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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第4章:「ありがとう」と「さようなら」
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106話・メンバー選び

 

 数日後。

 代表戦のルールは既に決まっていた。

 大雑把に言うと、五対五の個人戦。


 一試合ずつ行い、先に三勝を収めた国が勝者。


 開催は約二ヶ月後。

 試合会場は公平性を重視し、完全中立地域の商業都市ラックの闘技場で行われる。


 その際ラック側からの要求で、当日は観客席に人を入れた上に中継されるらしい。

 見物料を取って儲けたいようだ。


 商業都市の名は伊達じゃ無いようで感心するね。


「まさか、生きている内に戦争を経験するなんて……正直言うとさ、考えた事も無かったよ」


 時刻は朝の七時。

 俺は調理師ゴーレムが運んで来たスープを飲みながら、誰に言うでもなく呟いた。


「でも、ユウトはずっと戦っていた。やる事はそんなに変わらないと思う」

「まあ、そうなんだけどさ……」


 ドールの言う通りだ。


 戦争……つまりは人同士の殺し合い。

 単純な殺し合いならこれまでも経験しているし、何なら俺は既に人を殺めている。


 今更悩む必要は無い。


 それでも国家規模の戦いは初めてだ。

 今までは良くも悪くも個人の闘争だった事を考えると、やはりそう簡単には割り切れない。


「別に無理に慣れる必要は無いかしら? ユウト君と私達では育った文化が違うのだし」

「ん、確かに」

「二人とも……うん、ありがとな」


 慣れる必要は無いと言ってくれる。

 そのたった一言で、俺はかなり楽になれた。

 俺だって、率先して人を殺したいワケじゃない。


 けど……あの男は、俺と真逆の考えだったな。

 先日出会った銀髪の男を思い出す。

 奴は闘争を心の底から望んでいた。


 俺とは根本的に相容れない……そんな気がする。


「ユウト君、代表戦のメンバーはどうするの?」

「ん? ああ……一応二人は決めた。今日会いに行って正式に頼む予定だ」

「なら、枠はまだ余っているのね?」

「そうだけど……」


 頷くと、エストリアは微笑を浮かべた。

 まさかとは思うが……彼女も出場したいのか?

 心強い事は確かだが、出来れば出て欲しくない。


 代表戦、相手のリフレイ王国からは恐らくホワイトグリードのメンバーが出場するだろう。

 戦力として雇ったなら、使わない手は無い。


 謁見の間に居た連中は、ファウストを始めどいつもこいつも厄介な雰囲気を醸し出していた。

 一部ドジっ子属性がいたような気もするけど。


 とにかく奴らは危険な集団だ。

 どの程度本気で来るか分からないけど、最悪代表戦では命を落とす者が現れるかもしれない。


 それを考えると、完全なエゴになるがエストリアやドールには出場して欲しくなかった。

 なんて事を一人で考えていたら……


「だったら私、ケルベロスを推薦するわ。リクに修行をつけてもらって強くなったみたいだし、あの子自身も強敵との戦いを望んでいるかしら」

「え、ケルベロス?」

「……あら? そんなに驚く事かしら?」

「ああ、いや……俺はてっきり、エストリア本人が出場したいのかと思って……」


 俺は今さっき考えていた事を伝える。

 すると彼女はクスクスと笑いながら答えた。


「心配してくれてありがとう、ユウト君。けど、私じゃ多分力になれないわ。対人戦の経験なんて、殆ど無いし……予め使い魔を召喚していいのなら、また変わるかもしれないけど」

