪に、桃色の瞳。


 凹凸の激しい肢体は本当に人間なのかと疑うほど艶めかしく、それでいてバランスのとれた……まさに奇跡のような肉体をしていた。


「ワタクシ、ラプチャー・アントマリィと申します。このような無礼を働いた事、お詫びします……」


 ラプチャーと名乗った美女は、驚く事に心底申し訳無さそうな表情を浮かべながら頭を下げた。

 もし演技ならハリウッドの俳優女優全員が大根役者になってしまう……それくらい真に迫っている。


「謝るくらいなら、最初からこんな事をするな!」

「本当に、アナタ様の仰る通りでございます……しかし、ワタクシもこう見えて組織の一員。与えられた仕事は、やらねばなりません」

「あんた、やっぱり……」


 言うと、ラプチャーは豊満な胸を両手で鷲掴み、ぐいっと広げた。

 二つの果実の丁度境目に『6』が刻まれている。


 何でそんな所に……と思いつつも、その数字が示す意味は一つだけ。

 俺は警戒心を最大以上に引き上げながら言った。


「ホワイトグリード、ランキング6位……そういう事なんだろ?」

「はい、ワタクシもあのギルドの一員でして」

「ふん……才上の命令か? 代表戦前に俺を潰せとでも言われたか?」

「半分当たりで、半分外れです」


 どういう意味だ? と聞く前に彼女は饒舌に語る。


「ワタクシ達の雇用主様が命じたのは確かに勇者の暗殺ですが……それはあくまで、ホワイトグリード全体に対しての指示。誰でもいいと思っていたのでしょう……ええ、ですからワタクシ、立候補してしまいましたぁ……!」

「ウッ……!」


 ラプチャーが俺の体の上に覆いかぶさる。


 至近距離で彼女の顔を見るが、やはり美しい。

 溺れるような色気に惑わされてたまるかと、強く意識を保とうとするが……唐突に唇を奪われた。


「んぐっ……!?」

「ぁぁ、ん……!」


 舌と舌が絡み合う。


 俺に拒否権は無い。

 この世界の王である彼女の意向に、仮初めの肉体はただ従うだけだった。


 強制的なキスは暫く続いたが、互いの唾液が唇から漏れ出したあたりでラプチャーは離れた。

 そして満面の笑みを浮かべながら言う。


「ワタクシ、試しているのです。暗殺せよと命じられた殿方が、伴侶に相応しいかどうかを」

「な……んだ……そ、れ」

「ウフフ……ワタクシの固有魔法『夢幻快楽』は、対象人物を惑わせ、精神世界に閉じ込めます」


 ラプチャーは自らの魔法を明かす。

 この状況に陥っている時点で、彼女の勝利は揺るぎないものになったからだろう。


「この世界に苦痛は無く……代わりに、無限に等しい快楽が貴方様を襲います。過去にこの魔法の餌食になった殿方は皆精神崩壊を起こし、現実の世界に戻る事なくあの世へ旅立ちました」


 恐ろしい事をスラスラと言う。

 背筋が凍るような感覚に陥る。

 彼女は微笑みながら話し続けた。


「ですがもし、貴方様が快楽に耐え切る事が出来れば……ワタクシ、一生の忠誠を誓います。死ねと命じられたなら、この首を差し出しましょう……耐える事が出来れば、ですか」

「っ!」


 直後、強烈な快感が全身に迸る。


 ナニをされたのかは直ぐに理解できた。

 歯を食いしばって必死に耐えようとしたが、ラプチャーが淫靡な笑みを浮かべて上下に動いた瞬間。


「あがあああああああっ!!?!?!!!」

「あら……? 随分とお早い白旗ですこと。ウフフ、この分だとマゾ犬に落ちるのも時間の問題ですね……ああ、ワタクシの魔法に打ち勝つ屈強な殿方は、いつ現れてくれのでしょう……」


 幻の世界に、偽りの悲鳴が轟いた。

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