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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第4章:「ありがとう」と「さようなら」
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114話・メイド服

 

 ま、今考えても仕方ないか。

 それより本来の目的を果たそう。

 俺達は闘技場の下見に来たんだ。


「ケルベロスも元気そうね」

「ハッ、そんな久し振りでもねえだろ」

「それもそうね。で、アンタ達は何しにここへ来てるの? 代表戦は一週間後でしょ?」

「その為の下見に来てる。どんな所で戦うかくらい、事前に知っとかないとな」

「へえ、アンタ達こっちに来たばかりなんでしょ? 真面目ねー」


 と、先程まで不真面目なギャンブルに興じていたベリィーゼが言う

 手持ちの金を全部つぎ込んだとか言ってたけど、大丈夫なんだろうか……?


「ここの闘技場、かなり広くないか? もし対戦相手が逃げに徹したら大変そうだ」

「んなナメたヤロウは速攻でぶっ潰せばいいんだ」


 俺とベリィーゼが話している間にも、木村とケルベロスはしっかり血染めの闘技場を研究していた。

 木村の言う通り、戦う事になるであろうフィールドは遮蔽物が一切無く、ひたすらに広い。


 地の利を使った小細工は通用しなさそうだ。

 そうなるとやはり、戦う両者の実力がモロに反映される試合運びになる事は間違いない。


「あ、私まだ代表戦の詳しいルール、教えてもらってないんだけど」


 思い出したかのようにベリィーゼが呟く。


 とは言え彼女に助っ人の頼みを出した時点ではまだ詳細なルールが決められていなかったので、知らないのも当然だった。


「大丈夫、今から話すよ。木村とケルベロスも聞いとけよ? 万が一に備えてのおさらいだ」

「ああ、頼む」

「カッ! しょうがねーなぁー!」


 ルール違反で敗北なんてしたら大変だ。

 二人にはああ言ったが、俺自身も間違いが無いよう確認の為にルールを口にする。


「代表戦の試合は最大で五回行われる。一回戦、二回戦って感じにな。で、先に三勝した国の勝ちだ」

「そこはシンプルね」

「まあな。そして肝心の試合内容だが……五回全て、一対一の決闘方式だ。当然、相手を弱体化させたり、味方を強化させたりする外野からの介入は禁止だ」


 ここまでは特に変わった点は無い。

 至ってシンプルな決闘スタイルのルールだ。

 しかし、次に告げるルールはそうもいかない。


「勝敗を決めるのは、各国の王が判断する」

「ん? それってどーいう事?」

「つまり……自分の国の戦士がまだ戦えるかどうか、その判断は審判じゃなくてその戦士が属している王に委ねられている。俺達の場合はタイダル陛下だな」


 国家の存亡が懸かっているからこその特殊ルール。


 仮に俺がリフレイ王国の代表戦士に四肢を切断され、明らかに戦闘の続行が不可能だとしても……タイダル陛下が負けを認めなければ試合は続く。


「だけど、唯一の例外がある……戦士の死だ」

「フーン……要するに死ぬ寸前まで戦えって事?」

「言い方は悪いが、そうなる。けど勿論、戦士本人の棄権、ギブアップは認められている。お前は危ないと思ったら、直ぐに試合を放棄してくれて構わない」


 ベリィーゼは勇者の里……外部の人間だ。

 フェイルート王国の為に、命まで賭す必要は無い。

 そう思って言ったのだが。


「安心しなさい? 私が出る以上、そんな醜態は晒さないから。寧ろ一勝は確約されていると思ってもらっていいわ!」


 強気な笑みを浮かべながら、ベリィーゼは言う。


 ただの虚言では無い。

 最後に会った日に比べ、彼女が纏っているオーラは何倍にも大きく膨れ上がっていた。


 きっと休まず修行を積み重ねていたのだろう。


「頼もしい限りだな」

「任せなさい! ……あー、それでさ」

「ん?」


 彼女は突然明後日の方向を向き、モジモジし出す。

 それまでの勢いは空の彼方へ消えていた。

 どうした? と思っていると。


「……お金貸してくれない? 私、お爺ちゃんから貰った旅費、さっきの賭け事で全部使っちゃって」

「おし、お前ら帰るぞー」


 心配して損した。

