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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第4章:「ありがとう」と「さようなら」
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104話・集結

 

「ハッタリですね」


 が、しかし。

 タイダル陛下は才上の言葉を一蹴した。

 表情を一瞬にして真顔に戻す才上。


「冗談を言ったつもりは無いですが」

「それこそ冗談でしょう? リフレイが本気で侵略を考えているのなら、その魔法兵器とやらでさっさと王都でも王城でも狙えばいい……でも、貴方達はそうはしなかった、いや––––出来なかった」

「……」


 陛下の言う通りだ。


 リフレイのやり方は無駄に回りくどかった。

 純粋に侵略が目的なら、有無を言わさず攻撃を仕掛けてその国の王家を滅ぼせばいい。


 事実、アルゴウスはそうやって侵略された。

 同じ手法がフェイルートに通用しない理由も無い。

 寧ろ全世界に対して喧嘩を売ったのなら、早々に潰しておくべきだ。


「私達はただ、無意味な血が流れるのを嫌っているだけですよ。考えすぎです」

「問答無用でアルゴウスを滅ぼした者の言葉とは思えませんね」


 才上は反論するが、すかさず陛下も切り返す。


「私見ですが、リフレイ王国には確かな新たな魔法兵器が存在するのでしょう。しかしながら、連続運用するには時間がかかる、もしくはもう使えない……故に脅迫という形で他国を牽制し、時間を稼ぎたい。軍同士をぶつける通常の戦争は費用がかかりすぎますからね、気持ちは分かります」


 まるで名探偵のような推理だ。

 勿論、あくまで仮説でしかない。

 真実は知りようが無いだろう。


 けど、俺は陛下の言葉は真相に近いと思っていた。

 少なくとも陛下本人も事実と信じている。

 確かに魔法兵器の存在は厄介だが、皮肉にもこのタイミングでリフレイから使者がやって来た事で直ぐにアルゴウスの二の舞になることは無さそうだ。


 さあ、才上はどう出る……?


「……く、くくっ」


 彼は……笑っていた。

 俯いたまま、堪えるように。

 不気味な笑い声が謁見の間に轟く。


 そんな才上に、ファウストが語りかけた。


「なんだ、キョウジ。我慢できないのはお互い様じゃないか」

「––––ああ、そうみたいだな」


 顔を片手で覆いながら、才上は陛下を睨む。


「いやあ、流石は一国を預かる王だ。所詮ただの学生に過ぎなかった俺の考えなんて、お見通しか」

「……何のつもりです」

「腹を割って話す気になったんだよ」


 ニタリと、彼は凶悪な笑みを浮かべる。

「俺の考え」と、才上は言った。

 それではまるで……


「俺が今のリフレイ王国の王だ。革命ってのは、俺とその仲間で起こした国の乗っ取りだよ」

「っ!」

「キョウジ、バラしていいのか?」

「問題ねえ。どうせいつかは露見する」


 やはり、そうか。

 今の才上京児は異世界の勇者でも無ければ、リフレイ王国の使者でも無い。


 頂点に君臨する『王』。

 それが彼の、今の肩書きだった。

 驚いたが、動揺はしない。


 慌てたところで事態は好転しないからだ。

 才上はいつのまにか王になっていた、それだけ。

 俺のやるべき事は変わりない。


「その様子ですと、偽りでは無さそうだ。では何故、王たる貴方自身がこのような場所に?」

「俺は基本的に、他人を信用しない。絶対に失敗出来ねえ仕事は自分でやる主義だ。ま、今回は少しばかりしくじる結果になったが」


 その割には、まだまだ余裕のある態度だ。

 チラリと陛下にアイコンタクトを送る。

 それに対し、陛下はこくりと頷いた。


「才上、用が終わったならさっさと帰れ。陛下が今の考えを変える事は無い」


 才上とタイダル陛下の間に入らながら言う。


「矢野……はっ、まさかお前があの光山を殺したなんてな。人は見かけによらねえな、ほんと」

「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ。こっちの世界に来てから、何があった?」


 すると、才上はふざけた笑みを潜めた。


「……勘違いしてるようだから、言っておく。俺は元々、こういう性格だ。何かあったとしたら、それは過去以外にはあり得ねえ」

「今のお前が、本来の姿って言いたいのか?」

「そうだ。馬鹿な連中とくだらねえ社会で生きるには、仮面の一つや二つ被っとかねえとな」


 理屈は分かる。

 人は誰しも、本心を隠して生きているのだから。

 奴の場合、その落差が人より激しかったのだろう。


「交渉の続きだ、フェイルート王。アンタも戦争は金ばかりかかる面倒事だと思ってるクチだろ? だが国家間の諍いの行き着く先は戦争しかねえ、なら……代表戦で決めるってのはどうだ?」

