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低級魔法を極めし者  作者: 下っ端労働者
第3章:聖剣に選ばれし者
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102話・宣戦布告

 

 迷宮攻略から数日後。


 俺達は勇者の里から旅立とうとしていた。

 一度フェイルート王国に戻り、聖剣を手に入れた事をタイダル陛下に報告する為だ。


 それから愚かにも俺達に暗殺者を差し向けた貴族についても、何か進展があるかもしれない。

 戻るのにも一ヶ月かかるし、早めに出立しないと時間ばかりを浪費するからな。


 因みにケルベロスは一足早く退去した。

 契約者に召喚された使い魔は、元居た場所まで瞬時に帰れるから便利だよなあ。


 まあそんなワケで、魔導馬車に諸々の荷物を積み終えてあとは出発するだけになった頃。

 里の住民が見送りにやって来てくれた。


 代表して久保安一家が俺達の前に現れる。


「なんか寂しくなっちゃうなー、外からの客なんて、滅多に来ないし……」

「時期が来れば、嫌でも会う事になるさ」

「ま、それもそうね」


 俺もベリィーゼも、存外別れを惜しんでない。

 またすぐに再会する事を予感していたからだ。

 世界の危機は、これから本格始動する。


 勇者の里の面々はその為に備えてきたのだから、当然矢面に立って戦うだろう。

 なら、近い将来にまた会える。


 俺は右手を彼女に差し出す。

 この里に来た初日の事を思い出しながら。


「今日までありがとな、色々と助かったよ」

「こっちこそ、久し振りに楽しかった。あ、柔の魔力操作法は毎日練習しなさいよね? あれ、サボると直ぐ出来なくなっちゃうから」

「ああ、肝に命じておくよ」


 続けてベリィーゼはドールやエストリアとも握手を交わし、別れの挨拶をそれぞれに告げた。

 俺はその間に里長と話す。


「優斗様、貴方様のおかげで里の士気も上がりましたわい。どうかお元気で」

「里長も、元気でな」


 滞在期間は短いようで長かった。

 懐かしさを覚える街並みに食事。

 何より先代勇者との遭遇。


 濃い毎日だったな……本当に。


 でも、楽しかった。

 最初は疑われたりもしたけど、真実が明らかになった後は皆んな優しくしてくれたし。


 居心地の良い所だったと思う。

 やっぱり現代日本と似ていたからか?

 フェイルートは第二の故郷だけど、外国の雰囲気はどうしても拭い切れない。


 もし、終焉の赤龍を倒して世界が平和になったら。


 老後はこの里で暮らすのも悪くないな。

 生まれるであろう子供や孫に、俺の本来の故郷を知ってほしい……そんな願望が芽生えつつあった。


 やはり、元の世界への未練は消えないか。


「勇者様、お体に十分気をつけてください」

「ありがとうございます、ストロさん」

「差しでがましいお願いですが……もし何かあった時は、お仲間の皆さんを頼ってください。私の夫のようには、なってほしくありませんから……」

「ストロさん……はい、分かりました」


 彼女は死んだ夫と俺を重ね合わせているのか。

 心底心配そうにしながら仲間を頼れと言う。

 光助にも言われたな、それ。


 だから、大丈夫。

 俺はもう絶対に、一人で抱え込んだりしない。

 元より他人に頼ってばかりだけど。


「エストリア、ゴーレムホースの状態は?」

「良好かしら。いつでも走れるわよ」

「よし。それじゃあ––––」


 俺は集まってくれた住民全員に聞こえるよう、沢山の空気を吸ってから大声をあげた。


「皆んな! 今までありがとう! 次会う時まで、俺はもっと強くなる! だから皆んなも強くなっていてほしい! そして……必ず一緒に、終焉の赤龍を倒して世界を救おう!」


