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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第4章:「ありがとう」と「さようなら」
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111話・魔力タンク

 

 場所は変わって、会議室。

 そこにはケルベロスを除く代表戦メンバーとエストリア、ドール、タイダル陛下が卓を囲んでいた。


 シャリアとルプスは俺の部屋で遊んでいる。

 イルザ様がシャリアの護衛として近衛騎士を派遣しているので、心配は無い。


 因みにイルザ様は内政の方で忙しそうにしていた。

 元国王派の良からぬ企てを阻止する為に裏で動いていると、ドールから聞いている。


 陛下が直接動けば直ぐに雲隠れしてしまうからだ。

 けどまあ、イルザ様なら上手くやるだろう。

 心配なのはこちらの方だった。


「ロマノフ、ダブレイドの容体はどうですか?」

「はっ! 先程面会しましたが、意識不明の重体です。治癒師達の尽力で命の危機は無いようですが、当分目を覚ます事は無いとの事です」

「そうですか……彼には悪い事をしましたね。彼のパーティーメンバーには、ダブレイドが不在の間の金銭援助をしましょう」


 ダブレイドは元騎士とはいえ、今は冒険者。

 パーティー内でも中核を担う存在なのは間違い無く、彼の抜けた穴は簡単には埋まらないだろう。


「しかし困りました……移動時間を考えると、我々に残されているのは実質一ヶ月弱。騎士団員や冒険者のリストをもう一度洗いますが……」


 陛下は用意された書類を眺める。

 そこにはこの国の騎士団員と冒険者の情報が載っていたが、戦力的には不安が残る者ばかりだ。


「正直、実力は見劣りするでしょう。最悪、捨て枠という事で残りの四人で確実に三勝をするという選択も視野に入れなくてはなりません」

「ロマノフさん、それは」

「分かっているタイショウ。余りに楽観的すぎると言いたいのだろう? しかし、実力が足らぬ者を死地に送るのはそれこそ本来の戦争と変わらん」


 木村とロマノフ団長、どちらの言い分も正しい。

 だからこそ議論は平行線になる。

 けど、俺は何か重大な事を忘れている気がした。


 頭の隅で引っかかる違和感。

 どうにかして引っ張り出せないかと悩んでいた時、エストリアの思わぬ一言がキッカケになった。


「ケルベロスのように、外部から信頼できる助っ人を連れて来られればいいのだけれど……」

「それだ!」


 バン! とテーブルを叩きながら起立する。

 この場の全員の視線が俺に集中した。


「ユウト君、どうかしたの?」

「外部からの助っ人! いるじゃないか! 強くて信頼できる奴が!」

「……あっ」


 ドールも俺の考えに気付いたようだ。

 連鎖反応的に、エストリアもポンと手を打ちながら「どうして忘れていたのかしら」と思い出す。


 一方、俺達以外の三人は困惑していた。


「矢野、助っ人に心当たりでもあるのか?」

「まあな、この前の聖剣探しの旅で出会った奴だ」

「その方はどんな人物なんでしょうか?」


 俺は一ヶ月前の事を思い出しながら三人に話す。


「そいつの名前は久保安ベリィーゼ。勇者の里で暮らす、先代勇者の子孫です」

「ゆ、勇者の里……?」

「ああ、まずはそこから話さないとな」


 陛下は聖剣探しの旅について凡そは知っているが、木村とロマノフ団長に関してはまだ一度も話してなかったので、要約しながら事の経緯を説明した。


「成る程、そんな事があったのか」

「現代日本の町並みとそっくり、か……いつかでいいから、行ってみたいな……」


 木村は遠い目をしながら呟く。

 故郷である日本を思い出しているのだろう。

 その気持ちはよく分かる。


「ベリィーゼは里長の娘で、責任もある立場です。実際戦いましたが、実力も問題ありません」

「ユウト殿がそう言うなら、きっと大丈夫なんでしょう。しかし……」

「陛下?」


 渋い顔をするタイダル陛下。

 今の説明に何か問題があっただろうか?