「一般的な決闘だと、魔法の事前行使は認められて無い。代表戦も同じだと思う」


 エストリアの懸念事項は的中していた。

 彼女は前線に立って戦うタイプでは無く、後方支援でこそ真価を発揮する。


 よーいドン! で戦う決闘方式は、そもそも彼女の戦闘スタイルと相性が悪すぎた。

 それにいくら能力が高くても、対人戦で上手く戦えるかどうかはまた別の問題になる。


「本音は私も出たい。けど、私じゃ足手纏いになる……迷惑は、かけられない」


 悔しそうにドールは言う。

 彼女が毎晩魔法の鍛錬をしているのを知っていた俺は、なんて声をかけたらいいのか迷った。


「ドール、エストリア……二人の分まで、俺が戦う。だから安心してくれ」

「……正直、ユウトが一番心配」

「え」

「そうね、すぐに無茶をするんだから……」

「……そっ、そうかなあ」


 励ますつもりが、何故か俺が責められる状況に。

 だが今回ばかりは無茶を通さないワケにもいかないので、苦笑いで適当に誤魔化した。






 ◆






 朝食後。

 俺はある場所へ向かっていた。

 そこに代表戦候補者が二人いる。


 因みにドールとエストリアは別件で不在だ。

 ドールはイルザ様や陛下と話し合いがあるらしく、エストリアは一旦冥府の森に帰っている。


 少し寂しいが、言っても仕方ない。


「おー、ここも懐かしいなあ」


 視線の先では沢山の騎士が修練に励んでいた。


 ここは王城近くにある騎士団の修練場。

 俺がこの世界に召喚されたばかりの頃、よく夜中まで修行の場として使っていた所だった。


 本来は騎士と騎士候補生の為の場で、皆強くなる為に素振りをしたり走ったりしていた。

 中でも目立つのは、中央にある模擬戦エリア。


 そこでは今まさに模擬戦が行われていた。


「ふんっ!」

「っ! まだだ……!」


 稲妻を纏った騎士が高速移動して翻弄しつつ、隙を見ては攻撃をしている。

 ベリィーゼには劣るものの、細かく緩急をつけているからか残像が見えていた。


 アレは実際に目前でやられると厄介だ。

 稲妻を纏う騎士の相手は防戦一方……でも無く、攻撃を見切って的確にガードしている。


 両者の実力は拮抗していた。

 攻防は暫くの間続いたが、結局決着はつかずに二人は模擬戦を終える。


 そして互いを称えながら礼をした。


「腕を上げたな、タイショウ」

「ロマノフさんのおかげです」

「ふはは、指導者冥利に尽きるな!」

「い、痛い……」


 バシバシと木村の肩を叩くロマノフ団長。

 今日会いたかったのはこの二人だ。

 俺は彼らの元へ向かいながら言う。


「ロマノフ団長、お疲れさまです。木村もお疲れ」

「おお! 来たかユウト!」

「矢野!」


 面と向かって会うのは久し振りだった。

 謁見の間で会った時は、才上達に集中していて彼らを意識する事は殆ど無かったし。


「ロマノフ団長、お忙しいところすみません」

「なーに言っているんだ。今日呼ばれなかったら直談判しようと思っていたところだぞ?」

「悪いな、矢野。でも俺もロマノフさんと同じ気持ちだったよ」


 二人は真剣な表情で言う。

 一応説明しようと思ってたけど、その必要が無いくらいに彼らは覚悟を決めていた。


「ロマノフ団長、木村。もう分かっていると思うけど、改めて……二人には今度の代表戦で、フェイルートの代表として戦ってほしい」

「勿論だ」

「俺でよければ、いくらでも力を貸すぞ」


 彼らは二つ返事で引き受けてくれた。

 要らぬ心配だが、理由を聞いておく。


「私はこれでも、フェイルート王国の騎士団長だ。国民の生活を守る義務がある」

「俺だって、こっちの世界の人には世話になった。恩返し出来るなら、何だってするさ」


 立派な志だった。


 特に木村は元々気弱な面があり、加えて件の事件で人間不信気味になっていたが……今ではすっかり立ち直り、自信溢れる人物に成長している。


 同じ勇者として、俺も負けていられない。


「それにしても、才上がリフレイ王国の王様になってて、しかも戦争を引き起こすなんて……」

「キョウジか……アイツは資質こそはリュウセイに劣っていたが、訓練に関しては誰よりも真摯に取り組んでいた。もしリフレイの代表戦に出場するなら、手強い相手になる事は間違いない」


 木村もロマノフ団長も、才上とは面識がある。

 奴に対しては二人とも思うところがあるようだ。


 俺もそうだが、日本にいた頃から真面目で気の利く優等生だと思っていたからギャップに困惑している。

 ギャップ萌えは美少女限定で十分だ。


「けど、例え才上と戦う事になっても……手は抜かない。アイツのやってる事は間違っていると思う」

「ありがとな、木村。正直お前に断られていたら、けっこー困る事になってたからさ」


 フェイルート王国が擁する戦力は心許ない。


 勇者の木村は大きな戦力の一つだった。

 これで俺、ケルベロス、ロマノフ団長、木村……代表戦に出場する選手は今のところ四人。


 残る枠は、あと一つ。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ残り1人、普通に予想すると前章に出ていた彼女かなあと思いますけどさてさて
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