「代表戦……?」


 才上は得意げに続ける。


「互いに代表者を選び、そいつらを戦わせる。勝った国が負けた国を属国にして支配できる……どうだ?」


 彼の言う代表戦は分かりやすいものだった。


 要は戦争の縮小版。

 万単位の兵士をぶつけ合うのではなく、少数精鋭同士で争わせる方法。


 確かに戦争の被害は格段に減るだろう。


「成る程、良い提案です。しかし……」


 タイダル陛下が右手を上げる。

 それは合図だった。

 直後、謁見の間に複数の魔法陣が展開される。


「もっと分かりやすい方法があります。今ここで、貴方を捕縛するという方法が」


 魔法陣から現れたのは、武装したゴーレム兵達。


 加えて彼女が使役していた複数匹の魔獣。

 更には扉が豪快に開け放たれ……兵士が雪崩のように次々と謁見の間へ入って来る。


 その面々の中にはロマノフ団長や木村も居た。

 彼らは才上とファウストを中心に、円を描くように二人を取り囲んで追い詰める。


「私も国を預かる身。敵の王と近しい者が来るのなら、これくらいの準備はして当然。最も、釣れたのは王本人でしたが」


 タイダル陛下は立ち上がりながら言い放った。


 そう、これは最初から想定されていた事。

 万が一に備え、エストリアに頼んで謁見の間に沢山の魔法陣を仕込み……外には兵士を待機させていた。


「リフレイ王、そちらの護衛が手練れなのは私にも分かります。ですがこの数を相手にすれば、貴方を守り切りながらここから脱出するのは至難の業……投降するのなら、今の内ですよ」


 タイダル陛下の言葉に合わせ、俺も聖剣ユニヴァスラシスを鞘から抜いて構えた。

 これは国家間の政治と戦争。


 リフレイ王国は既に他国を侵略している。

 卑怯な手段とは思っていない。

 奴らは一刻も早く捕らえるべきだ。


「……だ、そうだ。どうするキョウジ? 私は暴れたくてウズウズしているとだけ言っておく」

「お前はそればかりだな、ファウスト。しかしまあ––––責任ある立場ってのは、どいつもこいつも似たような事を考えるもんだな」


 パチン。


 才上がおもむろに指を鳴らす。

 瞬間––––謁見の間の天井が一部崩れる。

 否、正確には……破壊された。


「っ! リフレイ王! 一体何を!」

「そう焦るな、あんたと同じ事をしただけさ」

「まさか……!?」


 天井には大きな穴が空いていた。

 数秒後、穴の奥から続々と人が降りる。

 全員白を基調とした衣服を纏っていた。


 彼らは謁見の間に降り立つと、才上を守るように囲んで陣形を組む。

 全員、只者ではないオーラを放っていた。


「くく……お互い同じ事を考えていたとはな。案外気が合うのかもな、俺達」

「っ……」

「で、どうする? ここで始めるか?」


 白服連中の殺気が高まる。


 俺らも負けじと睨み返すが……正直、分が悪い。

 奴らに対抗できそうなのは俺とロマノフ団長と、あとは木村くらいだった。


 どうする……と、考えていた時。

 数人の白服連中が声を発した。


「当然、死合うべきだ。ここまで役者が揃って舞台の幕を上げない劇団は存在しない」

「ヒハハハッ! もうめんどくせえ! コイツら全員ぶっ殺せば終わりだろお!?」


 ファウストと、もう一人。

 額に傷を持つ青髪の巨漢が一歩前に出る。

 彼の右腕はなんと機械仕掛けの鉄腕だった。


 ふと、思い出す。

 リクを捕らえた人物の特徴を。

 青髪の男はその特徴と一致していた。


 まさか、こいつらの正体は。

 俺は確信を帯びた声音で宣言した。


「お前ら、ホワイトグリードだな」

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