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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第4章:「ありがとう」と「さようなら」
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110話・闇討ち

 

 その凶報は、何の前触れもなく届いた。


「……ダブレイドが闇討ちにあっただと?」

「ああ、そうみたいだ」


 木村は力無く言う。

 秘匿性を重視した結果、彼自ら俺にダブレイドが闇討ちされた事実を伝えに来ていた。


「まさか……」

「十中八九、リフレイの仕業だろう。ダブレイドさんの名前は他国にも広まっていた……代表戦に出場する事を読んで事前に潰されたんだ。クソ!」


 ガン! と木村は壁に拳を叩きつける。


「実行犯の目星はついているのか?」

「いいや、痕跡一つ残されてなかった」

「闇ギルドの手腕は伊達じゃないって事か」


 代表戦まであと二ヶ月弱。

 メンバーの入れ替えは可能だが、ダブレイド程の実力者を探すのは正直言って難しい。


 それに試合場所の闘技場がある商業都市ラックまで行くのに一ヶ月ほどかかる事を考えると、残された時間はあまり多くなかった。


「とにかく、他の代表戦メンバーも狙われる可能性がある。だから今日から王城で寝泊まりしてくれってのがタイダル陛下の伝言だけど……」

「そうするしか無いな……今から準備するよ。ドールとエストリアにも伝えるから、暫く寛ぎながら待っててくれ」

「ああ、ゆっくりでいいぞ?」


 木村を客間に残し、俺は二人の元へ向かう。

 ケルベロスの特訓を手伝っていたらしいエストリアは、昨日の夜に帰って来ていた。


 何故かルプスを連れて。

 リクに頼まれたようだが……うーん、もしかしてウチの父親と同じで放任主義なのか?


 ケルベロスも代表戦のメンバーだったが、まあリクと一緒にいるなら大丈夫だろう。

 それにアイツが素直に言う事を聞くとは思えない。


 ……しかし、才上はやってくれたものだ。


 自ら代表戦を仕掛けておきながら、戦う前に裏で相手を潰す……こういう危険性があると、もっと早くから理解しておくべきだったが、最早後の祭り。


 今は出来る限りの最善手を打つしかない。






 ◆






「この部屋……」

「ユウト、気に入らなかった?」

「いや、そういうワケじゃない」


 身支度を終えた俺達は早速王城へ移動する。

 城へ着くと既に使用人が待機していて、代表戦までの間に泊まる部屋へ案内してくれた。


 そこまではいい。

 ただ、何の因果か……俺に充てがわれた部屋は、かつて俺が追放される前まで使っていた部屋だった。


 だからか、妙な懐かしさを覚えてしまう。


「ま、別にいいか。何でもないから安心してくれ」

「……? ユウトがそう言うなら、いいけど」


 もう過ぎた事だ、気にしても仕方ない。

 座ったことのあるソファに腰掛けていると、エストリアがティーカップを用意しながら言った。


「ユウト君、ドール、紅茶はいるかしら?」

「ああ、頼む」

「私も」

「ワオン!」

「ルプスは水で我慢な」


 それぞれの荷物を移し終わったので、一旦皆んなで俺の部屋に集まっている。


 城に移り住むのは俺だけでもよかったが、二人とも当然のように荷造りを始めたので何も言えなかった。

 ま、その方が楽しいからいいけどさ。


 陛下は問題無いと言ってくれたけど、使用人の方々に余計な手間を取らせたのは素直に申し訳ないので、後でお礼を言いに行こうと思う。


 そんなワケで休憩とばかりに紅茶を飲んでいると、控えなノックが鳴った。

 屋敷から連れて来た調理師ゴーレム(そろそろ名前でも付けようかと考えている)に扉を開けさせる。


 現れたのはアルゴウスの姫、シャリア。

 保護対象の彼女も城で世話になっている。

 母国へ強制送還する程陛下の器は小さくなかった。


「あの、皆さんが暫く城で暮らすと聞いて……遊びに来てしまいました……迷惑、でしたか……?」


 モジモジしながら遠慮がちにシャリアは言う。


 子供なんだから、もっと自由にしていいのに。

 とは言え子供だって色々と考えて生きているのだから、簡単にはいかないか。


「そんな事ないよ、あとで会いに行こうと思っていたし。紹介したい人もいるからさ」

「ワオン!」


 そんな彼女の元にルプスが駆け寄る。

 尻尾を全力で振るのは遊んでアピールだ。

 シャリアはゆっくりと腰を落とし、ルプスを怖がらせないよく顎の下から撫で上げる。


「可愛いワンちゃん……この子、名前はなんと申します?」

「ルプスよ、一応私が飼い主かしら」

「貴方は……」

「エストリア・ガーデンウッドよ。魔女と名乗った方が、分かりやすいかしら?」


 魔女と聞いて、シャリアは驚く。

 魔女の逸話は世界中に広がっているようだ。

 彼女もおとぎ話か何かで聞いた事があるのだろう。


「シャリアさん……だったかしら? よかったら、私とも友達になってくれる?」

「友達? 私が?」

「ええ。私、友達少ないから」


 エストリアはシャリアに歩み寄りながら微笑む。


 その姿はまるで姉のようだ。

 彼女も孤独の辛さを知っているからか、シャリアに対してはいつも以上に優しい気がする。


「魔女の友達になんて、早々なれないわよ?」

「それは、とても素敵です……ふふ、帰ったら父上や母上に自慢しないと」

「ワオーン!」

「ルプス、あんまりこの子を困らせちゃダメよ?」

「あははっ、くすぐったい!」


 ペロペロとシャリアの指を舐めるルプス。

 さっきからルプスがただの子犬にしか見えないが、仲良くしてくれるのなら何でもよかった。

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