 俺は木村とケルベロスの肩をポンと叩き、二人を連れてそそくさと退散しようする。


 が、ギャンブル中毒者にガシッと腕を掴まれた。


「待って! 普段里の外には出ないから興奮しちゃっただけなのよ! お願いだから貸してください!」

「うるせー! 自業自得だろうが!」

「そこを何とか……!」


 何だか悲しくなってきた。

 金は友情を破壊するとはよく言われるが、本当かもしれないとベリィーゼを見ながら思う。


「矢野、少しくらいなら貸しても……」

「ダメだ。コイツの為にならない」

「カッ、つきあってらんねーな」


 ケルベロスは先に帰ってしまった。

 まあ下見は終わったし、引き止める理由も無い。

 ていうか俺も帰りたかった。


「……待てよ」


 が、ここで俺の背筋に雷が走る。

 ニヤリと歪みそうになる口元を抑えながら、悪魔の囁きのようにベリィーゼへある提案を出した。


「ベリィーゼ、金が欲しいなら働いて返せ。そうだな……代表戦が始まるまでの間、俺の与えた『仕事』をキッチリ全うしたら、お前がギャンブルで負けた金を全額支払おう。勿論返済する必要は無い」

「え……ほんと!?」

「ああ、嘘は言わない」

「やるやる! いえ、やらせてください!」


 働いて金を稼ぐ。

 至極当然の論理だ。

 この場合、俺が雇用主で彼女が労働者。


 契約締結ってワケだ。


「よし、それじゃあ仕事に必要な物を買いに行くぞ。幸いこの都市には何でも揃ってるからな。木村、お前はどうする?」

「あー、俺はケルベロスを追いかけるよ。流石に開催地で闇討ちとかは無いだろうけど、一応な」

「助かるよ、じゃあまた後でな」


 ヒラヒラと手を振ると、木村はケルベロスが行った方向へ向けて駆け出す。

 実はケルベロスを一人にしておくはちょっと心配だったが、彼が一緒なら大丈夫だろう。


「ねえねえ、仕事って一体何するの?」

「直ぐに分かる、行くぞ」

「フーン、ま、お金が手に入るなら何でもいいや」


 俺が言うのもアレだが、ベリィーゼを見ているといつか悪い奴に騙されそうで不安になる。

 勇者の里は犯罪者とか居なさそうだし。


 そんな事を考えつつ、俺と彼女は意気揚々とある店を目指して歩き出した。






 ◆






 夜、来賓館。


 俺は個室でゆっくり休んでいた。

 流石はラックの市長が用意した施設だけあり、室内は広く家具も一級品ばかりと何もかも豪勢。


 使用人も常に部屋の外で控えていて、何かあったら直ぐに対応してくれる。

 普通に泊まったらいくら金が必要なんだろうか。


「ふー……いやあ、酒の味とか正直分からないけど、こうも環境が良いとそれだけで美味く感じるな」

「……ソーデスネ」


 チラリと背後に視線を向ける。

 そこには顔を真っ赤に染め、メイド服姿でプルプルと震えながら羞恥に耐えるベリィーゼが居た。


 別にいかがわしいプレイをしているワケじゃない。

 金が欲しいと言う彼女の頼みを聞き、こうしてメイドとして雇ったのだ。


 なにも悪い事はしていない、多分。


「でも凄い似合っているな、ずっと見てられる」

「く……!」


 ギロリと睨まれるが、その表情さえ愛らしい。


 俺の好きなメイド服はメイドカフェやアニメのキャラクターが着ているようなミニスカで露出が激しいモノでは無く、ロングスカートで清楚な雰囲気を醸し出す本格派のやつだ。


 今ベリィーゼが着ているメイド服は、何でも揃うと言われているラックの市場で見つけて購入した。

 値段はまあまあしたが、今の俺の懐具合なら余裕で買えたので問題無い。


「うーん、完璧だ」

「……あ、後で覚えときなさい……」

「覚えとくと何も、俺はお前を雇ってるだけだぞ? さ、こっちの酒も試したいから新しいグラスに注いでくれ」

「ハイハイ分かりましたご主人様! ……あとで絶対ドール達にチクってやる」

「待て、それは洒落にならない。待て」


 ベリィーゼがぼそりと、恐ろしい事を言う。


 いや別に? 後ろめたい事は何も無いけど?

 いたずらに彼女達を不安にさせるのもよくないと思うんだ、俺は。


 ––––と、ラックに到着した初日は慌ただしくも一日が過ぎ去ったが……昼間の出来事を超える騒動がこの後の真夜中に起きる事を、俺はまだ知らなかった。

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