紙製品の便利さ
卯咲子に近所を見せてもらった雪樹。
それだけでもこの世界の文明には驚いていた様子。
それから日も落ちる頃、碧流が戻ってくる。
雪樹が一緒に住む事になったので、食材の買い出しをしてきたようで。
「さて、サッと作るから待っててね」
「お前、料理が出来るのか」
「凝ったものは作れないけどね」
そんなわけでエプロンを身に着けキッチンに立つ。
そこで手際よく食材を捌いていく。
「そういえば雪樹って猫の亜人だよね?玉ねぎとか大丈夫?」
「亜人だから問題はない、獣人なら命に関わっていたがな」
「亜人と獣人ってどう違うの?」
「亜人は人間の特徴が強い、一方で獣人は獣の特徴が強い」
「分かった、なら問題はなさそうだね」
とりあえず確認はしたので、大丈夫そうだ。
そのまま肉野菜炒めと味噌汁を作る。
それを紙製の器に盛り付けて完成だ。
「はい、出来たよ」
「この皿や器は紙ではないか、大丈夫なのか?」
「紙製品なら洗い物が減らせるからね、調理器具だけ洗えばいいから」
「この世界は紙製の器まであったとは、驚くものだ」
「さて、食べようか」
食べようとするとインターホンが鳴る。
どうやら上の階の凛音が来たようだ。
恐らくという事もあり、扉を開ける。
「凛音さん、また持ってきたんですか」
「はい、今回は蒸し鶏の照り焼きですよ」
「いつも、ではないですけど、すみません」
「いえ、趣味ですから、メンバーの他にも食べてもらいたいんです」
「とりあえずいただきますね」
すると雪樹が顔を覗かせる。
凛音も二郎から話は聞いている。
とりあえずは初対面の挨拶をする事に。
「あなたが二郎様の仰っていた雪樹様ですか、凛音と申します」
「雪樹だ、これから世話になる」
「はい、それにしても本当に猫の耳と尻尾なんですね」
「そういう種族だからな」
「ではこれからよろしくお願いしますね」
お辞儀をして凛音は自分の部屋に戻っていった。
上の階の部屋は凛音を含む5人がそれぞれ住んでいる。
部屋の空きはまだ余裕があると二郎は言っている。
「さて、それじゃ今度こそ食べようか」
「うむ、ではいただくとする」
「ん、やっぱり自炊が一番だね」
「お前、料理が上手いのだな、意外だったぞ」
「俺も凝ったものは作れないよ?あくまでも最低限のもの程度かな」
とは言いつつも雪樹もそれを美味しそうに食べている。
雪樹の世界では世界レベルで国が困窮していた。
なのでこういったものでもご馳走なのだ。
「そういえば雪樹、お箸の使い方が上手いね」
「一応忍者だからな、和食文化で箸は得意だぞ」
「そっか、和食が得意だから自然とお箸も上手いのか、文化ってやつかな」
「そんなところだ、それと凛音の持ってきた蒸し鶏の照り焼きは実に美味しい」
「凛音さんの和食は美味しいんだよね、料理番組とかにも呼ばれてるらしいし」
凛音を含む5人はアイドルロックバンドをやっている。
その関係で芸能の仕事もやっているので、結構多芸なのだ。
他のメンバーも各自仕事をしているので、全員揃うのは意外となかったりするが。
「そういえばあれはなんだ?」
「テレビだけど、まあ見るとしても録画したものぐらいなんだけどね」
「テレビ?」
「こういうのだよ」
「中に人、というわけではなさそうだな」
流石にそういった事は感じない様子。
簡単に説明して、雪樹もなんとなく納得した様子。
つまりは大衆に向けて情報を伝えるものだという事だ。
「ご馳走様」
「美味かったぞ、これならたくさん食べられる」
「それはどうも、それじゃ片付けようか」
「紙製の器ならそのまま捨てられる、使い捨てとは恐れ入るものだ」
「紙製品はそこまで高くないし、量もあるから結構便利なんだよ」
紙製品、雪樹の世界では考えられない発想でもある。
紙自体はもちろん雪樹の世界にもある。
だが料理の器にして使い捨てるというのは驚いたようでもある。
「明日は大学は休みだから、服でも選びに行くよ」
「別にこのままでもいいのだが」
「一応こっちの世界に合わせた方がいいでしょ」
「それもそうだな、では頼む」
そんなわけで次は雪樹の服選びに行く事に。
幸い明日は夏花という上の階の住人が休みと聞いている。
なので彼女を頼ってみる事にした。
デザイナーとはいえ、そこは分かる人に頼るのが碧流のやり方だからである。