「勇者の里は、王都から一ヶ月以上はかかる秘境にあるのでしょう? しかも勇者の血を流す者にしか辿り着けない……時間的にも厳しいですが、ユウト殿とタイショウ殿には、出来ればギリギリまで力をつけてほしいというのが私の考えです」


 失念していた。

 勇者の里まで一ヶ月弱で辿り着けたのは、エストリアが改良した魔導馬車があってこそ。


 普通の馬車だと馬を休ませる時間が必要なので、到着するまでに一ヶ月以上は確実にかかる。

 しかも、その間俺か木村のどちらかが拘束されて修行をする時間が無くなってしまう。


「だったら俺が行くよ、移動中でも出来る事はあるし。それに……矢野が修行に集中して強くなった方が、代表戦に勝てる確率は上がる」


 木村は自ら里に行くと名乗りを上げた。

 それしかないか……と思っていたが、エストリアが違う方法を提示する。


「待ってくれる? 例えばユウト君や木村さんの血液を採取して持ち込む……というのはどうかしら?」


 とんでもない裏技だった。


 理屈の上では問題無いのだろうけど、先代勇者の光助が考案したであろうシステムを突破出来るかと言われると……難しい気がする。


 次の世代に向けて地下迷宮を作り出す用意周到な奴が、そんな抜け道を許すとは思えない。


「必要なのが『血』そのものでは無くて、血の通う生きた人間という可能性もあるから、難しい」

「そう……」


 ドールも俺と同じ考えだった。

 ……いや、待てよ?

 必要なのは俺や木村以外の勇者。


 勇者の魔力があれば、魔導馬車を動かせる。


 往復していたらあっという間に二ヶ月経ってしまうが、里へ行ってベリィーゼを拾った帰りにそのまま商業都市ラックまで行けば代表戦にも間に合う。


 だったら居るじゃないか、二名ほど使える奴が。

 人道には反するかもしれないが、反省の無い犯罪者に与える罰のようなものと考えればいい。


「皆んな、俺に考えがある」


 言うと、皆が俺に期待の眼差しを向ける。

 しかし次の瞬間、その眼差しが「え、コイツ何言ってんの?」と豹変するのだった。


「地下牢に羽島と成島が今も幽閉されているだろ? アイツらを拘束して魔導馬車に乗せれば、魔力タンクとして使える。それに勇者だから里に入る条件も満たせて一石二鳥だ!」

「「「……」」」」

「あ、あれ……?」


 俺以外の全員が真顔で硬直する。

 漂う空気も氷河期のように凍りつく。

 おかしいな、ナイスアイデアだと思ったんだけど。


「ユウト君……何か辛い事でもあったの?」

「え」


 最初に口を開いたのはエストリア。

 彼女は慈愛の眼差しを向けながら優しく言う。

 まるで母親のような雰囲気だ。


「……」

「あの、ちょ」


 ドールは俺の手を無言で握る。

 そしてジッと俺の顔を見上げていた。

 無垢な瞳に、心が痛む。


「……確かに外道の行いかもしれませんが、此度の代表戦は文字通り国の存亡がかかっています。すみません、ユウト殿……本来なら僕が浴びるべき泥を、貴方に押し付けてしまった……」


 タイダル陛下が悲しげに呟く。


 え、俺って外道なの?

 そりゃまあ元クラスメイトを魔力タンク扱いしてるけどさ、状況が状況だし?


「ま、まあ、案としては悪くない……どころか、多分それしか無いと俺は思うぞ!」

「タイショウの言う通りだ。二人には悪いが、死ぬワケでも無い。その方法で行こう」


 木村が精一杯オブラートに包めながら言う。

 ロマノフ団長も賛成し、ベリィーゼが五人目の代表戦メンバーとして確定した。


 で、翌日の早朝。


 信頼できる騎士を二名ほどロマノフ団長が選び、俺が一筆書いた手紙を持たせて馬車に乗せた。

 そして肝心の成島と羽島だが、見た目が棺桶のような魔導具に拘束されながらやって来る。


 魔導具の中に入っているので、姿は見えない。


 眠らされているので何も感じる事は無いだろうけど……こうして見ると、ロボットアニメの末期に出てくる生体ユニットのようだ。


 とは言え彼らは一度罪を償う機会を得たものの、そのチャンスを自ら蹴って棒に振っている。

 うん、やっぱり罪悪感とかは無いな。


 そんな風に思いながら、魔導馬車を見送る。

 紆余曲折あったが、代表戦メンバーは決まった。

 これで俺も今日から修行に集中できる。


 やれる事は、全てやろう。

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