壊れた心
さすがの先生もその光景には驚きを隠せなかったみたいだ。寸分違わず存在する伊豆家は、恐らく地上にあった建物をそのまま移築したのだろう。
だけど今注視するべきは…もともと伊豆家には地下牢への扉。そう、鈴音さんが昔いた生き神が作られる場所…完全に封印されていた扉が解かれている。
「封印するにしても完全に壊して再生出来ないようにするべきだったか」
地下への扉は、当然の様に先生の目の前に存在していた。
先生が手を翳すと、鍵はガチャリと難なく開いた。
「嫌な予感しか無いな…当主のみが開く事が出来る地下牢への扉がそのまま開くと言うことがな」
その途端に鍵が開いた事での警戒か…それとも奥の方で何かがあったのか、それまで静かだった屋敷内がざわめきだす。人が居ないような様子が一変し、バタバタと人の足音や掛け声がきこえる。ここの屋敷にはかなりの人数がいるようだ。
「嫌な予感しかしないが、降りる以外の選択肢がないらしいな」
独り言と溜息が多くなりながらも、躊躇せずに、弥生が無事でいる事を願いながら地下牢へと降りていく。
長い階段の先に、先生自体も当主としての記憶でしか知らない地下牢が目の前に現れた。そこには確かに弥生はいた…が、先生は姿を確認した途端に絶望的な状況だと確信した。
弥生の姿は生き神と言うよりも、鬼…。
ボサボサの頭からは角が生え、口からは牙が見える。グルグルと唸ってはいるけれど、目は虚ろで視点が定まっていない。
弥生だと判るのは、腕に付けたままの石のブレスレットがあったからだ。
「やってくれたな」
「飛び込んで来たのはあの子ですよ」
先生が怒りの言葉を発した途端に、誰もいない空間から返事が返ってくる。
「弥生を夏の虫みたいに言うな。姿くらい現したらどうだ羽島」
「私が姿を現したら、彼女が暴れだしますよ。生き神としては成功しましたが、少々暴れ馬の様でしてね」
「くっくっく、まだあんたは乗りこなせていないと言うことか。俺の姿を見ても暴れないと言う事は、あんた相当嫌われてるな」
「そのうちそんな感情も消えますよ」
「そんな余裕与えると思ったか?」
「ありますよ。あなた達は弥生を救い出す為にいろいろと準備が必要ですからね」
「それも知っていたか。余程こちらの情報が流れているようだな」
先生の表情が険しくなる。
「流れたのがこの時代かそれともあちらの時代か…いや、他の時代もありうるか」
「どの時代か言うと思いますか?この私が」
羽島が楽しそうに笑いを噛み殺す様な声が聞こえる。
「だろうな…」
「でもお陰様で素敵な生き神様が完成したのですから、少しヒントをあげましょうか?」
「菜摘さん出ていらっしゃい」
そう羽島が声をかけると、奥のドアから一人の少女が現れた。
もそもそと近づいてきた少女は羽島の声がする辺りで止まると、涙を流しながら俯いている。
「君はもしかして…」
先生が覗き込もうとすると、びっくりしたようで後ろに飛び退いた。その顔は髪で隠れているけれど、確かに弥生と睦月の子供だった。しかし、先日窓から見た姿とは違い、かなり成長している。2年ほど経過している様だ。
「今の伊豆家現当主はこの子なんですよ」
「……そういう事か」
「そう、全部罠だったんですよ。幸せな時間からどん底に落とす。それが生き神にする為の条件の第一段階。あなたは私にそのチャンスを自ら与えてしまった」
「だろうな…大事な一手を俺は間違えた訳だ」
「そう言うことです」
羽島が未だに姿を現さない事に、先生は苛立つ。
「おい、そろそろ姿を見せたらどうだ。声だけで話す内容ではないだろう」
「暴れだしますよ。それでも良ければ」
そう言うと、羽島は薄らと姿を現した。
途端だった!
「うぐぅあぁぁぁぁ!!」
牢にいる弥生が叫びながら突進して来た。
ガッシャーン!と言う音と共に跳ね返り倒れ込む。それでもまた突進し続ける。
「弥生!落ち着け!俺がいる大丈夫だ!それ以上暴れるとお前が壊れる!」
羽島が言ってはいたが、これ程我を忘れた状態になるのは先生でも予想外だった。
牢越しに落ち着かせようと、声をかけ続けても弥生は全然落ち着かない。
「弥生っ!お願いだ!落ち着いてくれ!絶対助けるから!」
それでも牢に身体を当て続ける。
「やはり、まだ姿を現すのは無理なようですね」
そう言うと羽島は再び姿を消したが、弥生は気づかず暴れ続ける。
「弥生っ!」
叫ぶと同時に、先生は牢に腕を突っ込むと、弥生を牢ごと抱きしめた。
「大丈夫だから落ち着け…」
「うぅぅぅぅ」
腕から逃れようと弥生が藻掻いても、先生は離さなかった。
「落ち着いたら帰ってくださいね。私は行きますから」
そんな声が後ろからすると、羽島の気配も消えていた。菜摘ちゃんもいつの間にか居なくなっていた。
何とか今月も更新完了です( ̄^ ̄゜)
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