 一瞬の静寂。

 直後に大歓声が返ってきた。

 皆、思いの丈を吐き出している。


「ウオオオオオオオオッ!」

「勇者様あああああああっ!」

「俺、絶対今より強くなりますからああああ!」


 そんな大歓声を浴びながら、俺達は里を去った。


「優斗ー! 何か困った事があったらー! アタシ、直ぐに駆けつけるからー!」


 里で一番親しくした友人の声が轟く。

 ありがとう、ベリィーゼ。

 その時は遠慮無く、頼らせてもらおう。


 俺は馬車の窓を開け、身を乗り出しながら叫んだ。


「その時はこき使ってやる! だからお前も! 元気にしてろよなー!」






 ◆






 勇者の里を出ておよそ三週間後。

 俺達の乗る魔導馬車は、無事にフェイルート王国の王都へ到着しようとしていた。


 行きと違ってユナオンに寄り道する事も無く、最短最速で来たからかなり早い帰路だったと思う。

 道中、トラブルに巻き込まれる事も無かったし。


 盗賊や暗殺者はもう懲りごりだ。


 なんて考えながら検問所を通ろうとする。

 いつもなら王家のペンダントを見せて終わりだが……今回はいつもと様子が違った。


「勇者ユウト殿! タイダル陛下より、至急王城へと言伝を預かっています!」


 在中していた兵士が焦ったように言う。

 俺達が王都に戻って来たら、直ぐに王城へ向かうようタイダル陛下から直接告げられたようだが。


「何かあったのかしら?」

「分からない……とにかく呼ばれているなら行こう、どっちみち陛下とは会うつもりだったんだし」


 多少の不安を抱えながら、魔導馬車を走らせる。

 その途中、妙な違和感を覚えた。

 胸がざわつき、背中には冷や汗が流れる。


「なんか……騒がしいな」

「うん、いつもと違う」


 ドールも異変を感じたのか、表情を硬ばらせる。

 年中活気に満ち溢れている王都。

 今日も騒がしいが……雰囲気が違う。


 騒々しいと言うべきか。

 焦り、不安、恐怖……そういったマイナスイメージな感情が渦巻いていた。


 やはり俺達の留守中に、何かあったのか。


「エストリア、もう少し速度を上げられないか?」

「可能よ、けどその分魔力消費が激しくなるわ」

「構わない、今は一刻も早くこの状況を知りたいんだ。飛ばしてくれ」

「ユウト君がそう言うなら」


 エストリアは遠隔操作でゴーレムホースの設定を弄ったのか、格段に移動速度が上昇した。

 相応に俺の魔力も削られているが、まだ問題無い。


 それから数十分後。

 王城に辿り着いた俺達は、城の使用人に案内され陛下の執務室に通された。


 数度ノックすると「どうぞ、鍵はかけてません」という言葉が返ってきたので、遠慮無く扉を開ける。

 陛下は自らのデスクで書類仕事をしていたが、俺達が入って来たのを確認するとペンを置いた。


「陛下、ただ今戻りました」

「ご苦労様です。成果のほどは……流石ユウトさん、聞くまでも無かったですね」


 陛下は俺の腰に差していた聖剣を見ながら言う。


「三人とも、既にお気づきでしょうが……王都は今、かつてない混乱に襲われています」

「一体何が起きたんです?」

「……」

「陛下!」


 言葉にするのも躊躇う程の事なのか?

 思わず声を荒げて催促してしまう。

 そんな俺の想いを汲み取ったのか、陛下は遂にゆっくりと口を動かした。


「先日、リフレイ王国が突如全世界に対し、宣戦布告をしました。その二時間後……アルゴウス王国が、リフレイの保有する謎の魔法兵器の攻撃に遭い、首都が壊滅しました」

「なっ……!」


 今度は自らの言葉が詰まる。

 宣戦布告。

 それはつまり……


「戦争……」


 ポツリとドールが呟く。

 視線を横にズラすと、彼女も不安そうにしながら杖を強く握りしめていた。


「エルザ様の言う通りです。各国は既に戦時体制へ移行しています、何せ既にアルゴウス王国が被害を受けていますから」

「そのアルゴウスはどうなったのかしら?」

「リフレイの手に落ちたようです」

「そう……三大国家の内の一つを……随分と迅速ね、ずっと前から計画していないと不可能だわ」

「はい、厄介極まりないです」


 エストリアの言う通りなら、リフレイはずっと前から戦争をする為に準備をしていたという事になる。

 世界の危機が訪れようとしている、今この瞬間に。


 或いは……世界の危機で各国が混乱しているからこそ、戦争に踏み切ったのかもしれない。

 漁夫の利を得るように、世界を手中に収める為。


 なんて奴らだと思っていた時。

 陛下は一層重々しく告げた。

 信じたくない、最悪の事実を。


「……しかも、リフレイが次に狙うと公言している国は––––我らがフェイルート王国です」

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