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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第4章:「ありがとう」と「さようなら」
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105話・代表戦

 

 ホワイトグリード。

 冥府の森を襲撃したランキング七位の男と対決してから、再び出会う事は無かったが……


「ほお、我々の事を知っているのか」


 ファウストは意外そうに言う。

 俺はこの世界にまだ慣れてないから知らないけど、ドールの言い方だとかなり有名っぽいぞ?


 周りの評判は気にしない性格なのかもしれない。

 まあ、これまでの言動からして一般人とは大きく離れた価値観を持っていそうだけど。


 なんて思っていたら、新たな者達が会話に加わる。


「あらあら、ワタクシ達も有名になりましたねぇ」


 落ち着いた雰囲気の女性が嬉しそうに呟く。

 彼女は胸部だけが大胆に露出しているが、そこ以外徹底的に素肌が隠されている奇妙な服を着ていた。


「喜んでどーすんのよ淫乱女! 裏の世界に生きてる私達が目立っても良いことないわよ! このっ!」


 その女性のすぐ近くに立っていた、紫髪をツインテールに結んだ少女はヒステリックに叫びながら露出の激しい女性の尻を蹴ろうと脚を振り上げる。


 が、女性はヒョイっと軽やかに避けた。

 狙いが外れた足は空を蹴り、バランスを崩した少女は盛大にすっ転ぶ。


「いたあっ!?」

「あら、ごめんなさい」

「ふぐぐ……っ」


 涙目になりながら立ち上がる少女。

 羞恥からか、頰を赤く染めていた。

 場の空気が微妙に弛緩する。


 少女漫画に出てきそうなドジっ娘が紛れているけど、彼女もホワイトグリードの一員何だろうか?

 今の様子だけなら、とてもそうとは思えない。


「……貴様ら、茶番はそこまでにしろ」


 そんなやり取りを見て呆れたのか、褐色肌の巨漢が二人に苦言を呈する。

 驚く事に、彼はヘルメットのようなフルフェイス型マスクを装着していた。


 表情は読めず、声音不気味。

 だが露出の激しい女性はニコニコとしたままで、紫髪の少女はそっぽを向いて無視していた。


「……まあよい。貴様の言う通り、我らはホワイトグリード。今はリフレイ王に雇われている」


 ようやく本題に進む。


 やはり彼らはホワイトグリードのようだ。

 よく見れば、褐色肌の巨漢の首筋には数字の3が刺青のように刻まれている。


 つまり、奴の順位は二位。

 組織でナンバー2の実力者ってワケだ。

 七位の男とは比べ物にならないオーラを感じる。


「そういう事だ。俺は別に、普通に戦争を始めてもいい。だが、そちらさんは困るだろ?」


 才上の言う通り、フェイルートは軍事力に乏しい。

 エストリアの助力はあるが、それでようやく他の大国に足並みを揃えられた程度だ。


 このまま開戦すれば、フェイルートの敗北は必至。


 タイダル陛下も、それは理解しているだろう。

 しかし、代表戦という敵国の提示した案に乗っていいのかどうか悩んでいる様子だ。


 とは言えリフレイ側の理屈も分かる。

 全面戦争になれば、格下と言えどそれなりの戦力を投入しなければならない。


 万が一にも敗北したら、その時点で全てを失う。

 敗戦国の末路は悲惨だ。

 故に戦力を集中せざるを得ない。


 そして、その隙を他国に狙われる可能性がある。


 一度に複数の国家を相手にするのはいくらリフレイが勇者とホワイトグリードを味方につけていたとしても、勝利は難しい。


 だからこその、代表戦。


 最小の労力で国を盗る方法。

 個人の力が兵器並みに高いこの世界だからこそ成り立つ戦争は、実に効率的だ。


「……分かりました」

「ほお?」


 陛下が口を開く。

 その決断に彼は全てを懸けていた。

 文字通り、国民の命を両肩に乗せながら言う。


「我々は、リフレイとの代表戦に望みます」

「くくっ! しっかりとこの耳で聞いたぜ……詳細は後日決めるとしよう」


 才上はくるりと背を向ける。


「お前ら、撤収するぞ」

「チッ! 折角暴れられると思ったのによお……」


 鉄腕の男は悪態を吐きながらも、他のメンバーと共に謁見の間から退出する。


 豪快に天井をぶち破って登場した彼らだが、帰りは普通に城の門を通るようだ。

 せめて天井の修理代を払ってから帰宅してほしい。


「……いや、せめて一太刀」

「ファウスト……?」

「あらぁ……これはマズイですねぇ」


 ただ、一人。

 ファウストだけが、その場に留まっていた。

 何のつもりだと声をかけようとしたが、次の瞬間。


 猛烈な殺気が、彼から漏れた。

 俺は咄嗟に身を逸らす。

 直後、元々身体があった箇所に槍が差し込まれた。


「フハハハハハッ! いいぞ、流石は勇者だ!」

「お前……何のつもりだ!」


 何処から取り出したのか、いつのまにか槍を持っていたファウストは狂気的な笑みを浮かべる。

 そのまま戦闘に発展するかと思えたが……


「うむ、今日はここまでにしておこう」

「はあ……?」

「いや何、どうしても君の実力を計りたくてね。先程の一撃を避けたのは見事だった。代表戦、楽しみに待っている」


 狂気が突然消え失せたファウスト。

 奴の態度はチグハグだ。

 相対してるだけで疲れてしまう。


 その後、才上とホワイトグリードは本当に帰った。

 代表戦のルール等は、後日決める事になっている。

 国の存亡を賭けた大事な試合。


 少しでもこちら側が有利になれるよう、上手く調整してみせると陛下は言う。

 そして、俺は代表戦のメンバー選考を任された。


 俺は既に参戦するのが決定している。

 これには上層部も満場一致だった。

 寧ろ出てくれなきゃ困ると言っていたっけ。


 そんなワケで……リフレイ王国とフェイルート王国の代表戦は各国にも通達され、正式なものになる。

 賽は、投げられた。

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